第40話 弔いと初めての「子」

 後で見たら意味不明の事が色々書かれていたので、加筆修正いたしました。

 この表示は8月まで貼っておきます。

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 津波の次の日


 私は岩場に行き『上位無属性魔法:クリエイトゴーレム』をアレンジして、棺桶の形にしたゴーレムを作り、講堂に運び込と術を解いて普通の棺桶にする。

 そして名前を刻み込み、ミーシャや先生、ルーシーさんを海から引き上げる。

 私は「無属性魔法:死体ロケーション」を作り出した。

 これで流された死体の所まで迷わず行ける。

 それが誰かも『無属性魔法:解析』で分かる。


 全員の死体を見つけ、弔うのが私の役目だ。

 最初は先生、海から引き上げたルーシーさんと、先生とミーシャだ。

 腐敗して欲しくないので、ミイラにすることにした。


 ミイラにするためには。

 遺体を洗浄し、死亡後に腐敗が早い脳や内臓等の部位を取り除く所から始まる。

 脳は鼻から器具を用いて除去。続いて体を切開して内臓を取り除いていくが

 取り出した臓器は、箱や壺に入れた後、焼却処分する。

 長細いリネンを慎重に体に巻きつけていく。

 その際、いくつかの段階で樹脂や香料を塗り、またリネンで包む。

 最後に布で包み、それを麻布で固定。

 

 それでようやくミイラが完成するのである。

 これでまずは3人をミイラにした。


 私は死体探しに奔走した。

 無残な水死体は『無属性魔法:ドライ』で水分を抜き、出来るだけミイラにした。

 そんな日常がしばらく続いた。


 その日、私は何故か、行かなければという気持ちにかられて、本来最高司祭しか出入りできない、「アステラの祭壇」に行く。そこで啓示を受けた。

「貴女が現在最高司祭です。祝福の巫女にもあなたがなりなさい」

 祝福の巫女とは、星女神の加護を欲した漁師たちの「永遠に光るカンテラ(一年間光り続ける)」に灯が絶えないよう、祝福の火を授ける巫女である。


 精神力が尽きそうになると「糧なる神木」の実を食べる。

 太陽光も、食事の心配もしなくていい。

 ここは星女神、太陽神、海女神の加護を受けた島。

 でも私は海の女神の加護は絶対に要らない。

 破損した寮を思うと、海の女神の無慈悲と、中にいただろう人たちを思い出す。


 寮の中からも死体は回収してある。皆ミイラにして、講堂に安置した。

 アステラ様の啓示も、これで全員だと告げてくれた。

 ………全員を回収するのに、100年もかかった。

 すごく遠くまで流された子がいたからだ。

 ごめんね。損傷が激しくてミイラにするのが不可能な子もいた。


 悲しみは、少しづつ癒えていった―――絶対忘れないけれど。

 私は、死体回収が終わったら、先生の残した本で勉強に励んだ。

 詩集から、得るものは大きかったし、床倉庫の内容は、歴史書や魔法書だった。

 特殊な呪文を覚える事もできた。


 何より、この世界の事を書いた歴史書が興味深い。

 なるほど、東にはこんな国が広がっているのか。


 ―――この星、カタリーナの他にもこんなに星があるのね。

 アステラの祭壇から星について調べてみた。

 すると、まだその星の創生神が、作りかけの星を見つけた。

 ………人間の住む星に、邪悪なものの住む星、善なるもの住まう星。

 

 私は多分宇宙など渡れないので、行くことはできないが、とても気になる。

 というか、気にしろという激しい『予感』だった。

 星の設計図を作って置く。のちのち役に立ちそうな気がする。


 ここで過ごして150年たつ。

 私はいつも自分が玄関ホールに居たら、惨劇を食い止められたのではないか、と無駄な予想をして自分を責めている。自分でも止められないのだ。

 自分を責めつつ、寮は壊滅的だが、本堂は無事なので出来る限りのことをした。

 毎朝掃除し、ミーシャたちに祈る。それが日常。

 いつまで私はここに居るんだろう?星読みを極めるまでかな………?


 星読みの丘で、歌を歌っていたら、個人用の船がこっちにやってくるのが見えた。

 私は闇を見通せるが、人間はそうではない。あわてて灯台の明かりを灯した。

 船はまっすぐこっちに向かってくる。ここに用事で間違いないな。

 船が砂浜に着く。

 そこから出てきたのは、ミーシャに似た黒髪青い目の青年だ。


「巫女よ。俺は人探しにここに来たんだ」

「私以外は、津波で死んでしまったわよ………」

「そんな………ミーシャはいたのか?俺は彼女の兄だ」

「アルテミシアさんの事?ヒドラを奉じている他国の軍に殺されたわ」


「………墓は?」

「………腐るのを見たくなかったから、ミイラにしてあるの。それでもいい?」

「それでもいい、ミーシャに会わせてくれ」


 彼は号泣していた。また会おうと言ったのに。と。

「『暗黒魔法・お喋りな死者』を使う?ミーシャと話せるわ」

 そこから後の会話は、秘密だ。


 彼は飢えた狼のような目で出て来た。

「ありがとう、おれはヒドラの敵対する都市国家に味方することにする。あいつらの国を消滅させてやる………!」

「分かったわ。行ってらっしゃい」


 ある時、ここから一度出て、仲間たちに会いたいという気持ちにかられた。

 ここで得た特殊魔法の一つ『分体』か「分身」を使うことにしよう。

 分体は、より私に近く、自立行動するもの。

「分身」は指示を出さねば動かないもの。どっちにしたらいいのかためらう。

 ためらっていたら、今は私が使わせてもらっている先生の机に手紙が?


「未来の私が何とかするから、そのままにして大丈夫よ。過去のあなたに」

 と書いてある。未来では私は時を逆行しているのか!

 悩んだが、手紙を信じて任せることにしよう。『勘』もそう言っている。

 ならばあとはヴァンパイアの谷に帰るだけ。

『テレポート』で一瞬だけどね。


 私がテレポートしたのは、谷の入口だった。

「あっ、リリジェンさん!イザリヤさんが滅茶苦茶怒ってますよ」

「そうだろうね。転移の石で呼び出して」

「孫」世代なのだろう。敬語を使っているという事はおそらくそうだ。


 彼女も谷の入口にテレポートしてきたようだ。

 騎士の服装のイザリヤがやって来た。

 思い切り抱き着かれたが、これは甘受すべきであろう。

「150年も!どこに行っていたんだ!」

 落ち着けと呼び掛けて、私の部屋へ。


「………という訳で、星の神殿に居たの」

「私は心配で仕方なかったぞ」

「ありがと、イザリヤ………友達も先生も逝ってしまった150年間は寂しかったわ」

「私は絶対に死なないぞ」

「そうだね、殺しても死にそうにない」

 私達は二人で笑いあった。


「そうそう、エレオスは今、旅に出ている。それで、ララにと託された物がある」

 イザリヤが魔法の袋に入れてくれていたらしい。

「へえ、何だろ………」


 たっぷりの瓶に入った血。匂いからしてエレオスのものだ。それと封書?

 封書を先に読むようにイザリヤが言う。内容は知っているようだ。


 手紙によると、この戒律を守り続けると、いつか真実の姿になれるのだそうだ。

 戒律は………1:助けを求められたら断ってはならない

       2:相手の同意なく血を飲んではならない

       3:相手より先に攻撃してはならない

       4:グールを作ってはならない

 これを守ったうえで旅に出るように、と何度も念を押して書いてある。

 かなり厳しい条件だ。


 そしてそれを助けるのがエレオスの血らしい。

 まず、色んな人が助けを求めてくるので、対価として血を貰いやすくなる、という効果と『第六感』が神の啓示レベルに、鋭く正確に研ぎ澄まされるのだとか。

 私は、ためらったがエレオスを信じて、彼の血を吸った。

 血を1回与えられただけで、何なんだろうこの気持ち。これが血の縛りか。

 彼が今まで以上に慕わしく思えて来た。同じ方向に旅に出ようかな。


 イザリヤが旅に同行したいが、まだ村の事がある………としょぼんとしていた。

 私は『人工血液』と『衝動延期』があるから何とかなるか………。

 ミーシャの出身地、東の国にでも行ってみようかな?

「戦乱の続く地だぞ、大丈夫か?」


「とりあえず、戒律に従って樽と瓶はイザリヤにゆずる。私は人工血液を飲むよ」

「わかった、難儀な戒律だな………うん?手紙はまだあるぞ。」

「短いね。まず自分の氏族を作りなさい、だって」


「わかった。星の神殿に行くのがいい気がするわ。向かいましょう」

「私はついて行けないが………大丈夫か?」

 私達はハンティングに出た。

 ヴァンパイアの「子」に樽で血をあげる時のためだ。

 了承済みの村だ、戒律違反ではないし一切危険はない。4人分採血させて貰った。


 私は、新しい『子』のために血の樽を4つ(イザリヤがくれた)作る。

 それぞれ、ショウブ、フェンネル、ミント、ブーケガルニを入れた。


 私は、星の聖域に戻る。新な出会いがあると、強化された『勘』が言っている。

 そういえば、星の神殿で見た創生中の星が気になる。

 試しに『教え・観測・超長距離観測』を使ってみた。どこまで見えるのか?

 いろいろなものが見える。

 創生中の宇宙も見えた………その構造を私はパピルス紙に描きつけた。

 いつか役に立つ気がするのだ。


 イザリヤに見送られて、星の聖域にへ再度出発する。

『上位無属性魔法・テレポート』で一瞬である。

 砂浜の方に行かないと、という気がする。

 手早く部屋に荷物を置いて見に行ってみる。

 何と、そこには人が流れ着いていた。


 チェックすると辛うじて生きているが、これは治癒魔法はもう無駄な領域だ。

 命の火は尽きかけている。いつかの私のように。

 女性だった。イザリヤの乳母のアンリさんそっくりだ………血縁?

 私は囁く、エレオスのしたように。

「生きたいか?」

 彼女は唇の動きだけで、生きたいと言った。


「ヴァンパイアに身を落としても、いいか?」

 小さな頷き。まぎれもなく了承だ。

 私は彼女を抱え、きちんとした寝姿にしてから、吸血を行った。


 ここまでだ、というのはヴァンパイアの勘が働く。

 血を吸いつくされて「死んだ」彼女に私は自分の血を少し与える。

 あとは「血の樽」を置いて、私は隠れる。


 彼女は膝まである真っ白な髪に、白い目、陶磁器のような白い肌だった。

 だがヴァンパイア化で、目は赤く。肌は青白く変わ………らない。

 どうやら「薔薇色の頬」が抱擁特典としてついてきたらしい。


 狂乱して、樽の中身をむさぼる光景は、ちょっとしたホラーだった。

 飲み終わると落ち着いたらしく、血を拭って「ここは?」と言っている。

 私は姿を現すと、出来るだけ優しく、彼女に起こったことを告げる。

 私は彼女を「認めの木」に連れて行くことにした。


 彼女に『ウォッシュ』『ドライ』『ウォーム』をかけてからだが。


「ありがとうございます!」

 感激する彼女に、ヴァンパイアの常識を教えながら「認めの木」に向かった。

「貴女は私の「血親」なのですね。不束者ですが、よろしくお願いいたします。」

 彼女はすぐに馴染んだ。有難い限りだが、ちょっと常識がとんでる気がする。


「認めの木」には果実が一つ。

 説明しながら、果実をもいでもらう。簡単にもげた。

「食べてみて?テレポートでここに来ることもあるだろうから」

「なんだか、さっきの血のように体にしみわたりますわ」


「ああ、まだ名乗ってもおりませんわね。私はアンナと申します」

「私の事はライラックと呼んで」


 私はヴァンパイアの谷に戻り、彼女アンナを教育することにした。

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