第31話 最果ての村へ

あの惨劇(わたしのみ)が終わって、私とイザリヤは目を覚ました。

おはよう、クマはいないでしょうね。

用心しいしい、地面の中から顔だけ出す。

横を見るとイザリヤが同じことをやっていた。

顔を見合わせてバカバカしくなり、全身を出す。イザリヤもだ。


「そもそもバンのテントが無事だった時点で、気付くべきだった」

「あ、バン!昨日寝かしつけちゃったから無防備………」

あわててテントを覗く―――バンの巨体ではぎちぎち―――が、そこには昨日寝かしつけた時の、至福の笑顔があるだけだった。


「「心配して損したね(な)」」

「まあ、でも、この辺りには他の猛獣はいないし………大丈夫だろう」

「狼は?」

「狼の加護を受けた私がいる以上、問題ない」

「でも昨日は潜ってたよね?」

「………外で寝るようにしてやるか?別の誤解(焼死体)を受けそうだが」

「………制限空間抜けたら、私シェイドかけて上で寝たげる。未だに私の寝姿(変死体)、バンにビビられるけど」


とりあえず身繕いを済ませて………すー「「バン!」」

バンは飛び上がってびっくりした。


「ひえっ?姉さん達?昨日は俺………そうかララの姉さんの接吻で」

「そういうこと。朝まで寝ちゃうんなら、今後の時間を検討しないとね。いざとなったら蹴り起すけど。わたしは制限空間出るまで役立たずなんだから、よろしくね?」

バンは土下座して「すんまっせんでした~!!」という。

「ララの姉さんの護衛は身命を賭して務めさせていただきます!」


「まぁ、この先は狼ぐらいしか脅威はない。制限空間外はもうすぐだ。そうなったら、ララ。氷系の魔法で仕置きしてやるぐらいにしてやってくれ」

「イザリヤの姉さんは、狼になにか思い入れでも?」

「一緒に育った仲だ。まあ、あいつらがここまで下りてくるとも思えんが」

それでも他人の気はせんからな、とイザリヤは微笑んだ。

美しく、切ない微笑みだった。


「で、あと3日ぐらいで制限空間外に出る訳ね」

「ああ、その先20日ぐらいで、この王国における「最果ての村」がある。夏でも結構涼しいんじゃないか?私にはまだ暑く感じられるが」

「最果て………サンバラス王国での、だよね」

「そうだ。私の村ヘラオスフォル帝国の「ヴォルカ村」は帝国最南端にある。4か月は森を行くかな………寒いぞ。あと普通のクマだが、出る」


「ええええええ、俺、クマのいる夜を一人………?」

「うるさいやつだな、「教え:変化:大地同体」を特別に教えてやろう。こんな使われ方をするとは思わなかった………」

流石に可哀そうに思ったらしく、氏族の誇りともいえる『変化』を教えてやるとは。

イザリヤはやっぱり貴族、下の者への気遣いがあるのね。


バンは泣いて感謝している。はいはい、もう出立するよ。

魔法が使えないのは気持ちが悪いんだから………。

それから23日間の旅は、順調に進んだ。

私の魔法が復活してからは、効率よくキツネやウサギを狩る事ができたからだ。


キツネ12匹、ウサギ20匹の成果だった。

遠くには見えてきた、布と木でできた家がある。

だが、正面に見える広場では何やら偉そう人が、演説しようとしている最中だ。

急ぎ足で、演説に間に合うように進む。


「あー、今この村に起きている異変に諸君もお気づきだろうと思う。透明人間がでておるのじゃ!村の酒場では、だれも触っておらぬのにぃ、テーブルが宙に舞った!そして女の下着が盗まれた!さらに、ネレンの財布がなくなったぁ!トドメに、わすの命が狙われた!これをもってぇ、緊急事態を宣言する」

そういうと、ちっこいおじいちゃんは、ふんぞり返って広場から去っていった。


わたしはぼそりと「インジヴル・ストーカー」かな?と呟く。

広間の人の視線がこっちを向く。期待の視線だ。

「あんた、この悪戯騒ぎの犯人が分かるのかい⁉」

「ええ………もう少しお話を聞かせて下されば、多分」

「あんた、お連れさん達も一緒に寄り合い所に来な!宿泊料をタダにしてやるから」


そういって、おばちゃんに連れて行かれた先は、暖かい天幕(パオ)だった。

お茶を出されて、話をせがまれる。こういうときは巻き込むに限る。

「さっき言ったのはインジヴル・ストーカーです。イザリヤも知ってるでしょ」

「いや、初耳だが」

「ああ、もうっ。透明人間のモンスターよ!」


「犯人が透明⁉、そんなのいるのかね!でも全部説明がつくわぁ!それね!それでどうやって捕まえるんだい?」

「村の人を全員集めて、誰が透明人間か「センスマジック」で、ババっと確認して、居なければ村のどこかに潜んでいますので、皆さん動かないで貰って、家を全部確認します」

私は立ち上がり、魔法の杖を入口に向かって投擲、命中。


ゴンっという音と共に、入口にへたばったのは―――村長だった。

「え、いや村長さん、家に戻ったんじゃないのぉ!」

「透明化して、こっちに入って来たんでしょう。透明人間になれたのは、首のネックレスね。さっきからずーっと『センスマジック』かけてましたから、丸見えですよ。

命を狙われたって………注目でも集めたかったんですか?」


「これでいいですよね?私たちは本来旅芸人をしながら、星女神アステラ様を奉じていますので、そろそろ夜明け。眠りにつきたいのですが」

バンが頷いて空き家は有るか聞くと、この寄り合い所に泊まってくれと言われる。

困った事態だが、バンが2人分の天幕を出して、張ってくれた。

有難くもそもそ入り込む。内部に『シェイド』を満たした。これで安心して眠れる。


私達が目を覚ますと、寄り合い所の中がえらく騒がしかった。

「あっ!嬢ちゃんたち!誰も真っ黒の中に手を入れられなかったんで、起きてくるのを待っとったんよ!透明人間の村長が殺されたんよっ!これってどういうことか解るかいっ⁉」

思考能力を持ってないのかこの村人は―――と思いかけて、普通の人は魔法の知識なんてない事を思い出す。


「ごめんなさい、身繕いだけさせてねと」言って『シェイド』を消す。

イザリヤが起きているのは確認しているので大丈夫なのだが、これは一体どういうことか………どう考えても村長に透明化のアイテムを与えた魔術師が元凶だろう。


起きて来て、その事実をそのまま告げる。

「森のどこかに住み着いてしまったんじゃないですか?」

犠牲者が出ているだけに村人はピリピリしている。

「どこかって、どこなんだよ」


「私はただの旅人ですから………皆さんの方がよく知っているのでは?」

「何をだよ!」

「魔術師の潜む場所に決まっておろう。住民としてのプライドはないのか?」

「うっ………そうだ狩人、それっぽい場所はないのかよ」


「そうさな。昔封じた洞穴の洞窟が一番怪しいんでないかいの?おめさんたちが生まれる前の話じゃけぇ、話には出んかったが」

「そうだわ、お母ちゃんに聞いた事があるわぁ!人食い鬼が出るから近寄るなって」

「そ、そこに行って、魔術師をやっつけてくれよ、狩人のおっちゃん」

「わしゃもう年だ。弟子はまだ未熟なのが多いしのぅ………」


「じゃあ、どうすんだよ!」

「やってやってもいいぞ、小僧。報酬は貰うがな。今ここのトップは誰なんだ?」

「儂になるのう」

と狩人のおじいさん。あまりにノンビリしてて、トップって感じに見えない。


「そうか、ならばお前に聞くが件の洞窟とやらに行って、魔術師退治を引き受けてもいい。ただ報酬はどれだけ出る?」

「そうさのう、村の皆が食べれるように残すとして、40食分の保存食じゃ」

「いいだろう、引き受けた。ついては案内を頼みたい」


「いいじゃろう。そこの大男と、短髪のお姉ちゃんもいいかね」

「はぁー。イザリヤは全く。いいわ………協力しましょう」

「姉さん達が行くんでしたらおれはもちろん」

「では、悪の魔術師退治に行くとするか。アレを潰してからな」


ヒュオっという音と共に、小枝がイザリヤの怪力とスピードで投げられた。

ぼとっと落ちてきたそれは、胴体が目玉のコウモリだった。

ぎゃあぎゃあと騒ぐ村人。これは、本当に悪の魔術師で正解かしら。

「黙んな、皆。おらが今から客人方を洞窟に案内するからよう」

その場は取り合えず、静かになった。


「こっちじゃよう」

私達は森の中をトコトコ歩いてきた。九月の森は恵に溢れている………らしい。

私は森は門外漢だが、学ぶように努力している。漁の事なら分かるのだけれど。

バンはここに来るまでにイザリヤに教わって、適応したようね。


「ここか」

木々に挟まれて、ほぼ入り口が閉じかけだが、隙間から石造りの壁が見て取れる。『ウィンドカッター!』ばらっと木々が細切れになり、人が通れる様になった。

狩人さんには待っていてもらい、大した広さでもないので手分けして探す。

「ピューイッ」合図の笛、イザリヤが当たりだ。


大急ぎでかけつけたところ、イザリヤは手負いだった。

胸がザクっと切り裂かれている。視線の方を見ると………ん?石像?いやこれは

ゴーストか!ゴーストが石像に憑りついているのか!

「あんた、なんで石像なんかに憑りついてるのよ!」


『使えんやつばかり………村長は生贄を持ってこいと言ったのにいっこうに持ってこないから死罪としたが………我が使い魔までも』

「村長が使えないのは見たらわかるでしょう!ああ!もう!『ライトアロー!』」

ぎゃああああ!!

派手な叫び声と共に、ゴーストは消滅した。下位精神系呪文で1発って………。


「あんたは何で怪我したの?」

「話しかけられて、エアスラッシュとかいう魔法を飛ばされたが、すぐ治った」

「そう………使う魔法も低級か。ゴーストだもんね」

「そうなのか?」

「あんたはなんだと思ってたのよ!」

「変種のガーゴイルかと」

「情けなくなってくるからいいわ、もう」

このころようやくバンが慌てて走ってきたので状況説明。


狩人さんも(主にゴーストのたまぎる悲鳴で)納得してくれて、村へ帰還。

私とイザリヤは飲めや歌えやに巻き込まれたくなかったので、吟遊詩人と踊り子に徹した。差し入れも全部断った。そして朝にはテントに引っ込んだ。

おじさん達の相手はバンに任せる。


ちなみにキツネ12匹、ウサギ20匹は銀貨150枚で売れた。

だが、ゴーストの攻撃でイザリヤの旅装が裂け、修繕してもらったところ銀貨90枚かかった。いい出来だったのでまあいいけど。


私達は眠りに沈んだ………。

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