第19話 勉強と歌2

 エレオスに上級魔法の指導を頼んだ日から、結構な日にちが過ぎていた。

 私はとっても忙しく過ごしていた。

 午後6時からは、言語の勉強。午前0時からは魔法の授業。

 イザリヤに会っている暇もない。

 エレオスに聞くと、彼女はエルカゴに気に入られて、武術の鍛錬をしているとか。


 そんな状態でも、わたしは歌の修行だけは怠らなかった。

 ジャントリーとエレオスの交代の時間に練習した。

 今日も私は歌う。

 もう見ることは叶わなくなったから、太陽をイメージした旋律の歌を。

 歌詞はない、何か理由がなければ、私は曲に歌詞はつけなかった。

 最近、変化があった。

 歌おう、と思ったら、わたしの手の中にリュートが現れるようになったのだ。

 歌えば、私の手は勝手に伴奏した。わたしはリュートに興味を持った。

 なので、エレオスに頼んで、現実に存在するリュートを取り寄せて貰った。

 エルカゴに部下を動かして貰ったから、後でエルカゴにお礼を言いなさい、と言われた。エルカゴも部下たちも、今は0時の境に流れる歌を楽しみにしているよ、と。

 リュートを単品で弾いてみたが、難しかった。

 けれど歌に合わせて弾くうち、リュートは私の手に馴染んでいった。

 歌に遜色なく弾けるようになるまで、そう時間はかからなかった―――。


 言語の勉強は滞りなく進んでいた。

 すでに私は発音に難がある以外は、普通に喋れるようになっていた。

「ここから後は、イザリヤから習うがいい。私は本日をもって退任する」

 と、ジャントリーに言われた。


 上級魔法の授業も順調だった。

 ただ、エレオスに教えて貰う呪文を任せたところ、「啓示」があったとかで、「炎」系統の呪文をはじめに教えられた。

 ヴァンパイアは炎を嫌うんじゃなかったの?

 その後は万遍なく、攻撃呪文と便利呪文を教えてくれたからいいのだけれど―――実習の時が、酷いことになりそうな気がする。


 予感は的中に近かった。

 エレオスは、魔法を使う前に、と私を耐火訓練に連れてきたのだ。

 まず、かがり火をたく。それに出来るだけ近寄るのが訓練内容だ。

 これができない。火を見ただけで恐怖で逃げだしそうになってしまう。

 無理に進むと、体が痺れ、血の汗をかく。酷く不快だった。

 焚火の周りを巡る事が出来るまで、1日(12時間)費やして10日間かかった。


 次からの耐火訓練は、段階式だった。

 まず砂の上に燃え盛る木の棒を一本置く。

 それを飛び越える。

 置かれている燃え盛る棒の上に、一本棒が重ねられる。

 それを飛び越える。

 ―――その繰り返しだ。

 エレオスは「火でついた傷は、普通の傷より治りが遅い。注意しなさい」と言う。

正直、それを言われるだけで、恐怖心が増した。

何度も失敗して、半狂乱になり逃げだしたり、泣き叫んだり、狂乱してエレオスに襲い掛かったり、しくしくと泣き出したりと、様々な醜態をさらした。

私が私の背丈分の棒を飛び越えるのに―――私も驚いたがヴァンパイアはそれぐらいの身体能力が最初からあるらしい―――1日(12時間)費やし100日かかった。

私が、炎への耐性を有していると、エレオスに認められた日だった。

ちなみに、わたしはそれでも寝る前に歌を歌っていた―――。


そこから後は(炎魔法も含めて)実習は順調だった。

なんと、10日で全部OKを貰ってしまったのである。

「本当にララは頭と感覚に優れているね」

「教師も良かったんだと思うよ、炎耐性の訓練はどうかと思うけど」

「ありがとう。明日からはイザリヤと会う暇ができるね。」

「そうだね、楽しみ」


「ララ!久しぶりに何もしてないな!近寄るなと言われていたのが解禁されたんで、やってきた。何をしていたんだ?」

朝、身繕いを終えて、樽の血を汲み上げたところで、イザリヤがやってきた。

「良い匂いがするな、私ももらえるか?」

「ああ、この樽の血ね。アリケルが、エレオスの頼みだからって持ってきてくれたんだよね。早く飲まないと痛むんじゃと思ったら、痛まないように薬草を漬けてるんだって。アリケルの国にはヴァンパイアが多いから」

私は客用のゴブレットを差し出す。

イザリヤは血を汲み上げて啜り飲み、

「独特の風味があるな。薬草の風味か」

「そういえば、イザリヤは血はどうしてるの?わたしは大抵誰かがくれるけど。まだ「雛」だからって」

「同じだ。わたしにはエルカゴがよくくれる。獣の血混じりな事が多いが………っと、そんなことよりララは何していたんだ!わたしはずっと「教え」の強化と、戦闘の訓練だったぞ」

「私は言語訓練と魔法訓練と「教え」の訓練だったよ。耐火訓練は辛かったなぁ」

「耐火………訓練?」

「そうだけど」

「私もやる。エレオスに取り次いでくれ」

「なんでやりたいの?」

「私が母ヴォールクに抱擁されたのは、お前と同じく死にかけたからだが、私の場合火傷が原因だ。克服したい。恐怖と憤怒の記憶を」

「イザリヤ………分かった、エレオスに頼みに行こう」

エレオスの寝所は近い。

留守にしていることは多いが、待っていれば必ず会えるはずだった。

穴倉じみた部屋なのは、私の部屋やイザリヤの部屋によく似ている。

「エレオス」

呼びかけると、棺桶の蓋がぎぎぃっと開いた。まだ寝ているなんて珍しい。

「おや………ララにイザリヤ。おそろいでどうしたんだい」

と言いながら棺桶から出てくる。

私は事情を離した。

「うーん。ララであれだけかかったんだ、君のトラウマを考えれば、1年かかってもおかしくない。いいのかい?」

「いい」

「わかったよ。ではララの言語訓練は後に回すとして、ララは………そうだね、話を通しておくから、エルカゴのところで、身体訓練をしたらどうだい?君の身体能力の無さは、筆舌に尽くしがたいからね」

えぅ。

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