第42話 東の荒野を

 東の大地の荒野を当てもなくさまよっていた私。

『勘』の導きによって、どこの町にも寄らず、荒野をさまよっている。

 やがて、餓死しそうな老爺が私に近づき、「助けてくだされ」と言った。

 ・助けを求められて断ってはならない

 その戒律に従い、私は老爺に『クリエイトフード』作った柔らかいパン(以前より上達した)と『クリエイトウォーター』で作った水を与えました。


 そうすると老爺は「女神様」と私を呼び、仲間を呼んで来ると駆けていきました。

 回復度合い、すごいねおじいちゃん。

 そんな事を言っている場合ではなく。

 大勢の飢餓状態の者や、死病に侵された者が私の所へと、運ばれてきたのだ。

 仕方なく『人工血液』を作り、魔力を補充しながら治す私。


 後には、私に付き従う集団ができた。

 当たり前であろう、私に付き従う他、彼らが明日の糧を得る方法はないのだから。

 面倒になったので、「私がヴァンパイア」であり、「血を吸う事を求める事もある」ことを明かしたうえで、着いてくるものだけ、受け入れると告知する。

 脱落者は、ほんのわずかだった。


 仕方ないので『無属性魔法:物品作成』で創り出した、帆布を加工し野営させる。

 これまた仕方がないので、調理器具と、調理できそうな食材も作り出す。

 不衛生な者は―――ほとんどがそうだった―――『無属性魔法:ウォッシュ』で綺麗にしていった。


 ああ、穴を掘って、便はその中にするよう指導しないと。

 極度に乾燥している地域だから、それだけで大丈夫でしょう。

 それにしても、ここが東の地―――?

 南に行けばアリケルの国があるはずだ。そこに近いというのに。


 とにかく私は重症者の治療にかかりきりになった。

 治療方法とかは、その場で考案することも多かった。

「顕微鏡」というものをエレオスが残していったものから引っ張り出し、未知の「ウイルス」や「抗生物質」も癒しの教え『新方法考案』で見つけたわ。

 星の神殿の書物からも学んでいたし………。


 この頃が、私の医術の素地を作ったと言えるわね。

 いつの間にか、私はこう呼ばれるようになっていった。

「レイズエル(蘇生の光)」と―――。

 わたしは、こういった場ではレイズエルを名乗るようになっていった。


 私の後ろには、餓死や病死を免れ、清潔な姿をした者たちが付き従い(吸血と樽づくりはさせてもらったが)彼らは私から魔法も学んでいった。

 もう生活魔法、衛生魔法のほとんどは、彼らでも使えるのではなかろうか?


 行く先行く先で同じような事があり、私は医術の腕を磨いた。

 それと同時に増えていく信望者たち。

 その規模は、もはや小国に匹敵するほど。

 ある大きな台地を居と定め、私の右腕になった最初の老人が言う。


「ここは癒しの国である。王は唯一、レイズエル様である」

 といわれても、私は何も指示していないのだが?

「奪わぬ、壊さぬ、殺さぬ、姦淫せずか法であるっ」

 あ、勝手に出来てるのね。好きにして。


 教えた魔法を発展させて、建材なども作ったりしている。

 モンゴル風のテント建築物ができてきている。

 そのうち住民は多岐に渡り、捨て子などが運ばれてきた。

 子供たちに治療を施しつつ、私はその可愛らしさに久しぶりに幸福を感じていた。


「子」もできた。

 見どころがあり、一度生死の淵を覗いたものたちを「抱擁」したのだ。

 今では私の可愛い弟子である。

 彼らが自力で旅をできるようになるまでは、ここを離れられないな。


 赤ん坊の中でも、私が特に可愛がった者がいた。

『勘』がこの子は違うと告げるのでる。普通のヴァンパイアにはならないだろうと。

 私は少なくとも赤ん坊が一人前になるまでは、このごく適当に出来てしまった小国に留まる事を決めた。

 小国の名前はそのまんま「レイズエル」


 赤ん坊の名前も決めた。名前は「ヘパエイトス」である。

 強くなるように、戦いの神の名を一部貰ってつけた。

 あまりにかわいいので、わたしはこの頃治療しているか、研究しているか、ヘパエイトスに構っているのどれかだったように思う。

 ヘパエイトスも私を「お母さん」と呼び始め、慕ってくれた。


 最初、あまりに嬉しくて、私は歌を取り戻した。

 ヘパエイトスの為に歌ったのである。


 天より落ち来る真白きこの花

 いづれの色にか 染まらんこの花


 先刻見た魚の鱗は銀色

 先刻見た泉の色は水晶色


 生まれたばかりの花は

 真白き無垢の花に

 祈りの歌を捧げん


 白は穢れ易く傷つき易い 脆く儚い色

 祝福の歌を捧げよう

 小さき生命にも幸あらんことを


 いづれの色にや 染まらん此の花…


 彼は成長すると逞しい若者に育った。そして私に抱擁をねだった。

「お前には、語って聞かせたエルカゴの抱擁の方がいいのではないの?」

 と、聞いたが

「いえ、お母さんの抱擁が欲しいのです。きっと戦士の氏族に派生してみせます」

 という。わたしは困ったが、最終的に希望通りにしてやることにした。


 ヘパエイトスの血は、甘く、強く、今まで味わったことのないものだった。

 宣言通り、彼は屈強なバンパイアの戦士になった。

 私は彼が自分の氏族「戦士の氏族」を作ったのを見届けた。

 それから、私は民に別れを切り出した。


 大いに引き留められたが、それは育った後進に任せる事にする。

 この小国が無くなったら、必ずヴァンパイアの谷に集結することを誓わせて。

 ヘパエイトスにも引き留められたが、お前がここの王になれ、と断った。

 ヴァンパイアはいつか必ずヴァンパイアの谷に!とだけ言い含めた。


 そして私は、さらに東へと歩みを進めていった。

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