第48話 何もできない絶望感

 集落で生活して何年が経ったろう。

 億、で収まるかどうか。兆いっているかもしれない。

 集落は立派な街になり、侵攻してきたベールゼブブと敵対する構えを見せている―――少なくとも仲は悪い―――アスタロト領に吸収された。

 もちろん、亜空間の町として、である。


 プラトーン様に使えていた悪魔で、行くところがないものは、皆ここに集まった。

 私は村長―――現在は町長として街を治めている。

 歌い続けていた歌は、奇跡、と称賛されるに至っている。

 もっとも私はまだ満足はしてないが。もっと、もっとうまくなれるはず。


 能力の方は町に住む税金の代わりに、特殊能力や楽譜を要求(1回限りで良い)したので、わたしはまた強くなっている。

 最近では「時止めの間(中でどれだけ経っても、外では時間が過ぎてない)」を作り、使って修行している。能力アップは順調だ。

 ………毎日やる武道の稽古は全く身につかないのだが。


 初代魔帝陛下は1代魔帝に倒されて、代が変わり、1代期となった。

 わたしがラヴィに「私の氏族たちはどうしている?」と聞いたら「バール大公領に攻め入ろうとしているようだよ?」という。

 私の頭の中に、死んでゆく氏族たちの予見が閃いた。


 バール大公は南の「魔帝陛下に逆らって魔界の支配をもくろむ」大悪魔だ。

 勝てるはずはない。止めに行かなければ―――。

 私は適当な者に、選挙で町長の座を譲ると、町を飛び出した。

 外の事も知っていたが、それでも世間知らずなのが、いけなかったのだろうか?


 外に出た私は、引退ベールゼブブ領の悪魔に狙い撃ちにされた。

 何とかベールゼブブの勢力圏外までは飛んだ。が、そこで力尽きた。

 最期の力で『教え:大地同体』を使って大地と一体化する。

 大地は、魔帝の体。追っ手も地面を攻撃する事は出来なかった。


 私は「休眠」状態に入る。

 どんなものか。身動きできない状態で、徐々に体に血が戻って来るのである

 本当に徐々になので、私には何もできない。

 血族たちを止めることはもちろん、止めて欲しいと誰か(この場合ラヴィになるか)に頼むこともできない。辛うじて遠見は使えたが………。


 ヘパエイトスに指揮された血族―――曰く、聖戦―――はベール大公に全く敵わなかった。大公に部下がいなければ万一もあり得たろうが。

 ベール大公は挙兵の段階で、すでにこちらの事を知っていた。

 そして戦士の氏族は根絶やしに。癒しの氏族もそれを助けようとして道連れに。

 わたしのかわいい「子」は、所在不明のアンナを除き皆死んだ。


 また、運命は私から大切なものを奪ってゆく。

 悟りの氏族は、エレオスの念話が届いたとかで、参加を見送っており、無事だ。

 というか、その念話は、ヘパエイトスにも、私にも届いていた。

 愚かなことをするなという戒めの言葉だったのだが、ヘパエイトスは無視した。

 エレオスに会ったこともないのだから当然かもしれない。

 だが結果、「悟り」以外の氏族は滅んだ。


 私は遠見を使って、休眠時間に魔界中を見て回った。

 アンナは、魔の森と呼ばれる移動する森に住んでいた。

 そこの住人とコミュニティを作り上げている。

 能力も私に迫るほど上がったようだ。彼女は彼女で苦労してきたのだろう。


 「悟り」たちは、1代帝が作った役所のシステムに登録し、許しを得ると人界に旅立って行った。父祖の地を見に行くのだと言って。


 ………やがて、長い時が経ち、魔界は変化していた。


 74大魔王というものが制定された。

 74人の実力者で、参内義務がある。各領地に10人程かな?

 よく、より強い者に倒されて入れ替わりがおこる。

 7大魔王(レヴィアタンやアスモデウス等)もそう。名前は役職名なのだ。


 私の住んでいたところは「引退領」の一部になった。

 この時点での引退領はルキフェル、ベールゼブブ、アスタロトの3つだった。

 

「現代領」というものができた。これは8つの領地で出来ている。

 「大罪」が7つより多いからだ。

 丸い「現代領」は、ケーキのように切り分けられた形をしている。

 

 南から順に、「魔帝領」陛下の直轄であり、住まう住民のほとんどが「傲慢」の罪 を体現している「傲魔」であり、恐ろしくプライドが高い。

 次は「レヴィアタン領(海魔領とも)」で、「嫉妬」の大罪を体現している。

 3つ目は「アスモデウス領(淫魔領とも)」「淫行」と「虚実」の大罪を。

 

 さて4つ目は「ベールゼブブ領」住民は虫か爬虫類の姿が多い(人化もするが)。

 大罪は「暴食」と「腐敗」だ。「腐敗」系はあまりいない。

 主に「暴食」系統の住民が多い。


 5つ目は「アスタロト領(賢魔領とも)」「知識欲」の大罪を司っている。

 みんな主に地下で、研究に打ち込んでいるが、たまに作品が暴走したりしておかしな事に、いや、おかしなことを通り越してとんでもない被害が出たりもするか。


 6つ目は「マモン領(権魔領とも)」「権力欲」「金銭欲」の大罪を司っている。

「権魔」は「金魔」を見下しており、主に家柄が重要になって来る。

「金魔」は身分だけで、金を持ってない者は相手にしない。身分を買う事もあるが。


 7つ目は「ベルフェゴール領(夢魔領)」大罪は「怠惰」だ。

 街は静まり返っている。皆夢の中に入り、そこで怠惰に暮らしているからだ。

 たまに体のメンテナンスのために起きて、寝てる間の実の安全を確保するために結界を張り直していたりする。


 最後は「べフィーモス領(戦魔領)」大罪は「憤怒」だ。

 いつも怒っているわけではない。ただ短気なだけである。


血が回復し、動けるようになった私は、亜空間から血の樽を呼び出して飲む。

わたしも役所とやらに登録して、現代領で過ごしてみよう。

そう思って。

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