第17話 イザリヤという少女2
イザリヤに、発音を教え始めて1ヶ月。
彼女に発音や物の名前を教えるのは楽しかった。
彼女は利発で、私の言うことをどんどん吸収していった。
最近では、エレオスに2人でついていって、未知のものを2人で学んだりしている。
イザリヤの発音は、すでに日常会話では違和感が無くなっている。
私はイザリヤを呼び捨て、イザリヤは私を愛称でと、お互いの距離も近づいている。
「ララ、今日は、どこに行く?谷の滝に行こうか、それとも高台に昇って月が良く見える場所に行くか?湖でもいいな」
「今日は、「教え」を教えてくれるんじゃなかったっけ?」
「勉強部屋でなんてつまらない。美しい自然を見ながら学ぼう」
「イザリヤって、本当に野外が好きだね。わたしも嫌いじゃないけど」
「わたしは父から剣術を、姉2人から女のたしなみを教わったが、遊び相手は狼の子供たちだった。狼の大人たちからはいろいろなモノを教わった。」
「イザリヤは自然の中の方が楽しいのね」
「そうだ、だからララ。教えるのは自然の中が良いぞ。どこにする」
イザリヤって主張が強いなぁ、嫌じゃないけど。
「月見の高台に行こう。私は星を見る方が好きだけどね」
高台についた。ちょっとしたハイキング気分で、気持ちがほぐれた。
思わず歌いだす
炎のような太陽が去り その光が消えてのち
あなたはその小さな光を見せ始め
きらきら、きらきらと夜中ずっとしている。
きらきら、きらきらと光る小さな星よ
あなたは一体何だろうと私は不思議に思います
イザリヤが目を丸くしている
「こんなきれいな歌は初めて聞いた。姉さまよりも上手だ」
私は、思わず歌ってしまっただけなので、照れる
「ありがとう。これだけは、私の自慢なの」
「ああ、自慢していいと思うぞ。とても綺麗だ」
「そ、それより、勉強しないと」
強引な話題転換だ。イザリヤは気にした様子もなく話を変えてくれた。
「まず『威厳』だな、これは簡単だぞ」
ヴァンパイアの血が入っていなければ、決して習得できないものながら、確かに比較的簡単に習得できた。
「明日は、えーと『変化』?」
「そうだ、これは色々種類がある。まず低レベルのものを覚える。低レベルを、習熟したら自動的に次のレベルのものが覚えられる。そういう仕組みの「教え」だ」
アリケルの『感性』や『瞬足』と同じシステムだね。
「じゃあ、明日また、早く起きた方が起こしに行くってことで」
「明日は勝つ」
そう言ってイザリヤは拳を突き出すが、彼女は眠りが深い。
「浅い眠り」をもつ私が有利だった。
「起きろ、ララ。勝ったぞ!」
えー?私、寝坊した?
と思ったら、イザリヤの目元にはクマが。
「勝負に勝ちたくて徹夜した?」
「うむ、勝負には全力で挑まなくてはな」
「もー!それで今日の授業で支障が出たら本末転倒だよ⁉」
「大丈夫だ。私は強い」
あーもう。変に自信家なんだから。
「はいはい、負けた。負けましたよ。でも、この後授業してもらうからね」
「勿論だ。本題を投げ出したりしない」
「じゃあ、湖にでも行こうか。水辺は久しぶりだけど」
少しトラウマが刺激されるが、海水じゃなくて湖だ。海の女神の領域ではない。
湖は「清水の女神レイティア」の領域だ。
「湖か、泳ぎたいな」
「授業が終わってから!」
「分かってる。ちゃんとする」
授業はやっぱり順調に進んだ。
イザリヤは「イザリヤ・フォン・アーデルベルク」がフルネーム。
名前からして貴族の生まれなのだろう。
高度な教育を受けていたなら、教え方も実際に受けて分かっているのかも。
イザリヤに直接聞いてみたら、
「うむ、そうだな。アーデルベルク家は、子爵位を授かっている。教え方は、姉さまたちがしてくれた授業の見様見真似だ」
だが………と少し言いよどんだイザリヤ。話しにくいことがあるのかもしれない。
「私にも色々話しにくいことがあるから、イザリヤの気持ちは分かる。もっと仲良くなったら、お互いに話し合おうよ」
「………ララは、察しがいいんだな。そうだな、そうしよう」
「じゃあ、続きをやろうよ」
「うむ、そうだな、『変化』のコツは………」
私は『変化』を習得した。
「すごいな、ララは」
「?何が?」
「昨日の『威厳』もそうだが、私の20分の1ぐらいのスピードで習得していく」
「そうなの?教えてくれた「大いなる者」達はそんな事言わなかったけど………」
後でエレオスに聞いてみよう。
「で、イザリヤ、まだ夜明けは来てないし、泳ぐ?」
「勿論だ」
「私泳いだことないから、助けてね」
「おいおい、それで泳ごうと誘ったのか?しょうがない、水泳も教えてやる」
翼で沈まないんじゃなかったのかって?
実は、エレオスが翼を出したり消したりするアイテムを、作ってくれたんです!
苦労したそうだけど私が寝てる間に、こっそり調べていたらしい。
勝手に開けるなと言いたいところだけど、これなら何の文句もない。
だから、私にも水泳の練習が必要なのです。嬉しい。
イザリヤの指導は的確で、私はバタ足で進む程度の事はできるようになりました。
「しばらく、ここに通うことになりそうだな」
えう。
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