第18話 勉強と歌1

イザリヤが、私の時と同じく、エルカゴ達大いなる者に「教え」を教えて貰っているので、私は暇になった。と思ったら。

エレオスがジャントリー様を連れてやってきた。

朝の身づくろいが済んでいて良かった。ジャントリー様はかなり厳しそうだから。

ジャントリー様は、最初に見た旅装束ではなく、赤いサテンの貴族服。綺麗な背中まである金髪を、ひとまとめにしていて、鋭い赤い瞳。

「おはようございます、ジャントリー様。エレオスも、おはよう」

「娘、歌え」

「は?」

「評判になっているぞ。私にも聞かせよ」

「あ………はい」


暗い夜を旅する人は あなたの小さな輝きに感謝します

もしあなたが輝いていなかったら 道に迷ってしまうでしょうから。

きらきら、きらきらと光る小さな星よ

あなたは一体何だろうと私は不思議に思います


短いが歌った。

「なるほどな………評判になるのはわからなくもない。この歌詞は先日まで旅をしていた私にはしっくりくるものだ」

そう思ったから歌ったんです。

「娘、お前に私を呼び捨てにする権利を授ける。他の者が行っている以上、私がその資格を与えないのは傲慢であろう」

「ええ………と、ではジャントリー。今日は何の御用でここに?」

椅子を勧めながら聞きます。

椅子に優雅に座った。そして。

「イザリヤの国の言葉を覚えて貰いたい。お前にはヴォールクの求めに従い、イザリヤとともにアーデルベルク子爵領を解放してもらいたいのだ」

「はっ⁉」

何だか大変なことを言われた気がする。

「大丈夫だ、森深くの村が2つだけだ。わたしがそれをしなかったのは、ヴォールクがイザリヤもしくは、イザリヤと仲間にそれを成させよと言ったからだ。そして、その時のイザリヤ単独では不可能だった。私は庇護者であって仲間ではない」


「こちらに来て、お前を見た時、これだ、と直感した。お前なら仲良くなってイザリヤの助けになってくれるだろうと。………頼めるか?」

ジャントリーの目には、少しだけ不安が渦を巻いてるようだった。私は

「友人のためなら喜んで」

と答えた。旅好きなエレオスの血か、それとも友人を一人で行かせたくないのか。

わたしにも、分からない。

これが「天啓」と呼ばれるもののはしりだったのは、後で気が付いた。

要は完全にエレオスの血で私は動いたのだ。


「なら、言葉も覚えてもらえるな?日没から真夜中までの間、私が授業を。それ以外は書籍で勉強を」

貴重な書籍だから、貸すだけだが、と、彼は懐から、明らかに懐には入らないサイズの巨大な本を、取り出してみせた。

わたしがギョッとしているのを察したらしく

「これは亜空間収納というものだ。受けて貰える例に教えてやろう。ついでだからイザリヤには君から教えてやるといい」

そう言って魔法陣と式、解説を描いた羊皮紙をこちらに寄越す。

「ありがとうジャントリー。この服なら使える場所が多いので助かります」

エレオスに貰ったこの服は、体型を隠すためにダブダブ。

ひだみたいになってる部分から、物を引っ張り出すのはうってつけ。


「では。早速今から真夜中まで勉強しよう」

そう言うと、彼は紙束(高価)とインクとペンを取り出した。亜空間収納だろう。

「で、エレオス。君はずっとそこにいるのかね?取次には感謝しているが」

「あぅ………真夜中まで退室します。よろしくねジャントリー」

「任せておきたまえ」

ジャントリーの授業が始まった。

しかし、聖都で勉強していた時もだけど、私は本当に勉強と歌と名の付くものに関しては、才能が有るらしい。授業はすいすいと進んだ。ジャントリーも驚くほどだ。

「………他の大いなる者たちも褒めていたが、君は異常に覚えが早いなライラック。かなりスパルタでやったつもりだが………天才とはこういうものか」

「大げさな。イザリヤもここに着くまでに、発音以外は完璧になったじゃない」

「あれは、しょっちゅう癇癪を起して、私を手こずらせた………分からなくなってくるとイライラするらしくてな」

ジャントリーに苦労人の影が見えた。

その後もしばらく授業は続き、私はアルファベットという文字と、それを組み合わせることによる発音を習った。

それを組み合わせて作る「単語」。単語を組み合わせ作る「文」の作り方を学んだ。

しばらくは単語とそれを用いた文の作り方を習うことになるらしい。


真夜中、ジャントリーが帰ったあと、エレオスがやってきた。

「どうしたの?」

「いやね、この間に僕の「教え」を伝授しておこうと思って」

「イザリヤには与えないつもりなの?」

「そうだ。血脈につながる者たちにしか与えないつもりだよ特に『観測』はね」

「それでイザリヤのいない今来たのね」

「そうだよ。それでいい?」

「エレオスが決めてるなら、私に口を挟む気はないよ、でも理由はいつか教えてね」

「………ありがとう、ララ」


授業が始まった。寝るまで6時間弱しかないので、覚えやすい「風化」から。

うん、これ、普通に使う分には便利魔法と変わらない。

物質を文字通り「風化」させるしか能がないのだ。

あんまり使わないような気がするけど、覚えるだけ覚えておこう。


次の日も、日没にジャントリーがやってきた。

わたしはゆっくりしているわけにもいかず、大慌てで身づくろいしている。

言語の授業は、順調に進んだ。簡単な会話と筆記ならもうできる。

ジャントリーが満足げに頷いて、明日は応用編だ、と言った


真夜中、入れ替わりにエレオスがやってきた。

今日は、途中になるだろうけど「観測」を教えるためだ。

これは、一言で言ってしまったら、人―――に限らず植物や動物はては岩のような無機物までの、「情報」を表示してしまう能力だった。

自分にかけると、視界に青い板と、そこに書かれた私の情報が書いてある。

怖いっ!もし定命者がこれを見たら、一瞬でヴァンパイアだってわかる。

エレオス曰く、相手がこっちをだまそうとしてる場合とかも表示されるから、野党や悪徳商人とかから身を護る時にも有効だね、とのこと。


「でも、時間かかるかと思ったのに、すんなり使えるようになっているね。ララは頭を使うことに関しては万能だね」

「そのことなんだけど、私に上級魔法を教えてくれない?」

「いいよ?勉強時間増えるけど構わないんだね?」

「いいよ、ギリギリで寝起きする。徹夜も、するかも」

「なんで、そこまで?」

「頭の中のどこかが熱いの。そうしなきゃいけないって囁きかけてくる」

「それは多分、僕が教えではなく特殊能力として持ってる啓示術に関連してると思う。遺伝したんだね。「それ」が働きかけてくるなら、やらないといけない事なんだろう。僕も一生懸命教えるよ」

「うん………お願いね、エレオス」

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