第27話 旅の空3

 太陽が沈んだ。私とイザリヤは同時に目を覚まし、土から出る。

「おはようイザリヤ」「ああ、おはようララ」

 テントの内部に出たので、見ているのはグールのバンメル(バン)だけだ。

 と言っても彼は寝ている。燻製の面倒をみてくれてたので、今起すと寝不足かな?


「街でゆっくり寝させてやればよかろう。今日で到着したいしな」

「そうだね、起こそう。バン!夜だよ!起きて!」

 彼の頬をペチペチと叩くと、う~んとうなって目を開けた。

「もう夜なんですかい?あんまり寝た実感がねえなあ」

「ごめんね、町ではゆっくりさせてあげるから」

「いや、姉さんが謝る事じゃねえ。それより、燻製が終わってるぜ」


「「ありがとう(すまんな)、バン!」」

 二人でお礼を言い、イザリヤが燻製を受け取った。

 イザリヤは残りの20匹も入れて持てるように、籠を作り直すという。

 その前にやることが。バンに3回目の血を飲ませるのだ。

 私たちの血が入ったゴブレットを、バンは大人しく飲む。


「姉さんたちが輝いて見える。世界で一番大事なのは姉さん達だ!ウォーっ!」

 バンのいきなりなおたけびに、私たちの方がビックリした。

「バン落ち着いて!あなたの気持ちは理解したから!私たちは身づくろいするから、外で籠の材料(長い、葦のような草)を取って来て頂戴」

「喜んで!ああ、なんか力が湧き出てくるぜ!」


 バンが外に出た後、私たちは身づくろいをしながら話す。

「グールって普通の人間より身体能力高くなるんだったね。忘れてた」

「まあ、さすがにいつまでもハイテンションのままではいまい」

「だね。外に出たら元に戻ってるでしょう」


 私とイザリヤは外に出てテントを片付ける。

 支柱は杖として私が持ち、布部分はイザリヤが荷物にくくりつける。

 バンの荷物にするべきなのだが、彼はまだ背嚢を持っていない。

 その代わりウサギ50匹を持ってもらおうということになった。

 それと、彼は旅支度も必要だから、渡した銀貨100枚では足りないかもしれない。

 ので、金貨を1枚づつ計2枚渡す事にした。


 バンが草の束を抱えて戻ってきた。ちょっと多すぎ。

「姉さん達、これでいいか?」

 テンションは元に戻ってるね、安心した。

「十分だ、そこに置け」

 バンはイザリヤの指さした地面に、草の束を置いた。

「ララ、昨日見ていて多少は覚えてるだろう。この籠はばらして再利用。あと20匹入れて背負子に作り直すぞ。手伝え」


 私は素直に、イザリヤのやり方を見つつ草をより合わせる。

「バンも見ておけ。今後、役に立つかもしれん」

「わかった。見て覚える」

 途中からバンも手伝って、背負子は完成した。バンに持ってみてもらう。

「大丈夫だ、ちょっと重いが姉さん達に持たせるよりよっぽどいい」

「私たちでは、見た目的に問題があるからな。頼んだ」


「ところでバン、お前はバルリーサの町に詳しいか?」

「それなりには。中規模の市があって、聖都への巡礼者や商人で賑わってる街だ」

「なら、雨戸があるか、木の窓で、室内に光が入らない宿を知らないか?」

 ああ、それがあった。

 ない場合、闇魔法で光を塞ぐか、最悪部屋の中でテントを張る羽目になる。

「ゴツイ木の窓の宿だったら知ってるぜ。見ただけだから完全に遮光できるかは保障出来ないのが辛いところだが、中堅クラスの宿だ、多分大丈夫だろう」


「なら宿はそこにするか………っと忘れるところだった。ララ」

 ああ、そうだった。私たちは金貨2枚を追加でバンに渡し、できるだけ頑丈そうな物を選んで旅の支度をするように。余りは好きに使っていいと言った。

「姉さん達は本当に俺なんかに………一生ついていくぜ!」


 バルリーサには夜明け前に着く事ができた。

 入口で通行税をそれぞれ払って(1人頭銀貨1枚)早々に宿へ向かう。

 1人部屋と2人部屋を取って、バンにも夜まで休んでいいと告げる。

 部屋の遮光は問題なさそうだったが、扉を開けられないかが問題だった。

 私は「無属性魔法・ロック」を扉にかけ、魔法的に施錠した。

「無属性魔法・ディスペルマジック」をかけなければ、何をしても開かない。

 簡素だが清潔なベッドで、私たちはそれぞれ眠りについた。


 日没だ。「おはよう」と声をかけ合い、それぞれ身づくろいする。

 傷の手当?もさっさと済ませ、まず宿の親父さんに騎士の詰所の場所を聞く。

 当然、盗賊団の通報だ。バンを連れて行くのは気まずい。

 バインディングしてあるままなので、放っておいたのでは死んでしまう。

 だから通報のである。

 バンを連れてこなかったのは、後で盗賊の仲間とバレないためだ。


 それが終わると、バンを迎えに帰る。商品を彼が持っているので当たり前だが。

 宿の親父さんに市のシステムを聞く。

 夜は聖都と違い市は閉じているそうだ。

 商業ギルドの出張所は夜でも開いているので商品登録できる。

 後で売り上げの10%を払う契約だそうだ。場所は空地を好きに使っていいとか。


 ウサギ肉と毛皮を持ったバンを連れて、商業ギルドを訪れると驚かれた。

 魔法使いが協力したからこんな量になってしまった、と言い訳(イザリヤの技量も大きいのだが)し、登録をする。それと夜の間、広場を借りることにした。

 ウサギ肉と皮は、朝になってからバンに売って貰うので、バンには休んでもらう。

 私たちは広場で歌と踊りで稼ぐことにしたのだ。


 宿に戻って、着替えと化粧をする。バンは休んでてもらう。

 歌と踊りの演目を決め、リュートを持って出かける。

 広場の噴水の縁に腰かけて、私は歌った………神々の叙事詩を。

 この曲は時折踊りの場面があり、リュートの音色に乗ってイザリヤが舞う。

 演目を変えながら、何度か歌い舞った。

 最終的に銀貨42枚が集まった。商業ギルドに4枚支払って、38枚になる。

 私とイザリヤで、半分づつ取る事にした。


 もうすぐ夜明けだ………バンにウサギ肉とウサギ皮を任せる。

 ちなみに金額は両方銀貨4枚で、場合によっては値引きありにするそうだ。

「「任せたよ(ぞ)、バン。」」

 私たちは、『シェイド』の切れた部屋に戻る。太陽が昇り始めている。眠い。

 窓から少し光が入っていたので『シェイド』をかけ、入口に『ロック』をかけた。

 そうしてまた眠りにつく………死体となって。


 日没だ。バンがノックする音で気付いた。『ロック』を解き、入るように促す。

「姉さん達!ウサギ肉は全部売れたぜ。丁度領主の館でパーティがあるのに、肉が足りなかったとかでよぉ、言い値で買ってもらえたんだ!ウサギの皮の方は、市が終わる前に値引き販売して売りつくした」

 そして銀貨252枚を手渡してくれたので、3等分する。84枚づつだ。

 バンが数に入れてもらえて感激している。売ったのはバンなんだから当然だよ。


 あと、バンは聖都までの取り合えずとして、旅人の背嚢と、ナイフとロープ、5日分の保存食を買いこんでいた。銀貨20枚で、セットで売ってたそうだ。

「それなら、もうこのまま発とうか?イザリヤ」

「ああ、聖都までは急ごう」

「早く着くように、新街道を行こうよ。夜盗は………出る時はどっちでも出るし」

「そうだな、そうしよう」


 テントをバンに預けて(支柱部分は私の杖だ)、私たちは旅立った。

「次の町にも寄るの?イザリヤ」

「私たちはいいが、バンは保存食を買い足さないといけないだろう?ついでに芸を披露して、路銀を稼ごう。まあ、今でも困ってないが………」


 私たちは、急ぎ足で街道を進んだ。さっさと聖都に行きたいからだ。

 バンもグールになって体力が上がっているので私たちについて来れる。

 途中で買い足すものが増えた。テントだ。基本地中で石となり眠るが、偽装用にテントは必要だ。バンをテントに入れてしまうと、朝が窮屈なのである。

 身づくろい(怪我の処置も含めて)するにも見られて嬉しくはない。


 5日間はあっという間に過ぎ、聖都の手前の町「ログレス」に到着した。

 街への入場料は銀貨1枚だ。

 旅人用の店は、酒場を兼ねて開いているし、保存食なんかも、ここで売っている。

 もっとも、美味しいものが昼間なら市で買えるので、バンの為にも2泊(夜出ないと出立できないので2泊の扱いになる)することに。

 バンがまた感涙していたが、それはさておき。


 血の瓶が2つとも空になったのだ。

 1瓶はバンの血を貰うとして、もう一つは狩りをしなくてはならない。

 イザリヤも真っ黒な服装で、髪もフードに押し込んでいる。私もショールを外す。

 怪しまれないように、3階の窓から出、路地裏に潜む。


 そのうち酒を飲みに行くのだろう男女が通りかかった。

 私は女の、イザリヤは男の血が好み。丁度いい。

 私たちは二人連れの後ろにすっと立ち、がしっ、と2人をの手を拘束する。

 そして、声を出される前に「かぷっ」と、牙を立てた。久しぶりの直飲み。


 わたしたちは『無属性魔法・浮遊』で、3階に帰る。

 そして血の瓶を取り出し、『無属性魔法・保存石』で、保存石を作成。

 牙から血を注ぎ 、『教え・血液増量』で血液を増量する。

 最後に好みのハーブを入れて完成!


 バンの部屋をノックする。

「誰だ?」

「私たちよ」

「姉さん達!どうぞ」

「先に言っておくけど、朝、目が覚めたら、保存食を買いに行ってね」


「お前を噛みにきた。大丈夫だ、気持ちいいはずだから」

「お二人の為なら、苦しくても平気だぜ」

「大丈夫、意識を手放すぐらい気持ちいいから―――」

 そう言って、左右から牙を立てて、血を吸う。野性味のある、男の味だ。

 バンは恍惚とした表情で眠りについている。ベッドにきちんと寝かせてあげた。

 そして私たちは血の瓶をもう一つ作ることができた。


 その後は、宿の酒場で歌ったり、イザリヤの踊りに伴奏をつけたりして過ごした。

 さすがに客が帰り始めたらやめたが、好評だった。銀貨で20枚収入があった。


 朝が来る。また夜目覚めたら出立となるだろう―――。

 聖都までもうすぐだ。

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