第26話 旅の空2

 次の日、街道に少しづつ緑が多くなってきた。

 そして、身繕いをすませ夜の旅に出ると………野党が出た。20人ぐらいかな。

「身ぐるみ全部置いてきな」

 下っ端らしい男の口上だ。典型的だなぁ。


「………まてよ、こいつら美形じゃないか、奴隷商人にでも売り飛ばすか?」

 リーダーらしき男が呟く


「よし、生け捕るぞ。処女の方がより高く売りとばせるから、手は付けるなよ」

「了解しました、首領!」

 そう言って、襲い掛かって来る


 イザリヤが、リーダーの男を狙って、ショートソードで切りかかるが、部下が立ちはだかる。だが、2回切り結んだだけで、イザリヤにあっさりと倒された。


『無属性魔法・眠りの霧』で、戦域全体に眠りをもたらす霧が広がる。

 イザリヤの前の盗賊も倒れる。

 残りは首領と、6名のみ


「お、お前ら!起きろっ」

 無駄である。音では起きない。蹴ったり殴ったりすると起きるが。

 私は、「魔法・フリーズアロー・強化5倍・飛行制御」を唱えた。

 飛行制御により、矢がそれぞれ生き残った盗賊―――イザリヤに当たるので、首領はナシ―――6人に飛んでいく。

 強度を5倍にしていたおかげと、飛行制御のおかげで、6本は過たず6人の下半身を氷漬けにしている。上半身も凍らせようかと思った時、イザリヤが首領を打ち取った。


「さて………こいつら、どうするか」

 イザリヤの問いに、

「時間経過で解けないタイプの『無属性魔法・バインディング』で彼らを縛ろう」

 と、案をだす。

「そういう魔法があるのか。首領は死んでるから、部下たち全員だな」


 下半身氷漬けになった連中が、寒さでガタガタ震えながら「降参するので溶かしてください」と懇願してきてうるさいので、私は彼らの武装解除をしながら「無属性魔法・アンチマジック」をかけ、氷を解かす。

「はぁぁぁ」と弛緩する彼ら。


 そして、全員に『無属性魔法・バインディング・範囲拡大』で魔法をかける。

「この人達、どうしよう」

「近くの町までそんなに距離はない。警備隊につきだそう」

「そうね。あ………いいこと思いついた」

「何だ?」

「この人たちの誰かをグールにしよう」


「ああ、なるほど。それなら騒ぎにはならないな。だったら、ガタイがあって血の多そうなやつ、あと荷物持ちになる奴だな」

「官憲に突き出されたくなくて、荷物持ちで私たちに付いて来てもいいと思う人?」

「はい」と複数の声が上がる。

 その中で一番体格が良くて丈夫そうな人を選ぶ。

「イザリヤ、あの人が良さそう」

「そうだな。共同のグールという事で両方が血をやろう」


 選んだ人に、私とイザリヤの同じ血の量をコップに入れたものを飲ませる。

 グールを作るには工程がある。基本的に3日間毎日血をやって、三日目で完成。

 だが、1回目の血は「飲んだ人はこちらを好意的に見る様になる」効果しかない。

 2回目で「どんな命令でも聞く」ようになり3回目で「愛を感じる」ようになる。

 3回目で、立派なグールの完成だ。

 ネックは3月に一度、血をやらないと、段階が下がることぐらいか。


 私は、選んだ奴に名前と生年月日を訪ねた。

「名前はバンメル。バンと呼んでくれていいぜ。4月3日の生まれだ」

 おひつじ座か。

 私は予備の聖印(まだ星座を彫ってない)を取り出し、彫刻刀で星座を彫った。

 革ひもを通し、バンの頭からかける。


「これであなたも星の女神の信徒」

「おっ、おう………わかった」

「人に聞かれたら、漁村の生まれで私たちをお供につけて巡礼の旅をしていると答えてね。ルートが違うと言われたら、星の女神のお告げで、北の村に行くんだ、と言ってちょうだい」

「わかった、任せてくれ」

「他の事は、後で話すわ」

 コクコクと頷くバン。首領以外殺してないからか、その目には好意の光がある。

 バンの『バインディング』を解いてやる。


 武装解除した武器から、自分のでも他人のでもいいから、武装を選ぶ様に言う。

 すると彼は、ロングソードと短剣を選んだ。

 防具は武装解除してないが、欲しい人のはあるか?と聞くと

「首領の防具が欲しいなあ」

 というので、首領から防具―――ブレストプレートと具足―――をはぎとり、水でキレイに血を洗い流してからバンに与えた。

 水はカモフラージュだが、一応普段私の胸の傷の血を拭きとるのに利用している。


 旅の勇士、と言っていい姿になったバン。これなら護衛になるだろう。

 私たちは、縛られた盗賊を放置して、旅の道を行く。

「取り合えず、私たちの護衛をしてて。朝に眠るから、その時に話すことがあるわ」


 もうそろそろ日の出、という頃に、私たちは深い、日の光の届かない草木の生い茂るところに入った。

「あのね、バン。私たちって実は吸血鬼なの。だから昼間は行動できないし、普段は獣の血で済ませてても、どうしようもなく人の喉から血が飲みたくなることもある。吸わせてってお願いすることも度々あると思うわ」


「本当なのか………俺を殺す気か?」

「まさか、飲むって言っても、小さめのゴブレット1杯分ぐらいだもの。あなたに期待してるのは、荷物持ちと護衛、時々少量の血を貰うって事ぐらい」

「噛んだら仲間になるんじゃないのか?」

「ならないわ。もっと手順を踏まないとならないから安心して」


 状況を呑み込むのに必死なバン。

「衣食のうち、住以外は私たちが持つわ。私たちは吟遊詩人と踊り子をやってるの。あなたは、変な虫から私たちを護衛してね」


 朝日が上がる、イザリヤはどうしても眠いようで、草地に横になった。

 たちまち変化が現れる。

 イザリヤは「く」の字になって倒れる、手の施し様がないほどの火傷の少女に変貌した。目は見開かれている。

「ヴァンパイアはね………眠る時、自分が「死んだ」直前の姿になるのよ」


 バンは私の方を見てくる。私は苦笑する。

「今日は私は寝ないわ。普通は寝てしまうけど、私は大丈夫なの。疲れるけどね」

「はぁ………。寝ないんですか?」

「あなたを見張ってるの。信用できるかまだ分からないもの」

「すみません、でも裏切ろうって気持ちは、不思議と感じないんですが………」

「ありがとう、でも一応、ね。それと、敬語はいらないよ。仲間になるんだから」

「わかったぜ。ありがとうよ、むず痒かったんだよ」


 バンと私は色んな話をした。

 幸いバンは、さっさと吸血鬼の従者であるという事を受け入れたらしい。

 ウサギを毛皮と燻製肉にして、聖都で売ろうと思ってることを言うと

「ララ(呼び方を許可した)の姉さん、それは止めた方がいいぜ。そういう普通のものは、小さい市で売られるもんだ。この先の町で売った方がいいせ」

 その方が高い値が付く、とバンが言う。

「イザリヤに言ってみるよ」


 その他、昼食時にバンが、ああ、もう飯を4日も食べてない―――と嘆くものだから、私は持ってるだけだった保存食をバンに渡した。

 バンは暖かい物も欲しいだろうし、と私は燃えそうな木の枝を集めて「火属性魔法・着火」と唱える。たちまち焚火の完成だ、不快感はあるが仕方ない。

 鍋に水と、血の瓶用のハーブを入れて、沸騰。

「バン、ハーブのスープだよ」

 と渡す。バンは涙を流して感激した。焚火に寄って座り、スープをむさぼる。


「この先の町で、人間用の保存食も買うからね、バン」

 幸い町まではあと2日もあれば到着する。保存食は2人で3日分持っているから飢えさせはしないはず。ちなみに町の名は「クリット」というそうだ。


「バン、出身は?」

「さびれた漁村だよ………うちは漁師としては食べていけなくて、親父以外は出稼ぎに出てたりした」

「私も漁村の生まれよ。津波で全滅したけど」

苦い思い出が蘇って来る。

「俺は、家出して傭兵になったんだ。けど、東の紛争が治まるなり無職になって」

「盗賊に身を落としたのね。それでも食い詰めてたみたいだけど」

「最近できた聖都までの新街道(私とイザリヤは人が多いのを嫌って旧街道を進んでいた)にほとんどの獲物が流れちまって………。あっちに移ろうかって案もあったんだけど、それを実行に移す前に」

「私たちに倒された、と」

「そういうことだ」


 そろそろ日が暮れる。イザリヤの起きてくる時間だ。私の体に力がみなぎる。

 イザリヤの火傷は消え失せ、儚げな美少女になり、起き上がって来る。

 「おはよう、イザリヤ」

 わたしはイザリヤに、昨日のバンとの話をした。関係ないところは省いて。

 「次の町でウサギを売る、か。すでに20匹になるが、もうちょっと欲しいな」

 そう言いつつ、イザリヤは「血の瓶」を取り出し、ゴブレットに流し込んで飲む。

「あと1日ある。バンの為の保存食は3つ。2日にのびてもいいでしょう」

私たちは銀貨50枚づつ、100枚をバンに渡す。イザリヤは

「昼間にどんな会話をしてたかは聞いた。街でこれから先の保存食を買え」

とバンに告げた。


また、バンはボロボロ泣いた。

「一生ついていきます!ヴァンパイアとか関係ねえ!」

「ありがとう、バン」

そう言いながら私とイザリヤは自分たちの血を等分にまぜ、バンに飲んでもらう。

「正式な従者になるための儀式。あと1回で終わるから我慢してね」

「姉さんたちのいう事なら、飲ませていただきます!」

ぐいっと飲み干す。もっとも一口分しか入れてないんだけど。

これでバンは「命令には絶対服従」になった。

正直3回目は必要ない気がするが………命令がなくても自発的に動いてもらえるようになるから、必要かな。


この夜は、ウサギ狩りになった。

「よく考えたら狩りは魔法でやってもいいんでしょう?」

「言われてみれば………お前が無理に弓を撃つよりマシか」

「無属性魔法・生命感知」

イザリヤに、あそこ、と場所を教えながら、私もウサギを『無属性魔法・エネルギーボルト』で倒してゆく。これは傷が残らない攻撃魔法だ。


移動しながら―――そこの地域のウサギを根絶やしにしないように―――朝日の昇る3時間前には、30匹になっていた。これで合計50匹。

それを血抜き(血を吸う)して―――お腹がいっぱいになってしまったので、空になった水袋(もう1袋あるから大丈夫。でも買いなおさないとね)にウサギの血を牙からじゃーっと吐く。汚くないよ、唾液もないし!

血の瓶ではないが、同じようなものだという事で、あたりに生えていたハーブを摘んで、フレーバーとした。


その後、血抜きの方法に唖然としていたバンにも手伝ってもらって、解体。

ウサギの肉はイザリヤが捌き、バンが燻製にしてくれる。

30体一気になので、大量の焚火が要った。


そんなことをやっていると、日の出が近くなってきた。

「私たちはこのテントの中で地面に潜るので、燻製が出来たらこの籠(植物を編んでイザリヤが作った)に入れて、テントに持って入って!出来次第バンもこのテントで寝るように」

そうバンに命令して私たちは『教え・変化・大地同体』で眠った


明日は、街に着く

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