第22話 イザリヤ復活
日没後―――ヴァンパイアの朝―――わたしが身づくろいを済ませ、外に出て歌の練習をしようとしていると。
「ララ―――ッ」
走って来る人影があった。
私はリュートを置いて立ち上がる。「イザリヤ!」
イザリヤは近くまで来ると、私に抱き着いた。
「やっと、炎の試練を乗り越えたぞ!」
「ケガも治ったのね!よかった!」
イザリヤは頷いてくるりと回って見せた。
彼女は革のズボンとジャケットだったが、それは優雅に見えた。
さすが子爵家の息女。
私は座りなおし、リュートを取ると
あなたが戻ってきたから わたしは祝いの歌を歌おう
わたしはここで復活を祝おう
あなたが戻ってきたから わたしは喜びの歌を歌おう
わたしはここで祝いのメロディを奏でよう
と、演奏しながら歌った。
もう一回抱き着かれたので、じゃれあっていると、エレオスが来た。
「やあ、2人とも。元気で何よりだ」
「あ、エレオス。私たち二人揃ってるよ。残りの『教え』を教えてくれるの?」
「うん、そのつもりで来たよ。取り合えず2人とも、私の部屋に来ようか」
エレオスの部屋に来て、促されるまま座った。
私たち二人が、エレオスを正面にして座る形だ。
「今から、教えてくれない人たちの『教え』をこっそり教えます。だけどこっそりだから、誰に聞かれても、私の教えを教えているのだと答えてね。親しい人にも言ってはダメだよ。これは将来、知っておいた方がいいから教えるだけだから、外では使わないように。疑われないようにその他には、血の樽や瓶の作り方も習っていると言ったらいい。これは実際に教えるけどね」
そう言って念を押すエレオス。
「ただしディアボロスの『増加』だけは私は知らないし、当人もここにはいないから、教えることは出来ない。あとカヴァッロの教えはあるのかも知らない」
その他の教え―――ノスフェラトゥの『視覚変化』ヒフィニンの『血族毒』リエゴの『血の魔術』ソウの『虚言』は教える事ができるが、他のヴァンパイアの前では使わないように、と言われた。
そして、今挙げた4人には近寄らないようにとのこと。
改めて彼らのテリトリーを教え込まれた。
「この他の所で会ったら、挨拶だけしてさっさと遠ざかる事。あと、これとは無関係に近日中に君たちを、3王に面会させるからねララはリリス様のイザリヤはユーリタス様の直系だ。ザベン様は大叔父さんだね。単にお披露目っていう事で、危険な事は何もない。礼儀作法は私が教えるから。それと、お披露目が終わったらもう旅に出ることができるよ」
習う事が一杯だ。
取り合えず最初は、『教え』から教えるということだ。
これは問題なく進んだ。
私よりややイザリヤが遅かったが、5日ほどかけて全部の『教え』をものにした。
その次は礼儀作法だ。始祖であるカイン様の時代の作法なのだというが、元々作法なんて聖巫女のものしか知らない私は、普通の礼儀作法として違和感なく吸収した。
逆にイザリヤは、北の宮廷作法が身についていただけに、混同しそうになって逆に危なっかしかったが、なんとか取り繕えるようになった。
エレオス曰く、古代の作法だから、分かりにくいんだよね、とのこと。
血の樽、もしくは瓶の作り方は、ちょっと手こずった。
【作り方】
まず人間の血を飲みます。その時に、血を全身に巡らせるのではなく、元々胃のあった場所に出来てるはずの「血袋」に入れる。
その血を牙から逆流させ、樽(瓶)に入れます(この逆流血液でないと使えない)
そしてどのヴァンパイアでも教えられる『教え・血液増量」を使います。
その際、保存石と呼ばれている石―――魔法で作る―――を入れないと、血液はすぐ腐るので気を付ける事。
後はお好みでハーブや薬草類で風味付け。
あと、1:1でアルコール(度数はお好み)と混ぜると「血酒」ができる
………というものだった
まず血の逆流に手間取ったが、何とか逆流に成功。
イザリヤも私も初めてなので、容器は瓶をチョイス。
それに旅に出るなら、このサイズでないと持ち歩けないだろうし。
そして『教え・血液増量」を使い(コントロールが繊細で苦労した)血液を増量。
次に保存石を作る。
私はすんなりできたが、魔法の得手じゃないイザリヤはちょっと時間がかかった。
後は風味付け―――これはやってもやらなくてもいいらしいが。
折角なので、香りのいい薔薇の花を―――アリケルに頼んで―――貰い、漬け込むことにした。イザリヤは独特の風味のある薬草を入れていた。
これで完成!
この瓶は、2人の合意で、日ごろの感謝の気持ちを込めて、エレオスにプレゼントすることにした。実際、これはよく贈答品にされるそうだ。
最後はお披露目だが、これは一人づつ行ってもらうと言われた。
イザリヤの保護者役はジャントリーだそうだ。
私もイザリヤはヴァンパイアとしては彼に育てられたも同然なので、いいと思う。
宮殿の最上階が、リリス様の謁見の間だった。
結論から言うと、私はリリス様に気に入られた。
「エレオスの初めての「子」な上に、あの歌声は素晴らしい」
どうも、練習はここまで聞こえたらしい。
何か歌ってくれと言われて私は、どんな歌がいいか聞いた。
花をテーマにした曲はないかと言われて私は、これを選んだ。
おぉ、プロサピーナよ。
あなたが驚いてディスの車から
落とした花が今欲しい。
ラッパ水仙、それは
燕が現れだすより前に咲き出して
弥生の風を美で魅惑する花。
スミレはおぼろげに咲くけど、
ジュノーのまぶたや
キュテレイアの息よりも可愛い。
薄い桜草は
輝くフィーバスの力強い腕に
抱かれることなく死んでしまう。
それは乙女によくある病気なのだ。
九輪草と王冠。
百合にはいろいろ種類があるけど
アイリスが一番!
あぁ、そんな花が揃えばいいんだけど
それを花輪にして
私の愛しい人にあげたいの
そして花をたくさんかけてあげたい。
周囲に黄金の花びらが舞う。挙げていった花たちも、幻が宙に踊る。
少しの間だけ謁見室は花園になった。
「立派な呪歌ね!こんなに優しい光景を見るのは久しぶり!」
リリス様は椅子から立ち上がってこっちに来、私を抱きしめてくれた。
本当の母親なら、こういうことをしてくれるのだろう。
リリス様は私に一泊するように言った。もう少し、側で歌を聞きたい、と
もちろん、私はそれに応じた。
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