第34話 イザリヤの故郷へ3

 そして光を食らった獣が夜を運んでくる―――。


 私たちは、身繕いを済ませて、のバンのいる焚火の周りに座る。

 この旅でバンが一緒になってから、この位の炎は慣れっこになってしまった。

 火傷すると治るのが遅いから、気を付けないといけないのだけれども。

 私とイザリヤは、火を囲みながら血の瓶の中身をゴブレットについで飲む。

 これが私たちのだ。


「イザリヤ、最後の集落―――ダークエルフの集落だっけ?ってあとどれぐらい?」

 私はこの前の村の騒動を思い出しながらそう聞いた。

 結果的にダークソウルの「クロ(命名・私)」を得られて、お得だった軽い騒動だ。

「あと10日もあれば着くが、その前に制限空間があってな………3日もあれば抜けられるが、その中で崖の上り下りをして、川を横切るルートがある。このせいで、そこのダークエルフの集落は孤立しているな。………川に落ちるなよ?激流だぞ」


「保証できない。私の運動神経のなさは知っているでしょう?」

「運動神経はあると思うぞ。無いのはバトルセンスだ。絶対前衛には出て来るな」

「はいはい、魔法かスリングスタッフを使え、でしょう?」

「スリングスタッフも下手だがな………」

「うっさいよイザリヤ」


「大丈夫ですよ、必ず姉さんたちに近づく敵は排除しやすから!」

 この頃、怪しいながらも敬語で話せるようになってきたバンが言う。

「馬鹿者、お前は私から1本も取ったことがないだろう。ララの護衛に専念してろ」

「へい………ですが『教え』を使わず、素の能力だけのイザリヤの姉さんに、強化済みの俺が勝てないって………俺は戦闘には自信あったんですがね」


「それは仕方ない、私は物心つく頃には剣を振り回していたからな。父上の素晴らしい剣の指導を受けて育ったのだ、当然だろう。ヴァンパイアの谷ではエルカゴにも鍛えられたしな」

「エルカゴ?まさかエルカゴ将軍っすか!?『不敗の』エルカゴ!」


「そうだ、そのエルカゴで間違ってない」

「将軍がヴァンパイアだとは………ヴァンパイアになったから引退したんすか?」

「そうらしいな、だが影の世界では名の知れた傭兵になっている。「子」も多く作り、ヴァンパイアの世界でも有名だ。『頑健』の教えはエルカゴの創作だぞ」

「『教え』の創造ね………実は私も取り組んでみてるの。まだ『人工血液』しか出来てないけど。『教え・癒し』と名付けたわ」


「………!すごいなララ。どういう効果なんだ?」

「そのまんま。人間の血液と同じものを作り出すの。樽や瓶にもできるわよ。ただ味はね………可もなく不可もなくだから、きっちり風味付けしないとおいしくない」

「それでも教えて欲しがる奴はごまんといる。首に噛みつきたいという、定期的に襲ってくる吸血衝動までは無くせないだろうが」

「それが次の構想。衝動を遅らせられないかなって」


「出来上がったら、是非教えてくれ。『人工血液』も教えて欲しいな」

「いいよ。じゃあ歩きながら教えるわ」


 ………そんな事を言っていたのが3日前。イザリヤは『人工血液』を会得した。

「確かに男とも女ともつかない味だな。だが血液なのは確かだし、意外とうまい」

「魔法で血の成分を分析して、それを呼び出し結合する魔法から作ったの。男のものと女のものを平均して成分を合成して………それを『教え』に変換したのよ」


「成る程、先に魔法で創ったのか。お前には向いていそうな方法だな」

「まぁね。だから魔法で使う事もできるよ。暗黒魔法に入るね」

「そうか。私は『教え・人工血液』だけで満足だから魔法はいい」


 次の日、制限空間に入った。独特の体が重くなる。しばらくは魔法が使えない。

 2日ほど歩くと、道が崖で途絶えている。橋はかかっていたようだが落ちている。

 断崖絶壁。底には激流が流れている。本気でこれを上がり下りするの………?

 痛切に魔法があればと思うがそれはない。覚悟を決めなければ。


 イザリヤ、私、バンの順番で、崖を下る。足場はほとんどなく、しかも岩は脆い。

 イザリヤは『剛力5(今のイザリヤのMAX)』を使って、足と手をを岩に突き刺しながら進んでいく。脆い岩でも、突き刺された箇所は確実に手掛かりになる。

 私とバンは、彼女の開けたその穴に、手足を引っ掛けて進んでいく。


 なんとか底―――激流に突き出たかつての橋の根元―――に到着。

 次は、川渡りだ。あちこちにある岩に飛び移っていく。

 私は翼を出して、岩から岩までを滑空する。これで跳躍が安定する。

 ………にもかかわらず、私は見事に足を滑らせた。

 何とか岩にしがみつき『剛力3(今の私のMAX)』をかけよじ登る。


 ずぶ濡れになる所だったが、エレオスのくれた黒衣は、水を全部弾いてくれた。

 ちなみに防寒具の手袋と靴は、崖の移動に邪魔なので、全員腕輪に収納している。

 あと2~3回の跳躍で、対岸というか橋の残骸の足場へたどり着く。

 ………飛び移り損ねて、足を挫いた。瞬時に治ったけど。

 イザリヤはお手の物と言う感じでさっさと移動。水袋に水の補充までしている。


 何とか対岸に辿り着く。下りよりも登りの登攀の方が気が楽だ。

 相変わらずのイザリヤに先導されて、どうにか上へたどり着く。

 これで難関は突破………あとはクマに会いさえしなければ。

 とか思っていたら出会ってしまった。


「待て、ララ!バン!背中を向けて逃げるな!木に上れ!あの巨大グマと違ってそれでやり過ごせる!後はわたしとララのイービル・アイで睨み続ければ逃げるだろう」

 その通りになった。ヴァンパイアのイービル・アイって意識しては初めて使った。

 これのせいで、動物に好かれないんだけどね。良いけど別に。


「クマよけに鈴を持ってくれば良かったな。ダークエルフの集落にあれば買うか」

「ここからあと制限空間を1日、解放空間を3日ほどだっけ?」

 確かに道は細ーく続いてるけど荒れ果てている。

 人間―――ダークエルフでも―――が住んで居そうにはない。

 イザリヤは聞いた事があるだけだというし、廃村になってたりして………?


 制限空間を抜け、解放空間にでて、3日。起き抜けの私たちは妙なお客に会った。

 ダークエルフのゴーストだ。知能は残っているようで、話しかけてきた。

《あのう、ヴァンパイアの方々とお見受けしますが》

「そうだけど、何?用でもあるの?」

《うちの村が困り事を抱えていまして、できればお知恵を拝借できないかなーと》


「村?ゴーストの?」

《はい、我々の集落は流行り病で1人を残して全滅しまして。残った1人は死霊術師だったので、我らは彼女にこうして蘇らされたわけです。強制とかじゃありませんよ、受け入れたものだけがここに残ったのです》


「ふうん、なるほど。廃村にあなたたちは生前と変わらず住んでるわけだ?」

《はい、生前の習慣をなんとなく模倣しております。成仏してしまう者も多く、現在の村人は10人ほどですね。それで困り事なのですが、お1人だけ生身の村長が、食べるものがもう、底を尽きそうでして。何かお知恵があればなーと》


「一つは『無属性魔法:クリエイトフード(食料作成)』を覚える事」

 万が一、食料が無くなったらバンの為に使おうと思っていた術である。

《なんと、そんな術が………》

「ただし味は期待しちゃダメだよ。ビスケットみたいな感じ。栄養はあるけどね」


「村長があなたたちと変わらない姿になってもいいなら、『暗黒魔法・魂魄化』っていう手もあるよ。リッチになるの」

《いいえ、村長は我々の成仏を全て見届けたら、人間の社会に出たいと申しておりますので、クリエイトフードを村長に教えていただきたく思います》

 そう言うので、私達はある意味予定通り「元」ダークエルフの村へ行くのだった。


「私が村長です。よくおいで下さいました」

 彼女は腰まである金髪に綺麗な碧眼、ダークエルフらしく黒い肌。美少女だった。

 私達を連れて来たゴーストが事情説明をしている。

「まぁ!そんな術が!私は残りのゴーストたちと共にここに居たいので、食料事情で悩んでおりました。ぜひご教授下さいませ」


「なんでそこまでして集落のゴーストたちと一緒に居たいのか、私にも少しは分かるわ。津波で村を失くしたから。教えてあげましょう。他の便利魔法もついでにね」

「ありがとうございます」


 そして、魔法の伝授は3日間で全て成された。

 というか、バンにも便利魔法を一緒に覚えさせたので時間がかかったのだ。

 便利魔法はすべて、唱えるだけで発動するものばかりだった。

 2人の記憶力が全て………だったのだが、バンが覚えきれない。

 村長も書き留めておきたいというので、羊皮紙を消費して書いてあげた。

 バンも一応文字は読めたので。


「聞きたいんだけど、ここにクマ避けの鈴とか、ない?」

「村のどこかにあったと思います。みんな~探すのを手伝ってあげて~」

 呼びかけに答えて、村の広場にある大量の墓からゴーストたちが湧き出してきた。

 かれらが記憶しているところによると、狩人の小屋にあったはずだとか。


 手伝ってもらった結果、狩人の家で人数分の鈴を確保することができた。

「ありがとう。報酬はこれで十分だから、もう行くね」

 村長は寂しそうな笑みを浮かべたが「ご無事で」と送り出してくれた。


 さあ、もう3週間ぐらいでイザリヤの故郷だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る