星の神殿

第37話 星の神殿 1

そこには、私を見下ろしている少女が居た。


「こんばんは、私の友達」

「え?友達」

「そう、星女神アステラ様からの啓示。今日ここに私と親友になる人が現れるって」


私は答えに困ったが、とりあえず岩場に這い上がる。装備品はともかく、服は水を全て輩出した。魔法のバックパックに水が入ってなきゃ良いけど。

「私はヴァンパイアだけど、いいの?」


「いいの!そういう啓示だったもの。ようこそ、ここは「聖なる島」星女神アステラの聖域。さあ「認めの木」に行きましょう。あなたをアステラ様がここに居る事をお認めになっていたら、あなたしかもげない実がなっているわ」

「星女神アステラ様は海の女神サラサと太陽神イリオスの娘よね」


「そうよ!だからここには其の2柱の加護もあるわ」

「私なんかが入っていいのかしら………」

「私は巫女だけれど、あなたを邪悪には感じないわ」

「私は運命の女神と始まりの女神の加護があるからね」

彼女は私の額をじっと見て

「本当だ、すごいね」

とコロコロと笑った。分かるんだね。


しばらく歩いて、正門に辿り着く。

すれ違う人は、みな黒の修道服で、星座を示すプレートを首から下げている。

 私を咎める人は居なかった。「認めの木」に行くの?と声をかける人はいたけど。

彼女の服は、それを濃紺にしたものだ。見分けはつきにくい。

正門から真っ直ぐ行った先は、海を望む崖だった。

そこに、人の背丈ほどの木が生えており、アケビのような実を付けている。


「あったわ、もいでみて」

わたしは素直に従った。実はあっさりもげた。

「ここに居てもいいって、認められた証拠よ。食べてみて」

「ヴァンパイアに普通の食事は………」

と言ったのだけど、大丈夫だから食べてみろとの事。


仕方ない、食べてみようか。

食べてみるとそれは。有り得ない事だ。

 そのうえ胃の内部に落ちた後、霧と化し、私に血と変わらない活力をもたらす。

 そして私に『啓示』があった。彼女は私の友になる。私はここで巫女となると。


「………私はライラック。ララって呼んで」

「わたしはアルテミシア。ミーシャって呼んでね。今から神殿長のグレイス先生に会わせるわ。大丈夫「全部」知っていらっしゃるから」

「全部?全部って………?」

確か、グレイス先生とは、聖女グレイスの事だ。賢者だというが………。


「試しの木」から、さほどもいかないうちに、木製の立派な扉が見えて来た。

コンコン、とノックして

「グレイス先生、ミーシャです。友達を連れてきました」

「お入りなさい」


ドアを開けて踏み込むと、大きな書斎に出た。

大きなデスクがあり、そこに穏やかそうな初老の女性が腰かけている。

「いらっしゃい、アルテミシア。そしてようこそ、ライラック。何もない所だけれど水と光、愛は満ち足りていてよ」


「貴女の正体も過去も、すべて啓示で知ったわ………ゆっくりしてお行きなさい、勉強なら私がミーシャとまとめて見てあげますから」

アステラの教えと言えば占星術。興味がある。

………女神からの信託もあったし、巫女になってもいいか。


「分かりました、どれぐらいいられるかは分からないけれど、巫女になりましょう」

グレイス………いや、先生は優しく微笑んで、「改めてようこそ」と言った。

「ルーシー、彼女をお風呂に入れてあげて。衣装合わせもね」

先生はお付きの人―――いや、この人も巫女みたいだから助祭さんか―――に命じて私のお風呂を手配してくれた。

有難い。海水は水と同じプロセスで乾かすと難があるから。


私はルーシーさんについていく。ミーシャも手伝うと言ってついてきた。

「私の体、あまり気持ちのいいものじゃないよ?」

と言ったのだけど

「それは私も同じだから。一緒に入ろう!」

と言って聞かない。しかたないな、と私は諦めのため息をついた。


なるほどミーシャの裸は、見る者によっては気持ちのいいものじゃないだろう。

彼女の内股と胸には、奴隷の焼き印が押されていたのだ。

「それ、どうしたの………?」


聞けば、森の近くでひっそりと暮らしていたミーシャと兄の家を、正体不明の一団が襲ったのだと。父はその首領と戦って果て、母が捨て身で彼女と兄を逃がしてくれた。でも、すぐに奴隷商人に捕まって、別々にされ―――。


そこで、もっと押されていた焼き印は消されたらしいが、そのかわり高級娼婦として教育され、最初の「仕事」が上手く行ったら消してもらえる予定だった。

でも、行った先の町で、ミーシャは奴隷として働く兄と再会し、逃亡。

追いつかれそうになって、別々に逃げ、ミーシャは捕まるぐらいならと海に身を投げ―――ここの砂浜に流れ着いたという。


「………逃げれただけでも、行幸ね。でもミーシャのいた地域では、娼婦は聖なる職業じゃなかったの?だいぶ遠くから流されて来て、ここに辿り着いたなら、ミーシャには海の女神の加護もあるんじゃ?」

「うん、娼婦が聖なる職業だなんてここに来て初めて聞いたわ。先生も私には海の女神の加護もあるって仰ってたわ。」


ちなみに私は、サラシを取らずに入浴している。でないと湯に血が混ざるからだ。

湯から出て、サラシとガーゼを取った私に、ミーシャが目を丸くする。

グレイス先生はこれも分かっているのだろうが、ミーシャは知らなかったようだ。

さっきのお返しに、私の事情を説明する。

でも、ヴァンパイアになってようやく幸せを手に入れた事も。


「そっか………あのね、「糧なる神木」っていうのが「認めの木」の他にもあるの。それを食べればヴァンパイアもお腹いっぱい。噛みたくも無くなるから、食べて」

「………わかった、ここに居る間は、そうするよ」

「いつまでいてくれるの?」

「さあ………?何年かは居るつもりだけど」


「ここの事も、まだよくわからないし、約束はできないわ………」

「そっか………でも、友達にはなってくれる?」

「何だろうね、他人とは思えないから………Yesだよ」


この後ミーシャが抱き着いてきて、二人は風呂ですっ転んだのだった。

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