第24話 出立

 昨日はジャントリーに色々お世話になった。

 私は鏡と櫛を持ち、身繕いする。


 私はジャントリーに貰った旅の道具を広げてみた。


 今の服の上から着られる薄手の麻のコート。

 羊皮紙の大陸地図、譜面、金貨が30枚、銀貨が100枚の袋と財布

 顔の部分まで閉まる遮光寝袋、火打石、ロープ、手斧、鍋、薬草、携帯食料

「血の瓶」用の陶器の瓶2つづつ

 吟遊詩人の衣装(改めて見たら、シワになりにくい素材だった)


 これを背嚢に詰め込む。

 ただ、背嚢に入れるより前に、処理をしなくてはならないものが1つ。

「血の瓶」だ。これはまだ空だ。

 私は「無属性魔法・念話」で、イザリヤに連絡を取る。

「一緒にハンティングに、2瓶分だから、2回行こう」というお誘いだ。

 二つ返事で、OKと返ってきた。

 北西の崖の上にある、村はエレオスのテリトリーだと思うから、そこに行こう。


 飛行魔法で、イザリヤを運び、目標に到達。外のベンチで話していた二人の女性の後ろから、喉に噛みつく。

 ぞくりと、快感が背を走る。自制しなければ癖になる快感。

 目的の量を吸う。


 帰って。血の瓶―――もう保存石と香草は入れてくれていた―――に血を注ぎ「教え・血液増量」を使う。血の瓶は完成した。

 香草の香りをつけるためには、2~3日かかるだろうが。


「本当にジャントリーってマメな人ね。アリケルが好きになるのも分かるかな」

「まあ………最初は気障で嫌味な男だと思っていたが、旅をするうちに意外といい男だと思うようにはなったな、うん」

 とイザリヤが同意する。


「さあ、もう一回吸いに行くよ。もう一つ、瓶は残っているんだから。」

「そうだな、その後で、もう一回吸いに行きたいな、腹が減った」

「それは、私がアリケルに貰った血の樽の中身がまだあるから、飲み干す手伝いをしてくれない?旅に行くのに残していくわけにもいかないでしょう?」

「そういう事情なら、協力するとも………アリケルのは香りが強いのが難だが」

「慣れたら美味しいけどね」


 私たちは、もう一度ハンティングに出た。

 なぜかこの村は、うろついているのは女性の率が高く、私は今までここで、男性の血を飲んだことがなかった。

「男性を捜さない?」

 とイザリヤに言ったら、賛同してくれた。何でも、男の血の方が好みなんだとか。

どう違うのだろうと思いながら、イザリヤが示した、宿屋の2階―――男用の大部屋―――に行く。飛行魔法で窓からするり、と入る。

そこには、いびきをあげながら、酔いつぶれて眠る複数人の男性の姿が。

「ちょっと酒臭いかもしれないな」

そう言ってイザリヤは私に葉を一枚寄越した。

酒臭さを抜く効果があるから、牙にさしておけ、と。

そして、わたしは初めて男の血を飲んだ。

感想、女性に比べて血の味が濃い、甘さはなく野趣にあふれた味だ。

こっちはこっちで美味しい。


そして男の血を堪能した私たちは、牙の跡を消してやり、里に戻った。

さっきと同じ手順で、血の瓶を作る。

「これで、旅に出ても、すぐに人を襲わずに済む。ここの近くの村は、襲われることが多いから、警戒しているからな。その圏内を出てからハンティングに行こう」

「なるほど………そういうのがあるのね。じゃあ、最初は野宿?」

「その方が無難だといいたいが………旅の間はともかく、村や町に入ってしまえば野宿は無理だ。あとは夜に旅をする理由が必要だが」


「「星女神の信徒だから、夜に星に導かれて進んでいる」で良いんじゃない?私、教義とかは暗記してるし、星もしっかり読めるよ?」

「意外な特技だな。始まりの女神の”聖なる巫女”じゃあなかったのか?」

「出身地は漁村だもの。漁師たちの会話についていくために、世話係だったババ様にみっちり教え込んでもらったの」


「なるほどな。理解した。聖印はたしか………自分の星座を彫り込んだプレートか」

「そう。作る材料と道具、無いかどうかエレオスに聞きに行こう!」


私は『無属性魔法・念話』でエレオスをつかまえた。

『ああー、そういう事ね。教えてなかったけど、共用の倉庫―――ガラクタ置き場―――があるからそこから持って行きなさい。消耗品以外は後で戻してね』

と言われたので、倉庫に向かい、木切れと絵の具、革ひもと彫刻刀を探し出して持って行く。


「イザリヤの誕生日は?」

「10月23日」

ならてんびんライブラね。

イザリヤのもつ木切れを円形に切り抜いて、出来上がった円形の板に黒い絵の具を塗りたくる。絵の具は耐水性のもの―――油絵の具―――を持ってきた。

乾いたら、羊皮紙に私が描いた図形を彫り込むように言う

「わたしは3月23日だから、おひつじアリエスね」

イザリヤと同様の円盤を作る。

『教え・風化・乾燥』で、2人ともの板を乾かし、星座の図を彫った。それは絵の具を削り、白く描かれる。

最後に端に穴をあけ、革ひもを通すと―――

「聖印のできあがり!」


これで、旅に出る準備は整った。

後は荷物を詰めて、皆に挨拶に行くだけ。


挨拶は、つつがなく終わり、荷物も整った。

特にリリス様とアリケルにはすごく寂しがられたが、リリス様は「帰りを待つわ」と。アリケルには「私は帰ってくる頃には国に帰っているだろうから、そっちにも寄るように」と言われた。


さあ、私とイザリヤの旅は始まったのだ―――。

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