第14話 大いなる者②「エルカゴ」

「ララ、ちょっと」

寝起きにエレオスに声をかけられた。また棺桶の前で待っていたようだ。

「いいけど、何でこんな早くから出歩いてるの?」

「そうだな………アリケル以外に言わないって約束してくれる?」

「?いいけど」

「実は『中級魔法・不眠』って、ヴァンパイアに効くんだよ」

「へ?」

「びっくりした?でもそれは「浅い眠り」をもつ僕らだけの話。だから秘密」

なるほど、そういうことか。

「まぁ、重ねがけすれば、普通のヴァンパイアにも効くかもしれないけど。やってみたことはないね」

彼は、そうそう、と言って

「アリケルから聞いたよ、ネグリジェのままレッスンを受けに来てたって。すまないね、言ってくれたらよかったのに」

「ああいうものかと思ってた。夜の服だし」

「うん、気にしない人も多いんだけど、どこでも通用する服の方がいいでしょう?」

そう言って彼は、一そろいの服を出してきた。

漆黒で、体型を悟らせないだぶだぶの上下。裾はしっかりしているので、転ぶことはなさそうだ。首はドレープのあるハイネックになっている。

もう一つは………鮮やかな赤!血のような赤!それが血の川のように広がっている。

血の色をしたショールだった。

「この服にはどれにも特徴があるんだ、魔法の品だよ。まず、黒い上下には、あらゆる匂いがつかず、血も汚れも付かない。そして光も遮断するから、首のところにあるひだを開ければ帽子も出てくる。これでどこでも寝れる。」

自慢そうにそう言って

「このショールは、服と反対に、全ての血液を吸い取ってしまう。多分胸の傷に当てるのが主な使い道になると思うけど、大量の血を吸わせておいて、後で端から絞り出すなんてこともできるよ。これも汚れはつかない」

「ありがとう、エレオス!」

私は抱き着いて頬にキスをする。贈り物をもらったらそうする。聖なる巫女をやってた時に学んだ知識だったが合っていただろうか。

「い、いやまいったな。私は血親だからいいけど、これは異性にやっちゃダメだよ」

あ、間違っていたらしい。同性なら、いいのね。

さて、今日はこれを着てエルカゴ様のところに行かなくちゃ。


「ガハハハッ!おまえがエレオスの娘か、かなかなか不吉かつ美しい容貌をしておるではないか。ワシは気にいったぞ」

私は深々と頭を下げる。

不吉な容貌で悪かったねぇ。

「父から言われてまいりました。ライラックと申します。私に「教え」を教えて下さると聞いております。よろしくお願いします。」

「その前に、お前の身体能力を知っておきたい。軽く運動するぞっ!」

えっ………それ、この世で1番私が苦手にしているもの………。

ランニングは、ヴァンパイアの呼吸不要の特徴がある(死んでるんだから当たり前なんだけど。今気が付いた)ので、どうにかついていけた。

柔軟運動では、死後硬直が残ったのかと疑われた。

拳を使って、吊るされた藁束に殴りかかるように言われて、素直にそうしたら、ヴァンパイアそのものの膂力が優れているため、それなりに飛ばせたが、反動で帰ってきた藁束にぶつかられて、その場に倒れる羽目になった。

剣の使い方を教えて貰うため、剣を選んで持とうとしたけれど、私には細剣レイピアしか持てなかった。それでも、ヴァンパイアの膂力があってこそだ。それは、針のように、突き刺しをメインとする細い刀身の剣だ。

それを使って、ダミーに突きをしかけるように言われたが、胸を狙って突いた剣芯は、頭に突き刺さったり、虚空を突いたり、虚空を突いたりした。

ならばと扱いやすいゴツイながらも短剣を持たされ、もう一度胸を体重をかけて刺したら深々と刺さった。ようやくまともな成果が出たというわけだ

「エルカゴ様………散々な結果で申し訳ありません」

と私が言うとエルカゴは爆笑していた

「ここまで、運動の類に素養のない者は初めて見るぞ」

彼は笑いをおさめると、

「おまえは女だな。男が戦場に行くときは、退いて男を待て。生きて男の帰る場所を守るのだ。そういうものだ」

?意味がよくわからない

私の顔に出ていたらしく

「エレオスが旅に出たなら、残って奴の帰りを待て。それが脅かされたときのみ、戦うがいい。お前にとってワシの『教え・頑健』は、そのためにある」

「………エレオスは良く旅に出るんですか?」

そういえば、私を助けてくれたのは、昼間の死の谷だった。

あそこからここは近いとは聞いたけど、もしかして旅の帰りだったのだろうか。

「かしこまるな、普通の口調で良い、エルカゴと呼べ。ワシはそなたの叔父ぞ」

それから、といってエルカゴは続ける

「エレオスは放浪癖で知られておるよ。しばらくはお前のために控える、といっておったが、いつまで持つやら」

……本当にあなたが旅に出たなら、わたしはどうすれば………この谷で安穏と生きる?あなたのために帰り場所を作って?それでもいい。

貴女の放浪癖がうつったかのように思われそうだけど、新たな文化を目の当たりにするために旅に出る?アリケルのカロスのような?それでもいい、道行きには困難が満ちていそうだが。

でも、私はそれを決めるのはもっと先でいいと思っている。まず勉強だ。

『教え』と『魔法』ある程度極めるまで、ここに居てもいいのではないだろうか。

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