第33話 イザリヤの故郷へ2
夜の息吹に、私たちは息を吹き返す
「おはよう。ここで言うの2回目だけど」
「おはよう。嫌味か?」
「別に。夢魔に引っかかったのはあんたのせいじゃないし………」
「そうか、ならいいんだが」
私たちが身繕いをしていると、もう一つのテントからバンが出てきた。
「バン、まだ後ろを向いていてくれ。ララの傷の処置がある」
「聖都で山ほどガーゼを買い込んどいたのは正解だよね」
「あの時は何をしているのかと思ったが………役立つもんなんだな」
よし、身繕い終わり。
「バン、もういいよ。朝食は食べた?出発しよう」
「ああ、大丈夫ですぜ、出発しやしょう」
「よし、今日は
「イザリヤの故郷以外にも、ここで生活してる人っていたのね」
「ああ、親交もある。最初は揉めたらしいが、私の知る限り気のいい連中だ」
「
「いや………忌避される気がするから、基本黙っておこう」
「イザリヤがそう言うなら、隠しておくわ」
それからしばらく、けもの道を進んだ。
リン、リリン………。鈴の音が聞こえる、クマよけだろうか?近くだ。
「キャーッ、ゾンビ!!」
叫び声が聞こえた!私とイザリヤは即座に走り出す。遅れてバン。
そこには、確かにゾンビがいた。
だがえらく俊敏に、目の前にいる親子を襲っている。あれ本当にゾンビ?
疑問を持ちながら『光属性魔法・ライトシールド!』親子との間を遮る。
イザリヤが走る。ゾンビの首を一撃ではねとばした。が………まだ動く!?
首を拾い上げたゾンビは、自分の首の上に頭を乗せた。
思わず見守ってしまったが、呪文は完成している。これでも元聖巫女だ。
『神聖魔法・ターンアンデット!』
昇天させられる強度でかけたのに、こいつは抵抗して、金縛りになるだけだった。
だがそこに、イザリヤが迫る。
ゾンビ?は頭から真っ二つになり、流石に動きを止めて崩れ落ちた。
イザリヤは嫌そうに、剣に付いたモノをガーゼ(沢山あるからね)で拭きとっている。
私は思うところがあるので、ゾンビ?の死体に『無属性魔法・鑑定』をかける。
結果は、「ゾンビの死体」ではなく「ダークゾンビの死体」だった。
私は記憶を掘り起こす………ずるずるとイザリヤに引きずって行かれながら。
「ダークゾンビ」って自然発生するものじゃなかったような………?
途中から自分で歩いて
親子連れも一緒だ。護衛してきたのである。イザリヤが。
私?私は脳内からダークゾンビの情報をサルベージしていた。
やっぱりアレは自然発生するモノではない。
私たちは村長さん宅に案内されていた。
とりあえず、もうすぐ明るくなるので、泊まる場所をとお願いした結果である。
村長さんに挨拶して、客間を使わせてもらう。バンも一緒の部屋である。
朝日が昇り、また沈む頃。私とイザリヤは目を覚ます。
「おはよう。で、あのゾンビ、どうだったんだ?放っておくと広がるか?」
「おはよう。作ってる奴の根性次第じゃないかな?この森、人口少ないでしょう?」
「少ないな、
「ということはお墓の量も少ないから、広まるとは思えない」
「確かにな。昨日の死体は、
「でしょう?死体を増やしたいにしても、効率悪すぎるわ」
「身内のトラブルという線が濃厚か」
「頼られれば力は貸す………とか言うんでしょう?あんたのことだから」
「駄目か?」
「………ううん。自分が不遇だった分、他の人には幸せになってほしい」
「………そうか。そういう事だ、バン。今回は戦闘になるかもしれないぞ」
さっきから後ろを向いたまま聞き耳を立てていたバンへの一言である
身繕いを済ませて階下にいけば、朝?食が出来上がっていた。
正直吐き気がするが、食べない訳にもいかない。
黙々と食べていると、広場の方から悲鳴が聞こえて来た。
即座に立ち上がり、村長さん宅から飛び出す私とイザリヤ。
どこから入り込んだのか―――村の周りは毒性のあるツタを絡ませた塀で囲まれている―――3体のダークゾンビが広場の人を襲っている。
魔法は強めじゃないと効かないか………。
『神聖魔法・ホーリーライト!5倍がけ』これなら複数に効く。
ゾンビは崩れ去った。
「あのう、お客人。恥をさらすようですが、顛末を聞いてくださいませんか?」
村長さん(女性)だ。依頼でなくて、顛末?そこからが依頼なのだろうか?
「これは、我がアウイ家の息子の仕業なのです。人間の町に下りて行ったのに、才能を―――そんなものがあるようには見えませんでしたけど―――認められず、酷い目にあわされたので帰ってきたと言って、働きもせず、怪しげな術にふけるようになって。とうとうゴーストなど召喚し始めたので、追い出したのです。そうしたら、墓地にこもって「復讐」と称して、あの妙に素早いゾンビをけしかけて来るようになりまして。まだけが人死人がでてないからいいものの、さきほどのは目に余ります。どうか尻を叩いて連れ戻していただけませんか。じっくり性根を鍛え直します」
「まさか、この家の人物だとは」
「尻を叩く程度で済むか分かりませんが、引っ張り戻せばいいんですね?」
「はい。この「聖なる手錠」をかければ変な事もできなくなるでしょう」
「はい。お預かりします。嵌めて帰ってくればいいのですね」
私は手錠を預かった。性根が治るまで外しては貰えないだろう。
「でも、性根治るかな」
イザリヤにささやく。イザリヤは
「いちどひん曲がるとな………あの男のようになるんだろうな」
「さあ、さっさと行こう」
「墓か?」
「そう、そこでダークゾンビを作ってるとしか思えない」
「定番だな、行くか」
バンはお留守番だ。私とイザリヤが本気で動くと、足手まといなのである
私とイザリヤは、墓まで風のように駆けた。
すると高笑いが聞こえて来た
「わーッはッはッは!!すべての死体が「ダークゾンビ」になったぞっ、これであの
「これは、ギリギリで間に合った感じだな」
「本当だね。『神聖魔法・ホーリーライト』5倍がけ!!」
辺りが眩い光に満ち溢れる。術者だから類は及ばないが、私たちもまぶしい。
ダークゾンビはバラバラと崩れ去っていった。
イザリヤが犯人に向けて疾走する。鞘に入ったままの剣で袈裟懸け切りにする。
犯人は、石の地面に叩きつけられて、のびてしまった。
「本当にこいつが犯人か?間抜けすぎる」
『そいつが主犯な訳はなかろう』
何処からともなく声が響いた。
宙を見上げてみると、そこには黒く輝く宝石「ダークソウル」があった。
新しく召喚されたダークゾンビ………いや「ワイト」!が襲い掛かって来る。
「イザリヤ!こいつらにやられたら、同類になるから気を付けて!」
「私たちでもなるのか?」
「あれ?う~ん。私達の方が高位のアンデットだからならないような………」
『なんだと!ヴァンパイア様ではないか!なぜこのような所においでで………』
「あなたこそ、何でこんな所にいるのよ?」
「小僧が崇めてくるから、一緒に来てやったのです。主を亡くした所でしたので」
「う~ん。ダークソウルとやら側にあると気持ちがいい。連れて行かないか?ララ」
「ダークソウル!お前、アンデットを生み出す以外に何か取り柄は?」
「ありませんが、ダークエネルギーを貯めれば、どんなアンデットでも召喚出来ますよ!普通のアンデッドに知能をつけることも可能です!」
「うーん、例えばゴーレムに知能を与えられる?」
「はい、お任せを!」
「知り合い召喚機か。労働力量産機でもあるな。ダークエネルギーなど、私たちの傍にいればすぐにたまるだろう。寝る時の不寝番にもなるな」
「昼間は、不寝番しててもらって、夜はバックパックの中ね」
「じゃあそういうことで。ここのダークゾンビの残骸を墓に戻して!」
「了解しましたご主人様!」
「バカ息子が放ったの以外は元に戻ったようだな」
「ああ、バカ息子にこの手錠をつけないと。ダークソウルはそのままだと、人に聞こえたら騒ぎになるから、クロと呼びましょう」
「了解しました。これよりワレの名前はクロでございます」
クロをバックパックに入れ、バカ息子に手錠をかける。
起き出して騒ぎだしたが、ダークソウルはもうないよ、というと大人しくなった。
全部クロに任せきりだった様だ。結局死霊術師としても低レベルだったわけである。
「自分でゾンビは作れるの?」と聞いたら「ゴーストなら………」との答えだった。
情けないにも程がある。クロ、頼むからこんなのに力を貸さないで欲しかった。
村に戻って母親に睨みつけられ
「お父さんに叱ってもらいますからね」
と言われて泣いて謝る犯人。情けなさすぎ。当分手錠は取って貰えないでしょうね。
着替えとかどうするんだろう。その間だけ見張りでもつくのか?見張りもご苦労だ。
「本当にすみませんね」
と、報酬を提示してくれるお母さん。交渉は保存食1ヶ月分でおちついた。
それと、お手洗いを借りる。イザリヤもだ。
朝食がそろそろ発酵しているだろうからさっさと胃から出さないと。
こうして、間の抜けた騒動は、私たちにダークソウルの「クロ」ちゃんをもたらして終わった。最終的には私たちの利益となったので問題ない。
全てが終わって、ヴァンパイアの谷に帰ったら、クロちゃんのバージョンアップとか考えてみたい。イザリヤの故郷にはもう2か月で着く。
次に目指すのは、やはりダークエルフの集落だ。
さて、どうせ今度も騒動と無縁とはいかないんだろうな………
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