第28話 旅の空4

 聖都の手前の町「ログレス」の宿屋にて、私とイザリヤは目を覚ました。

 大急ぎで身繕いを終え、廊下の向こうのバンの部屋をノックする。

 すぐに扉は開いた。バンはもう旅支度を整えていた。保存食も買ったそうだ。

 テントも、安物(いいものを聖都で買う)を購入していた。


「ケガさせてないけど、昨日若い男女を吸血の為に襲ったから、早く街を出るよ」

「襲うって昨日の、すげぇ気持ちいいやつのこって?」

「そう。捕まえて急にだから、通報されてる可能性もあるから」


 速足で宿を出、できるだけ印象に残らないように町の門から出る。

 町が視界から消えたあたりで、わたしたちはほっと息をついた。

 多分、昨夜の二人は通報しなかったのだろう。

 でなければ、衛兵の一人ぐらい門にいたはずだ。


「―――さて、改めて聖都へ向かうか。3日間の道のりだな」

「新しい街道だけあって、歩きやすいね」

「一定の距離ごとに、騎士の詰所があるそうだぜ。さすが聖都への道だ」

「その詰所のない所で野営しないとね、言い訳はちゃんとあるけど………」


 ―――そして聖都クォンメルへの旅はつつがなく終わった。

 

 日没後1刻ぐらいに、私たちは「聖都」クォンメルに辿り着いた。

 聖都の入場料は、1人頭銀貨3枚だ。さすがに大都市は高い。

 夜なのに、旅人を相手にした屋台は途切れることはない。迷路のようだ。

 売ってるもののほとんどは食べ物なので、私たちにとっては悪臭の坩堝だ。


「バン、もし何か食べるなら早く済ませてね」

「いや、姉さん達。宿で食べるから大丈夫だ」

「ミラの前神殿に行って喜捨をしましょう。それで宿の情報を聞きだしたらいい」

「このまま適当に選ぶのは危険すぎるか」

「ええ、人さらいがいたっておかしくもないわよ」


 旅人などが旅の無事を願って立ち寄る、前神殿が見えてきた。

 中に入り、神像の前で跪き「我らの旅路に祝福を」と唱える。

 そして金貨を2枚「喜捨でございます」と神官に渡し、独特な方法でお辞儀する。

 2人には喜捨以外、私のすることをそっくり真似するように言ってある。


「神官様、私たちはこの街はに来るのは初めてでございまして………教会のお勧めの旅の宿などはありませんか?」

 若い神官は、しばらく考え

「………旅のものが何組か褒めていた宿がある。表通りに面している大きな宿屋で「岩窟亭」という宿だったと思う」

「ありがとうございます。神官様」

 そうして私たちは前神殿から出た。


「表通りか。市とはやや方向が違うな」

「市のあたりは雑多に人が集まってるからな、俺は表通りでいいと思うぜ」

「そうか、バンがそういうなら「岩窟亭」に泊まろう」

「バンは聖都に来たことがあるの?」

「まあ、ケチなスリで。市の傍に多いんで、姉さん方も気を付けてくれよ」

「とりあえず、「岩窟亭」に行きましょう」


 「岩窟亭」が見えてきた。石造りの門の上に、でかでかと白く「岩窟亭」とある。

 1階は平屋のようで、酒場があるけど、もしかして客室は地下だろうか。

 宿のおかみさんに泊まりたいと話しかけてみたら

「お泊りは地下だ。閉所恐怖症じゃなきゃ大丈夫さ。泊まるのかい?地下二階だよ」


 内部は、壁に大きな石がぎっしり嵌め込まれており、まるで石垣のようだ。

 天井は高いし、廊下も部屋も広い。その上あちこちに『光属性魔法:ライト・ハイ(永続する光)』がかかっているので、閉塞感はなかった。

 部屋の明かりは、2つのランタンに『ライト・ハイ』がかけられており、暗くしたい場合ランタンのシャッターを下ろせばいい仕組みになっている。


 宿に荷物を置いて、市に行く準備をする。

 ウエストポーチに(前の町で購入)複数個に分けてある財布。を入れるだけ。

 バンは頑丈そうなウエストポーチ(今までの町で買ったんだろう)に財布。

 私はスリングを着けたいスタッフを持ってちょっと考える。

「イザリヤ。これと別に魔法の杖を買って、普段は支柱はしまっておいちゃダメ?」

「どこにしまっておくんだ?」


「昔、ここに住んでた時、魔法の袋を見たの。重さ大きさ関係なく50種類99個まで、何でもしまえる魔法の袋。そこまで高性能じゃなくてもいいから、魔法の物品を取り扱ってる、神殿直属の店に行ってみない?」

「………確かに身軽になるな。普通のものはカモフラージュでバンに持っていてもらい、私たちはウエストポーチでも身につけてそれを入れておくか?」

「イザリヤがいいなら、神殿直属の魔法店があるから行こう」


 私たちは、市に行く前に、神殿直属の魔法店に立ち寄った。

 入ると、聖印を身につけた店員さんが、お探しの物はありますか?と聞いてきた。

 魔法の収納袋はないか聞いてみると

「お目が高い!神殿で造られている一品でして、このような種類があります」

 

 単なるポーチ型(10㎏までで5種10個まで)金貨1枚

 ウエストポーチ小(10㎏までで10種類20個まで)金貨3枚

 太い腕輪(銀色に神聖文字の刻印がある)(10㎏までで10種類20個まで)金貨3枚

 ウエストポーチ大(15㎏までで15種類30個まで)金貨5枚

 ナップサック(30㎏までで50種類70個まで)金貨10枚

 バックパック(重量制限なしで100種類99個まで)金貨30枚

 水袋(30kgまで)金貨1枚


「私は買うならでいっそバックパックがいいと思うの、どう?」

「ふむ、バックパック1つで十分だな。共同で使おう(血の樽が入れられるぞ)」

「なら手元に腕輪を置いておく?(それはいいな)」

「そうだな、バックパック1つと、腕輪3つと、あと水袋もいる」

「えっ、何で?」「お主には欠かせぬであろう?」

と返ってきた。

 私とイザリヤでお金を出し合う。


「お色や素材も選べますが」

「バックパックは………どれも魔法繊維だから防刃よね?黒いやつで」

 と、一番普通の奴を指し示す。

「私は腕輪は赤い細工物のやつを」

「そうだな、私はこの革ベルト状の茶色を」

「「バンは?」」

「えっ、俺か?」

「あなたにも腕輪があるわよ」

「いいのか?すまねぇな、姉さん達………ならシンプルに茶色の木製で」


 全員、その場で荷物を移し替え。わたしは財布と杖を。

 イザリヤとバンは武装(剣)を腕輪にしまっていた。

 バックパックは、私が管理することになった。

 恐らくこれは、血の瓶や樽、大量のハーブや薬草、スパイス、などが入るだろう。

 市で樽も10個ほど買う事になった。


 買いたての魔法の袋を身につけて、私たちは市にやって来た。

 まず、武器の店を探す。人に聞きながら探したら、割とあっさり見つかった。

 イザリヤは武器というよりサバイバル用のナイフを探しているらしい。


「オヤジ、この解体用ナイフと、このボウイナイフをくれ」

「はい!合計で金貨1枚でさぁ」

「俺も、この解体用ナイフをくれ」

「銀貨40枚だよ!」

「私は、この折りたたみ式のナイフを頂戴」

「銀貨30枚だよ!」


 次は弓だ。私の筋力ならロングボウだろう。

「そうだな、全員ロングボウを買っておくのがいい。オヤジ!ここで一番品質のいいロングボウ3つとと矢300本をくれ」

「1セットにつき金貨1枚にマケとくよ」

 イザリヤは渡された弓を引いて確かめると、それでいい、と言った。


 次は剣。イザリヤは、丈夫そうな上質な剣のひとふりを選び、いくらかと問う。

「目が肥えてるねぇ、業物だよ。金貨3枚だ」

「それでもらおう」

「俺はショートソードを買った方がいいか?」

「北へ向かう道は、ロングソードでは木に引っかかる。買っておけ」

 バンはしばらく迷ってから、こいつをもらおう、と言った。

「それもいい品だよ!オマケして、銀貨50枚だ!」


3人共、買ったものは腕輪に収納していた。取り出しやすいもんね。


 最後はスタッフスリングへの加工だ。支柱(杖)を取り出して加工できるか聞いてみる。加工はできるが、時間がかかる。明日の夜受け取りに来てくれと言われた。

 あと買わなければいけないのは魔術師の杖、ハーブ類、樽、バンの旅支度である。

 まず、店主に魔道具屋の位置を教えて貰った。


 店頭には雑多な魔道具が、所狭しと並んでいた。

 その中で杖を探し、杖の効果を『無属性魔法・解析』で調べてみる。

 その中に、詠唱中に術者の周りを結界で覆う、というのがあった。これがいい。

 値段を聞くと「金貨5枚だよ」と言われた。高いけど、これが良いので買う事に。

 木製で、天辺の所が円状に曲がっており、赤い宝玉がついている。

 魔法使いの典型的なスタイルだと言われた。気に入ったから、かまわない。

 腕輪にしまわず持って移動する。 


 次はハーブ類。これは数が多いので、市を流し見しつつ好みの物をばんばん買う。

 かなり大量に買ったので、バックパックに収める。

 樽もいくつか店を巡ってたくさん買う。12個になった。バックパックに収める。

 それと蓋がしっかり閉まる陶器の瓶も10個ほど買った。バックパックに収める。

 全部で金貨3枚ぐらいになった。


 最後に、旅人用の店に入る。バンの旅支度の為だ。

 大きく頑丈なバックパック、火打石、ロープ、手斧、大きな鍋、ポーション一揃い、携帯食料20回分を種類を変えて4つ程(腕輪に収納)葡萄酒、瓶20本。

 もちろん、一人用の天幕(きちんと床も覆われている)も。合計で金貨3枚。

私たちもお金を出してあげることにする。一人金貨1枚だ。

 素寒貧になったバンには、銀貨100枚を改めて預けた。


 これで買い物は終わり。今は真夜中だ。

 後は、血の樽を作るため、ハンティングに出かける事にする。バンは自由行動だ。

 一旦宿に戻り、バックパックを置き(窓がないので、忍んでは出られない)瓶をそれぞれ4つ持ち(腕輪に収納)宿の玄関から腕輪のみの軽装で外出する。


適当な路地でたむろしている男女を見つけ、私が『無属性魔法・スリープミスト』で眠らせて、少々血をいただく。勿論傷は治した。

持って来た瓶の中に、牙から流れ出血を封入する。

そう言った事を、合計8人繰り返した。


何でそんなに大胆に吸血を繰り返したかと言うと、大都市だからである。

都市では眠らされただけで物取りでもないなら、そんなに噂にならない。

そして私たちは流れ者なので、これ以上は被害も出ない………。

すると官憲もまじめに操作はしないだろう。

これが村とかだったら、すぐ騒ぎになったろう。

そう言う打算で、ここで血をたくさん調達したのである。


さて、宿に帰ると、樽を8個取り出し、瓶の血をあまさず移し、瓶は拭いておく。

私とイザリヤは血の樽を作り、バックパックにしまった。


さあ、夜明けだ。怪物は眠りにつく時間―――。

おやすみなさい。

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