第38話 星の神殿 2
私はお風呂を上がると『無属性魔法:ドライ』を使って全身を乾かした。
春なので『ウォーム』は抜きである。
ミーシャが目を丸くしていたので、『ドライ』をかけてやる。
「凄いわ、こんな便利な魔法があるなんて!」
私は笑いながらバックパックからガーゼを取り出す。
水没はしていない。確認して分かったのは「海水」というカテゴリに海水が99ℓまとめて入っている事だった。後で捨てないとなぁ………。
ミーシャに手伝ってもらってサラシを巻く。
ルーシーさんは着替えを置いていってくれた。
巫女服であり、星座(おひつじ座)のプレートまで用意されていた。
もちろんいつもの服はそのまま置いておいてくれている。
靴も新しい物がある。革靴だ。古い靴には『ドライ』をかけて、鞄に放りこんだ。
鞄から化粧品を出し、生者に近付けるよう軽いメイクをする。頬の赤みとかだ。
ミーシャに「する?」と聞いたらやってみたいというので、私が悪ノリ。
二人共フルメイクになった。
その辺りでルーシーさんが浴室に入って来る。
「巫女服(ほぼ紺色の修道女)のサイズはどうでしたか?」
と聞いてきたので、ピッタリだと答えると
「では、それと同じものをもう1着用意させます」
「さあ、皆に紹介するので、こちらへ来てください」
私は玄関ホールに連れて行かれた。
「認めの木」に続く通路を封鎖する形で、台が置いてある。
その台にグレイス先生と一緒に上がり、グレイス先生から私の紹介があった。
「海に流れ着いた彼女を、アステラ様は受け入れ、私は彼女を巫女にするようにと啓示を受けました。アステラ様の加護も持っています。仲良くしてあげてくださいね」
先生が紹介を締めくくると、ひそひそ話を皆が始めた。
驚いてはいるようだが、割と好意的だ。
いいところのお嬢さんが多く、ここに入るのには人格査定があるからだろう。
私は台を降りた。するとルーシーさんが部屋に案内してくれるという。
本館で寝泊まりするのは巫女だけで、修道女には別に寮があるらしい。
ミーシャもくっ付いてきた。
案内されていく途中で外を通る。夜明けが眩しい。………!?
「た、太陽が………なんともない!?なんで………?」
「「認めの木」で、アステラ様の承認を受けた上、加護まであるもの。聖域では太陽は怖くないし、あっちの一杯実をつけた大樹「糧なる神木」の実は食べられるのよ」
「果物が食べられる………血の代わりになるの?」
「ええ、ちゃんと栄養になりますよ」
首を傾げかけたミーシャの代わりに、ルーシーさんが答えてくれた。
案内された私の部屋は、「糧なる神木」から近かった。
外側は石材だったが、中は木で覆ってあった。良い匂いがする。
どうやら比較的新しくしつらえられた部屋のようだ。
壁には荷物入れと、小さなクローゼット。書き物机は大きい。
窓があるし、視線避けのカーテンはかかっているものの透けて光が入る。
だがここでは問題にならないだろう、視線が通らなければそれでいい。
「あの、ルーシーさん。鍵は?」
「?ここでは不逞を働く輩は居ませんよ?」
「そうではなく、私が寝てる所に入ってしまうと、私の寝姿はスプラッタですから」
「そうなのですか?では後ほどカギを取り付けましょう」
「それでは、お休みになってください。我々も寝ますので。日没と共に起床です」
「おやすみ、ララ」
「おやすみ、ミーシャ。おやすみなさいルーシーさん」
日の出には必ずある眠気が、今日はえらく薄い。星女神の加護なのだろうか?
ヴァンパイアの谷………私が戻らないと騒ぎになるかな。
イザリヤには心配かけるだろうな………。
それでもしばらくはここに居よう、グレイス先生にはいろいろ教われそうだ。
それにミーシャを放って行くのも可愛そうな気がする。
あの娘は、どうも私以外に友達が居なさそうだし。
そんな事を考えながら、質素なベットで眠りについた。
光が闇に飲まれて夜がくる―――。
もそもそと起き上がる。ここでは昼夜逆転が普通なのが有難い。
私はバックパックにしまっておいた、身繕いの道具を取り出し体裁を整える。
あの三年で、お化粧の技術はだいぶ上がった。オッタリアさんのおかげだ。
他にも淑女の嗜みとして色々教わったがそれはともかく。
コンコン、とノックの音がする「ララ!起きてる?」
「起きてるよ、どうしたの?」
「「糧なる神木」の実を取って来たよ、一緒に食べよう!開けていい?」
「いいよ。入って」
友達というより、妹ができた気分だ。年下だろうし。
「6つ取って来たよ。無くなってもすぐに再生するから大丈夫」
「ありがとう。ところでミーシャあなた何歳?」
「16よ。ララは?」
「21よ。やっぱり年下だったのね」
そのまま「糧なる神木」の実を二人で食べる。
見た目も味もイチジクで、とても美味しい。
久しぶりの普通の食事に泣きそうになった。これは吐かなくてもいいんだよね?
私の目が潤んでるのを見て、ミーシャがもっと取って来る!と駆けだした。
私は久しぶりに普通の「お腹いっぱい」で満たされた。
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