第45話 ヴァンパイアの谷
「セーラム連合」が締結してから。
私たちは100年ほどその推移を見守った。
分裂の危機は何度かあったが、私達はその度に姿を見せ、戦争推進派の者を殺したりしたので「セーラム連合」は徐々に強固な連帯感を持つようになった。
もう大丈夫だろう、だが一抹の不安が残るので『特殊能力:分体作成』で、自分の分体を作った。分身との違いは、設定した性格で自立行動できる点である。
時間が経てば、製作者から独立してひとつの「個」になることもあるとか。
グレイス先生の残してくれた魔法書で習得した特殊能力のひとつだった。
分体の名前は「デヴィル」とした。
自分の片手片足を切り落とし―――ディアボロスが手伝ってくれなければ無理だった―――その体の分だけ分体に力を与える。
私はヴァンパイアだ、どうせ欠損部位はすぐに再生する。
私は「デヴィル」に、戦争が始まる気配があったら、抑止力として活動する事を命じた。後は自由にさせる。その訳は、分体はヴァンパイアではなかったためだ。
寿命は私が定めない限り、ない。死にたくなったら連絡を寄越せと言っておいた。
私と分体は魂でつながっている。
通信は自由だし、お互いの目でものを見たり聞いたりできる。
とりあえずは分体「デヴィル」に「セーラム連合」を任せる。
私はディアボロスを連れて「ヴァンパイアの谷」に帰る事にした。
ディアボロスが2000年は帰っていないなどと言うからである。
ディアボロスの「血親」はリリス様。
あの方の事だ、さぞ心配して下さっているだろう。
「『上級無属性魔法:テレポート』2倍がけ」
私たちは、ヴァンパイアの谷の入口に出た。
谷の門兵はグールの仕事らしく「血族か?身分は?」と聞いてきたので
「エレオスの娘、ライラック=レイズエルです」
「………リリスの子、ディアボロスだ」
と名乗ったら平伏された、やめてよもう
「レイズエル様、あなたのお子様が13名、谷に滞在しておられます」
「大変な知らせもありますので、リリス様にお聞きください」
「私の「子」は迷惑をかけてない?」
「自分で血を作り出せるそうで、たまに周囲の村に首を嚙みに行く程度ですから、全く迷惑には思われていないと思います」
「そう、ありがとう」
とりあえずディアボロスに言ってリリス様の所に急がせる。
リリス様はすぐに会って下さった。
「ああ、懐かしのディアボロスに、歌姫よ!今までどこに?」
私はイザリヤと共にここを離れた時から今までの経緯を話す。
「ディアボロスが封印されていた経緯は分からないのね、でも、いいわ。こうして会えたんだもの。歌姫はここを離れていた間も歌の修練をしていたのでしょう?」
「はい、もちろんです」
「ああ、それより、大変なことがあるのよ。可愛いエレオスが、リエゴに食われてしまったの!同族喰らいよ!おぞましい!」
「………えっ?」
同族喰らいは知っている。
ヴァンパイアがヴァンパイアを『吸いつくす』事があり、これを同族喰らいという。
相手の力と魂を吸い取って自分にものにしてしまう邪法だ。
もちろん『吸いつくされた』ヴァンパイアは滅びて―――!!
「リリス様、仇を取りに行きます!」
「やめなさい!貴方では勝てないわ!」
ディアボロスが走り出そうとする私を抱きしめる。
「エレオスには何か考えがあったはずよ。いかに休眠中(ヴァンパイアでいう冬眠。血不足や瀕死の時になる)であったとはいえ、あの子は特に何かがあって休眠したのではなかったのだもの。喰われるためと考えていいと思うわ」
「喰われるため………逆に乗っ取るとか?」
「そうかもしれない、私にはエレオスの考えが分からないわ」
「わかりました………エレオスを信じます。………でも許せはしません」
「ディアボロス、あなたの「子」も2人喰われているわ」
「………俺は、請われて抱擁しただけなので、どうとも」
「でも残りの「子」等はリエゴを敵視しているわ。覚えておきなさい」
「分かった」
「あなたたちのいない間に、他に変わった事といえば、エルカゴが行方不明なのと、アリケルが国を捨てて、この谷に住んでいる事と、ノスフェラトゥが配下に打ち取られた事、プレイヤー・ソウ・ヒフィニンの三者が谷を出た事よ」
「………かなり変わっているのですね」
私とディアボロスは、それぞれの「子」を見に行くために分かれた。
「ヘパエイトス!」
「お母さん!」
わたしたちはしっかりと抱き合い、お互いの感情を確かめ合った。
「あの後、どうなったの?」
「アンナお姉さんはどうしているか分からないけど、他はシーゼとロッテを中心にまとまっているよ。俺はまだ若輩だから自分の氏族や『教え』は作っていないけど」
「そう………ならあなたとシーゼとロッテに、集中的に『教え』を伝授するわ。しばらくは教育の為にこの谷に居るようにする」
「本当かい、お母さん!」
「あと、誰か戦う者の氏族(ゴウガーの氏族)の人に頼んで、あなたを鍛えて貰えるようにするわ。出来たら私も参加したいけど………」
「ありがとう、お母さん。ずっといてくれたらいいのに」
「ずっとは無理だけど、しばらくいるつもり。アリケルも寂しがってるだろうから」
この間ずっと、私はエレオスがいてくれたらいいのに、という感情を振り払えずに―――怒りと寂しさに振り回されて―――いた。
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