第44話 巨悪になる決意
私は現状をディアボロスに語って聞かせた。
彼が私と同じヴァンパイアだという事も説明する。貴方は私の叔父だとも。
「そうか………ララ、教えてくれて感謝する」
「いいの、それよりも地上の状況を何とかしないと」
「案ずる事は無い。私が全てを血の海に変えてやろう。それとも自分でやりたいか?ならば私はお前の力を『増加』してやれる」
「ディアボロスに任せる。私は、私の事を攻撃してきた相手にのみ反撃するから」
「いいだろう。追っ手はすべて殺す」
そう言うとディアボロスは私をひょいっと持ち上げ、肩に乗せる
私はディアボロスの角にしがみついた。
「追っ手を潰した後はどうする?」
「………考えたいから、一度荒野に出てくれる?」
「いいだろう」
彼はそのまま浮き上がって、天井をすり抜け、路地に姿を現す。
「いたぞ!弓兵、こっちだ!」
「笑止」
ディアボロスはそう言うと片手を振る。
次の瞬間、弓兵たちは炎の柱と化した。
「バケモノが2匹に増えているぞ!総員、我に続けぇー!」
今度は歩兵の1団が押し寄せてくる。
エレオスごめんね、戒律を破る。
「私が攻撃する!」
「威力を増してやるから、やってみろ」
「『上級火属性魔法:インフェルノ!』」
私が放った炎の波は、ディアボロスにより全ての兵を包み込むほど大きくなった。
追っ手は業火にまかれて全滅した。
罪悪感は、無かった。
「ディアボロス!荒野はあっちよ!一度撤退しよう!」
「お前が望むのなら」
私をお姫様抱っこにすると、ディアボロスは高く宙に舞い上がり、私が指示した方角へ高速で飛んで行く。追っ手は確実についてこれないだろう。
「ディアボロス、血には飢えてないの?」
「飢える………?ああ、言われてみれば、そうなのかもしれない」
私は血の樽を取り出して、ディアボロスに渡した。
彼はやはり乾いていたようで、全て飲み干した。
「ララ、これからどうしたい?」
「しばらくは戦争の行く末を見てみたい」
「お前が本当に憎むべきものが何なのか、戦争を見て理解するといい」
「そうね。まだ色々な思いがあって、自分がどうしたいのかわからないから。分かるまでの間、色々見て回るわ………本当は見たくないけど」
「お前の決断を尊重する」
それから私はヴァンパイアの事を、詳しくディアボロスに話した。
少しづつ記憶は戻ってゆき―――。
「もう大丈夫だ、全部思い出した。お前は私のパートナーであり、姪なのだな」
「私の『教え』は『増加』だ。お前にも教えよう。全ての物事を増す『教え』だ」
「ええ………ありがとう。時間はあるものね」
それから私たちは戦争の推移を見守った。
侵略されては侵略し返すの繰り返し。親を殺された子供がまた誰かの親を殺す。
この辺りは4つの国家が4つ巴で、何百年も殺し合っているのだ。
なんて悲しく、愚かなのだろう。
戦場の惨状も、敵国の兵士が働く略奪やレイプも、指導層の愚かさも。
ディアボロスと過ごす200年の間、何も変わらなかった。
人口が減ってはつかの間の平和で増え、また命が消費されている。
「ディアボロス、私が憎むものが、牙を向ける先が分かったわ」
「………話してみろ」
「私は人間の弱さが憎い………だから共通の敵を作って、恐怖で団結させるわ。お前たちが争っていると、その隙に悪魔に滅ぼされる、と見せつける」
「お前が望むのなら、屍の山を築き上げて見せよう」
「ええ、
「ならば行こう、戦場へ。分け隔てなく殺そう。お前の望むように」
「全員殺しちゃダメよ。悪魔の恐ろしさを伝える者が要るから。これを何度でも繰り返す。悪魔として都市も襲う。無辜の民であっても、恐怖を植え付ける。そのために殺す。指導者層からも生贄が必要でしょうね………」
「………そこまで覚悟しているのなら、恐怖を与える場に共に行こう。そして血で川を作ろう。お前の望むままに―――」
「あなたの力がないとこれはできない。一緒に悪魔になってくれる?」
「当然だ、可愛いララ」
「ありがとう………」
そして私たちは各地の戦場を転々とし、わざと見逃した者以外を殺した。
10年も繰り返していると、恐怖は浸透した。
だが、まだ戦争をやめようとは思わないようだった。
だから、都市を襲う。衛兵も無力なものも。等しく死を与えた。
戦争が続く限り平和は無いと思えと、見逃した者に告げて。
50以上の都市を襲ったのに、それでもまだ戦争は続く。
だから今度は国王を、重臣たちもあわせて殺した。
これ以上戦争を続けるのなら、今度は皆殺しにすると言い含めておく。
ようやく、戦場ができなくなった。
4国はお互いに出方をうかがっている状態だ。
………背を押すために、それぞれの城下町を灰燼に帰してやった。
まだ争うのなら、もっと殺すと告げて。
そして、ようやく。4か国が合体した「セーラム連合」が誕生。
もはや国家として機能しなくなるまでに追い詰めた結果、国同士が融合したのだ。
願わくば、再びこの地に
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