第30話 旅の空6

 そうして朝を駆逐し、また夜がやって来る


 寝ぼけたまま、身繕いをし、傷口のガーゼ交換をする。

 この宿は朝日が差し込んできたため、窓を『闇魔法・シェイド』で覆ってある

 これもイザリヤに教える事になった。今日はサスカッチ探しだ。

 バンの部屋に行くと、彼はもう起きていた。

 ウサギの売り上げは全部で銀貨120枚だったそうだ。3等分する。


 サスカッチとアイスゴーレムの退治に行くよ、と声をかけたら天を仰いでいた。

 彼には(グールは教えを扱えるようになるため)『頑健』『剛力』『瞬足』を教え込んでいるので、大した敵ではないはずなのだが。


「大丈夫だ、バン。『頑健』『剛力』『瞬足』を重ね掛けして、サスカッチと戦え。メインは私がやるので補助だ気楽にしていろ。それに、重要な仕事がある。」

「何だい?俺は姉さん達に傷がつくのは嫌なんで、最前線でもいいぐらいだ」


「気概は買うが、私の方が強い。だが重要な役目を任せる。お前にはララが露出させたゴーレムの「核」を確保してもらいたい」

「重要なら、まかせてくれよ。やってやるぜ」


「よし、では出かけようか」

 狩場の方に向かう。私が範囲を目一杯強化した『無属性魔法・センスモンスター』をかけて進んでいるので(低下した魔力は、血の瓶の血で補った)、すぐに3体のモンスター反応が見つかる。足音をできるだけ殺して近づく。


 ある程度近づくと、不意打ちで飛び出した。サスカッチには矢が。

 アイスゴーレムにはうっすらと見える胴体の核に向かって『火属性魔法・ファイアランス』の2倍がけを飛ばす。

 慌てて振り返ったサスカッチの目には強い敵意が見えた。

「ウォウウォウ!」

 サスカッチの命令?で、ゴーレム2体がこっちに向かってきた。


 イザリヤは『瞬足』を生かして、ゴーレムを無視し、サスカッチを切りつける。

 バンは、ゴーレムが向かってくるのを牽制している。

 私は『上級火魔法・インフェルノ』を放った。業火が、3体の魔物を焼く。

「びっくりさせるな!」

 イザリヤはそう言いつつも、大やけどを負ったサスカッチに攻撃する。


 ゴーレムは、「核」がもろ見えになってしまった。

「バン、ゴーレムの核をえぐり出して!倒した証拠にする!」

 硬直していたバンが動き出し、ゴーレムと戦いながら器用に「核」を抉り出した。

 核を取り出したら、ゴーレムたちの動きは止まり、人型の氷に戻る。

 サスカッチは逃げようとしているみたいだが、イザリヤがそれを許さない。

 支援で『水属性魔法・フリーズアロー』下半身を氷漬け。逃げられない様にする。


 戦闘は、イザリヤの1撃がサスカッチの心臓を貫いたことで終わりを告げた。

 イザリヤは、ゴーレムの核はともかく、サスカッチは丸ごと持って行こうと言う。

「じゃあ、バックパックに入れるのね。黒いから血が目立たなくて良かった」

「ゴーレムの核は提出しなくていいぞ、腕でも持って行け。分かりやすいようにな」

「ゴーレムの核は、ゴーレムを作るのに利用できるのよね。うん、私が持っておく」


 イザリヤは怪我はしたものの、それはすぐに治った。だが凍結した足を『火属性魔法・ウォーム強化5倍』で溶かす必要があった。血の瓶を飲んで魔力を回復する。

 あと、バンが酷い打撲傷を負った。

「治癒魔法:回復」と、ヴァンパイアには意味のない呪文を唱える。

「ありがとうな、姉さん」

 ウルウルした目でこっちを見ない!一応美形にしたとはいえ、バンはバンである。


 宿に帰ってきた。イザリヤがやどのおじさん(おかみさんは交代でいない)に

「討伐してきたぞ、証拠品は誰に見せたらいい?」

「本当かい⁉………信じがたい。本当なら、先に見せてくれないか?」

 私はサスカッチ1匹丸ごと(重いんだけど)と、アイスゴーレム2体の腕を出した。

「ひえっ!本当だ!村長の家は、広場で一番大きい家だ!そこの下男に案内させる」


 下男に案内されて村長の家へ。木製だが周囲の家より、結構立派な家だ。

 扉側から村長を大声で呼ぶ

「大きな巨人と、氷の巨人を倒してくれた人たちが来ただよー!!」


 ふさふさした髭と眉毛で顔立ちの分からない村長らしき人が、走って―――転びそうになりながら―――飛び出て来た。

 私たちを見ると懐疑的な表情(髭に隠れて見えないが多分雰囲気で)になるが。

 下男に「オラ親父さんの傍にいたから直接見ただよ」

 と言われ、私達を板張りの、寄り合い所っぽい所(入ったことはないが、似たような感じの所をセフォンが案内してくれたことがある)に通してくれた。


 そこでさっさと証拠品を出す。血で部屋が汚れるので、私のショールを敷いた。

 私のショールは見た目より太くて長い、しかも血液を吸収する。

 その傍らにアイスゴーレムの腕を置く。

 村長は腰を抜かしそうになりながらも、きちんと検分した。


「これ以上巨人が出ない事を確認してから、報酬を払いますじゃ。申し訳ないが3日ほど滞在を。宿の金は出しますので」

 私はイザリヤとアイコンタクトを取る(構わない?)(構わんぞ)

「では、ここに滞在します」


 そういうことで部屋に帰る。ここまでで12時頃だ。

 そうだ、イザリヤに『無属性魔法・念話』を教えておこう。交渉の時とか、こっそり相談できるから。イザリヤも覚えると言ってるし………。

 今日は吟遊詩人をやるのは時間が遅すぎる。イザリヤに呪文を教えて暇つぶしだ。


 そしてまた朝が来て夜が来る―――。


 時間を有効に使うため、私達は歌って踊ることにした。バンは護衛だ。

 3日間そうやって過ごした。本でも聖都で買えばよかったかも。

 3日分の売り上げは銀貨183枚だった。結構稼いだね。


 3日目、日没後すぐに旅支度と身繕いをして、村長の家へ行く。

 今度は女中さんが出迎えてくれた。委細承知いたしましております。との事。

 板の間にいくと、敷物が3人分あり、対面に村長。その横に報酬が積んである。

 私達が思い思いの格好で座ると、村長が言った

「巨人は出ませんでした。ささやかですが報酬を」

 と、積んであった報酬らしきものを、こっちにずずいっと押しやる


 いい弓が3個、これが一番嬉しい。今から森に入るのだし。

 保存食30個は、バンにまとめて渡した。そして金貨6枚は、山分けである。

「これぐらいしかできませんで………」

「いいですよ。ついでですが、北に行く道みたいなものがあれば教えて下さい」


「把握しとるだけの道を、狩人に案内させましょうか?」

「いや、そこまでしなくていい。私たちは星を見て祈るために昼夜反転した生活をしている。夜の森に付き合わせるのは可哀そうだからな」

「はぁ。そうですか?では道行に幸あらんことを」


「ララ、忘れていたが注意しておきたいことがある。この先はしばらく―――10日分ぐらいの距離―――は魔法が使えない。いわゆる「制限空間」という奴だ。カタリーナ(星の名前だ)は性格が悪くてな、こういう空間はあちこち点在している」


「ええ⁉魔法が使えない?教えは?」

「教えは使えるんだが………それでも勝てない獣がいる。巨大なクマだ。何故か制限空間だけに出る。こいつに出会ったら、死ぬ気で逃げろ!戦うな!」

「嫌な情報有難う。見つからないといいね」


 とか話していたことを思い出しています。今私の目の前に巨大クマの顔があります。


 野営の準備中、唐突に藪が割れ―――私はいきなり巨大クマの両手に捕まっていた。

「ララ?」「姉さん!」

 巨大クマには、私はオヤツだ。その凶悪な面相に恐怖で私の体は固まっていた。


 巨大熊は私の首と肩に噛みついた。肉が引きちぎられる音がする。

 わたしは暴れたが、通用するわけがない。

「ララ!『教え・剛力』を出来るだけ強めにかけろ!そして『教え・瞬足』もだ!私がこいつの気を逸らすから、バンを掴んで逃げるぞ!」


 私は痛みに泣きながら『剛力3』をかけた。急に抵抗の力が跳ね上がった私に、巨大熊が戸惑う様子を見せる。それを逃さずイザリヤは巨大熊の脇腹を短剣で刺した。

 私はぼとっと落とされた。逃げたい!死に物狂いで『瞬足5』をかける。


 イザリヤが巨大熊から逃れ、私の方へ。

 イザリヤを掴みかけた巨大クマをナイフで牽制、私の手を引き立ち上がらせる。

 全速力で、先に逃げていたバンと合流する。

 低レベルの『瞬足』しか使えないバンは、イザリヤに担ぎあげられていた。

 私の肩と首の食われた箇所は、再生を始めていた。定命の者なら死んでいる傷だ。

 そして私達がとんでもない速度で逃げているというのに、巨大クマは追って来る。


 私は心底恐怖した、私の血肉を牙に引っ掛けたまま、迫って来るモノ。

 ちらりと見たら、イザリヤもひどく焦った顔をしていた。目に恐怖がある。

「どこに行くのイザリヤ!」

「崖だ!その端に立って巨大クマを引き付け、崖に落とす!崖の下は激流の川だ!私が突き落すから、引き付け役を頼む!」


 そこにつくのには5分程かかるそうだが、『瞬足』のおかげで、恐怖の時は短くて済んだ。わたしはごうごうと流れる激流を背に、巨大クマをひきつけ―――死に物狂いで身をかわした。『瞬足』の恩恵だ。

 崖の端でおっとっととなっている巨大クマに、イザリヤが渾身の蹴りを叩き込む。

 空中に舞った巨体は、なすすべもなく落下していった。

「クマは泳げるんだがな、流石にこの激流は無理だろう………」


 私は、怖かった………と呟いて、だいぶ元に戻った首と肩に触れる。

 イザリヤも、ああ、怖かったと言っている。

「「クマは怖い生き物だ」」

 本能に刻まれた恐怖、これから私達は「怖いものは」と聞かれたら「熊」と即答するだろう。イザリヤ曰く、ワーベアはもっと怖い。ここは居ないが―――だそうだ。


 魔力回復用にしていた瓶で、多量の出血と、『教え』で消耗した気力を補う。

 瓶はカラになってしまった。

 呆然と座り込み「あんなんクマじゃねぇ」と言っているバンに吸血をする。

 彼は安らかに眠ってしまった。


 バンの血で、魔力回復用の瓶を作り直す。

 今回は魔力を回復する葉を入れる事にした。魔力回復効果が増強されるだろう。

 保存石を作って入れ、「教え・血液増量」を唱えると、瓶は血で満たされた。

 イザリヤは私も疲れたと言い、薔薇で香りつけをした瓶を取り出して、飲んだ。


 といってものんびりしている暇はない。もうすぐ夜明けだ。

 イザリヤと二人、バンだけテントに押し込んで、地に潜って寝た。


 ヴァンパイアは夢を見ないのが、せめてもの慰めであった。

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