第15話 大いなる者③「ゴウガ―」「プレイヤー」
毎度のことになりつつあるが、起きたら棺桶の前にエレオスがいた。
「エレオス………早起き過ぎ」
「だから、ちゃんと起きるまで待っていたじゃないか。」
わたしは、寝間着ではなく、この前エレオスが贈ってくれた服で寝ていた。
アリケルに聞いたら、自分は様々な格好に着替えるけど、いろんな氏族の「子」等は、いちいち着替えずに普通の格好で寝るとか。
ただしその服が汚れてない限り―――とのことだったので、このまま寝たのだ。
エレオスがこの服は汚れないと言っていたから、このままでいいでしょう。
「今日は何?次の大いなる者のこと?」
「うん、そう」
エレオスは私を椅子に導くと、向かい合わせに腰かけた。
「今日の訪問先、ゴウガ―はね、荒くれ者だけど仲間思いで、根はやさしいから、君みたいな女の子に何かしてくるようなひとじゃない。最近チェスにこっているから相手をしてあげたら喜ぶんじゃないかな。ララ、チェスは分かる?」
「神殿では、私に勝てる人はいなかったわ」
「うわぁ、それはすごいな、手加減してあげてね。ゴウガ―はそんなに頭がいい方じゃあないからね」
そう言ってから、さて、と居住まいを正して
「じゃあ、午前中にはゴウガ―のところに行ってね」
そう言って、エレオスは席を立つと、ドアを開けて出ていってしまった。
朝もやがはれたので、さっそくゴウガ―を捜すと、広い荒れ地に自身の「子」達と一緒に居るのを見つけた。
だけど、わたしがゴウガ―に声をかける前に、チンピ………ゴウガ―の「子」にからまれた。
「わざわざここを通って行こうっていうなら、通行料を払え」
とのこと。
「私はヴァンパイアになってから、日が浅いから、何も持ってない」
「なら、この杯(ジョッキ)を飲み干したら通してやる」
覗き込むと、まごうかたなき血。でも、アルコールの匂いがする。
ええい、どうとでもなれ!
なんて、わたしがやるわけないでしょう。
『魔法・毒分解』
悠々とジョッキをあおって返し
「ご馳走様、だけど私通行人じゃなくて、ゴウガ―様に会いに来た、エレオスの娘なの。通してくれる?」
「お、おお。はじめに言ってくれれば良かったのに」
絡まれたことがないから、途中で平常心に戻っただけ―――とは言えないので、とりあえず笑顔を振りまいておく。
まあ、血を奢ってもらったと思えばいい。
ゴウガ―のところに辿り着く。
「よお、うちの連中が悪かったな。………しかし酔ってねぇな?」
私は笑ってタネを明かした
「なんと、お前魔術師か」
「ええ。
ほうほうと、なにやら関心したらしいゴウガ―は
「俺が『剛力』をお前さん………ライラックだったか。におしえるから、お前も一つ魔法を教えてくれ」
「すぐに覚えられるものって、大してないよ?いい?」
「構わんよ」
それで、ゴウガ―と私の教えあいが始まった。
結構、時間を使ったけど、来たのが早かったから、夕方には授業が終わった。
ちなみにゴウガ―には、唱えるだけで発動する呪文・ライトを教えておいた。
夜中にカンテラもたいまつも持ってない事の、いい言い訳になるからと。
彼は喜んで「剛力」を伝授してくれた。
ついでに、チェスについて尋ねてみたら、誘われたので、乗ってみる。
試合じゃなくて授業になりました、はい。
彼はちょくちょく教えに来てくれるなら、自分を呼び捨てにすることを認める、とまで言ったので、教師役を引き受ける。
ついでに「子」達には周知させといて欲しいと告げると、2つ返事で請け負ってくれた。遊びにこれる場所が増えた。
また棺桶を開けるとエレオスが居た。
もう気にせずに身繕いする。
席に着くと、エレオスは語り始めた。
「プレイヤー(祈るものの意)はね、宗教家なんだ。アスカリ教という宗教を広めて回ってる。でも、先にこの子を導くのはやめてと言ってあるから、ララは大丈夫。ただ、自分の宗教があるなら、それを語ってもらうと言ってたから、準備していてね」
「準備って、わたしは何も持っていないわ」
「心の準備だよ、プレイヤーは優しいけど厳しいからね」
「………わかった」
「銀の月が中天に来た時、屋敷の前で待ってるそうだよ」
「屋敷があるの?」
「アリケルにもあるよ、こっちに出向いてくれることが多いから、行ったことがないだけじゃないかな」
「そうなのね」
それだけ言うと、エレオスは部屋から出ていく。
あの登場の仕方だけは、何とかならないかなぁ。
銀の月は満月で中天に、赤の月は上弦で地平線へ。
それを見て、わたしはプレイヤーの屋敷へと向かった。
屋敷の入口で、プレイヤーは自ら待っていた。
青白い肌で、彫りの深い美女。漆黒のドレスを身につけているけれど、胸元からお臍までが大きく開いている。背が高くて、意志の強そうな漆黒の瞳をしていた。
私が近くまで行くと
「エレオスの娘はお前ね」
「そうです、プレイヤー様」
「お前の信仰心はどこに捧げられているの」
「始まりの女神ミラに」
「聞かせて頂戴、その信仰を」
私はミラに捧げる歌を歌った。私が、語るなら、言葉よりこちらがいい
天より落ち来る真白きこの花
いづれの色にか 染まらんこの花
先刻見た鳥の羽は緋色
先刻見た泉の色は水晶色
生まれたばかりの花
真白き無垢の花に
祈りの歌を捧げん
祝福の歌を捧げよう
小さき生命にも幸あらんことを
「………無垢なる花を咲かせる女神………といったところかしら?」
プレイヤーがわたしをひた、と見つめて聞いてくる。
「それだけではありません。あらゆるものの「はじまり」の女神ですから。でも、私はこの歌のミラ様が一番好きです」
「そう………いい子ね。とても綺麗な歌だったわ。貴女に女神が舞い降りたような錯覚さえ感じてしまうほど。あなたを認めましょう、ライラック」
「有難う御座います。プレイヤー様」
「あなたに会ったものは皆、様付けを止めさせているそうではないの。しかもあのアリケルが率先して。わたくしも様は要らないわ。その代わり、時々歌いに来ておくれ。さぁ、『支配』の教えを授けましょう」
そして私は、直接大いなる者に会って取得できる、すべての「教え」を学んだ。
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