第43話 喪失と出会い

 私は東へ東へと進んで行きながら、人助けをしていた。

 その途中、私がヴァンパイアにしなければ、このまま餓死して死ぬだろう、という9~10歳の双子の女の子を拾ってしまった。

 仲間にしてはいけないと『勘』がいう。


 でも私は、あまりに哀れで、本人たちの意思確認の後、仲間にすることにした。

 嫌な予感がしていたにも関わらず仲間にしたのだ。初めて『勘』に背いた。

 この子たちには、戒律は強要しなかった。精神が育った後でいいだろう。

 

 名前は「アリス」と「ルテラ」という名前だった。

 2人とも金髪をツインテールにしている。目はヴァンパイアなので、当然赤い。

 正直自己申告がないと見分けがつかないので、髪のリボンを赤と青に分けた。


 子供たちは可愛かった。無邪気に私のあとをついて回り、時折おねだりしてくる。

 自然体で、ヴァンパイアであることを隠そうとしない彼らに危機感を覚え、色々教えるのだが、身についているのやらいないのやら。

 思わず甘やかす私はダメな大人かもしれない。

 でも、小さかったころのヘパエイトスを思い出してしまって、強く言えない。


 ある日、かなり大きな町にさしかかった。

 検問があるが、まずいものは全部魔法のバックパックの中だ。気にしなくていい。

 西方と違い、この東方では魔法がほとんど普及していないのだ。

 民が飢える原因の一因ではあるだろうか?


 いや、民が飢える原因は戦争だ。この辺りにある国々は、戦争を繰り返してきた。

 「俺達の父祖の地を取り戻せ」「聖地を奴らから奪還しろ」

 侵略するものとされるものが、入れ代わり立ち代わり………戦争は続いていた。


 私が「抱擁」した双子はエインス帝国の子。

 ここはラバン民族国家の領地内だ。敵対国家。

 2人に出身国を決して言ってはいけないよ、と口止めする。


 取り合えずその日は、仕方なく宿をとった。

 子供達には下手な動きはしないよう、重々言い含めて。

 だけど、町に宿を取ったのは、失敗だったと私は思い知る事になる。

 まさかあんな行動に出るとは―――。


 昼間、二人を旅の疲れと偽りベッドで寝かせ、吟遊詩人として振る舞っていた私。

 疲れがたまっていて、夜なのに眠り込んでしまった。

 荒野での生活は、無理する事も多かった。

 眠り込むぐらいは当然だったかもしれない。


 でも私は、そのせいで、気付けなかったのだ。

 表が騒がしくて目が覚めた。ドンドンと扉が叩かれている。

 とっさに私は、持てるもの―――バックパック―――を持って、周りを見回す。

 アリスとルテラがいない。

「出てこい、エインス帝国の化け物の親!子供は退治したぞ!」


 私はとっさに『シースルー』で、扉と壁を透かして向こうを見た。

 見なければよかった。

 騎士が何人もいる。こと切れたアリスとルテラをぶら下げて表にいる。

 可哀そうに2人共「抱擁」前の、餓死寸前の子供の姿に戻って―――。

 子供たちは少しずつ灰になり始めていた。

 ヴァンパイアの最期だ―――。


 私は感情を押し殺した。でないと彼らを八つ裂きにしてしまいそうだったから。

 そして窓から飛び出す。

 「逃げたぞ!」「あっちだ!」「弓兵ー!」

 叫び声を耳に受けながら、満月の真夜中に路地を駆ける。

 侵略する者される者―――でも、だからって、あんな幼い―――!


 矢が一本、わたしのふくらはぎに深々と刺さる。

 不覚にもそれで転んでしまった。一気に引き抜く。

 「当たったぞ!」「弓兵!遠隔で仕留めろ!」

 だがその間にも矢は次々と飛んでくる


 次々引き抜き再生したが、1本の矢が心臓に刺さって、私は動きが鈍くなる。

 ああ、もうこれでおしまいか―――。

 ごめんね、みんな。また会いたかったのに。

 諦めて倒れ込み、道に血が染みわたっていく。

 ………本当に諦めたのか?


 そんな訳がない。死にたくない死にたくない死ぬのは怖い。

 手に力を込め直そうとした時、それは起こった。

 私の流した血が発行し、動き、魔法陣になる。

 もちろん私は何もしていない。

 魔法陣の下に私はずぶずぶとめり込んでいき―――「彼」と出会った。


 そこは大きな地下空間だった。四角い部屋で、中心に水晶がある。

 赤い水晶には、誰かが封じ込められている。

 屈強な男だがとても綺麗な男だ。20代後半といったところか。

 特徴的なのは紅い目とそして、太くねじくれた2本の角だ。

 側頭部から角が突き出しているのだ。

 それはエレオスから聞いた、ある人物の姿と同じだった。


 「同胞よ、我が叔父よ、私を助けてくれるのか―――ディアヴォロス!?」

 「ディアヴォロス―――それは我が名か?」

 「そうよディアヴォロス。名前も忘れてしまうほどここに居たの―――?」

 「お前が私と共に在るというのなら、助けよう―――返事は?」

 「貴方と共に歩みましょう、ディアヴォロス」

 「名は―――?」

 「ライラック………ララと呼んで」


 彼は水晶を粉々に破壊して出て来た。

 私は力を込めて最後に残った矢―――心臓の矢を引き抜く。

 彼は私を抱き上げ、肩に乗せた。手をかざすとなんと私の中の血が増量した。

 血はすみやかに私の傷を癒した。

「これが、あなたの『教え』なの―――?」


「………?教えとはなんだ、ララ?」

「それも忘れてしまっているのね」

 彼に『教え:観測:説明書』をかける。彼の個人情報が現れる。それは―――。

 間違いない。彼はディアヴォロス。エレオスの兄にあたるヴァンパイアだ。

 ここを切り抜けたら、教えてあげなくては。

 私は地上の状況をディアヴォロスに説明し始めた―――。

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