第46話 緋雪との出会い
わたしは、後進の指導にあたり、忙しくしていた。
何万年もの時が経ち、癒しの氏族はすっかり定着していたので、私は新たな知識を求めて旅立ちたいと思っていた頃だった。
ディアボロスが消えたのだ。
リリス様によると『休眠』に入ったのだろうという事だったが、私を置いていくなんて、酷いわディアボロス。
仕方なく、彼の「子」は、私の下で魔術を学ぶ事になった。
そんな時に現れたのが
こともあろうに、リエゴの氏族「魔術の氏族」だった彼女。
私は最初彼女を追いだしたのだが、土下座して言われたのだ。
「リエゴ様が何を考えておられるのかは私にもわかりません。ですがあなたの「癒しの教え」は軟弱なものが多い我が氏族で絶対に必要とされるもの。どうしても、教えていただけないでしょうか。私も自分で作った『教え』を提供します。何よりヴァンパイアになって間もない初めての娘に、出来るだけの事をしてやりたいのです」
そう言われて心が動いた。
彼女自身はリエゴに献身的で、必死で「魔術の氏族」を守るために動いていることも知った。「魔術の氏族」の内情も流してくれるという。
「リエゴについては定期報告を求めるけど、基本関係なく、あなたとあなたの「子」らに限定するなら教えてもいいわ」
彼女は憎めなかった、とても一生懸命だった。
「何故リエゴにそこまで献身するの?」
「私の元の種族はドッペルゲンガーで、鏡でした。それが天使(新しい星の住民)を写し取ったのですが、上手く写し取れず。死にそうになっていたところをリエゴ様に救われたのです。私はヴァンパイアに種族が変わる事によって救われました。命の借りが、リエゴ様にはあるのです………」
「最近の様子とか、私に流して。約束するなら、癒しの『教え』を伝授するわ」
「はい!そんな事で良ければ喜んで!」
こうして彼女は私の生徒になった。
これが緋雪と彼女の「子」に『教え』を教える事になった経緯だった。
ちなみに彼女からは『同族喰を暴く』『動物会話』『魔法持続』を教えて貰った。
エレオスは時々人格を乗っ取って喋る事があるらしい。
リエゴの氏族を使って何をするつもりなのだろう。
リエゴの氏族は、それを神託と受け止めて、その通りにしているようだが。
私は緋雪への『教え』全部を教え終わり(ほとんどの教えだ)手が空く。
またさまよってみようかな?
そうしよう。
私は多くの人に惜しまれつつ、ヴァンパイアの里を出た―――。
「悪魔にならない?」
その誘いは、唐突にやって来た。
朝寝ようとしたら、そこには、ブロンドの王子様がいた。
ステキな人だ―――後で相手の「理想の姿」を映し取ってしまうという、自力制御困難な能力だと聞いたが―――私の好みってこんなのだったんだね。
前に言っていた新しい星、それがとうとう完成したが、悪魔は人員不足らしい。
天界と、人界を挟んで対になる位置に魔界はある。
私も、あれだけ大虐殺しておきながら、人のままで居るのは、どこか変だと思い続けてはていた。悪魔か………相応しいかもしれない。
「私は1代期から時を越えて来た。けど、行ってもらう魔界は混沌期。存分に力をつけてもらえるよ。危ないけどね」
「そこでは私は、どれぐらいの実力なの?」
「まだまだ中級悪魔だね。話を受けてもらえるなら、あなたの弟子も悪魔認定するよ?それに、主要なヴァンパイアはこの話をもう受けてくれた」
「アリケルやジャントリーなんかはいる?」
「勿論!勧誘して来ましたとも」
「みんなが所属を「魔界」という星に変えるなら、私と、私の氏族も変えるわ」
「では今から貴女は悪魔!登録しておきますね。13氏族はコンプリートです!」
「ちょっと!真空空間があるのにどうやって行けばいいの?」
「術をお教えいたします」
こうして私は「特殊能力:界渡り」の能力を得た。
これで宇宙の渡り方が身についた。どの星にもいけるはずだ。
「あなたの名前は?アスモデウスで通っていますが、本名はラヴィです」
「アスモデウス?何か騙してないでしょうね?」
「今回は、人員確保のために真面目に動いていますよ?」
「そう………。ラヴィ。私はレイズエル。レイで良い。これからよろしくね」
「はい。あ、でも、貴女が跳ぶのはまだ私が居ない時間軸ですけど」
私は界渡りと共に、時間も超えてそこに来た。
どおん、どおんと巨人が異世界の神と戦っている。
見つめていると正気を失いそうなので、そこからは目を逸らす。
運んで来られたのは荒野である。
「もうすぐ、プラトーン様がここを通ります。拾ってくれるでしょうから、歌っていてください。私は未来に帰りますので………」
言われた通り、歌ってみる。
この黄色い砂の所においで
そして手を取ろう。
おじぎをしてキスをしたら
(荒波が静まる)
ここかしこできれいに踊ろう。
そして美声の妖精よ、歌を歌え
聞いて、聞いて!
ワン、ワン!
番犬が吠える
ワン、ワン!
聞いて、聞いて!聞こえるよ。
気取った雄鳥の歌声が響く
コケコッコー。
おや………?
貴族の行列が、私を見て足を止めた。一番偉そうな人から声がかかった。
「お前、いい声をしている。うちで歌わせたいな………お前、私の下で働け」
「いいんですか?歌う事と魔術以外にとりえがありませんよ?」
「構わない、私が気にいったのだから。宝物庫の番人として働くように」
「またプラトーン様の気まぐれが始まった」
「今回はある程度実力がありますし、いいのでは?」
「そうだな、それに美しい容姿と、歌は一級品だ」
私は同胞たちの状況を知りたかったけれど、ここは黙っておく。
この方はプラトーンというのね。実力者みたいだし………
宝物庫の扉に案内された私は、ただ戸惑うばかりであった。
「宝物館には、お客様も来るが要らない客も来る。撃退してくれ」
中級悪魔には荷が重くないですかと言ったら、
「教師をつけてやる。お前を気に入った。高能力者になれ」
「わかりました、願ってもない事です」
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