第11話 ヴァンパイアの業

「昼に寝て、夜に起きなければならない?」

 おとうさんはそう、と答えて、

「私やアリケルの祖父であるカイン様は、そういう呪いを身にお持ちだ。それは、私達『13人の大いなる者』や、我々の父母である「3王」に強力に遺伝している。そして、その下のおまえたち「4代目」にも、脈々と受け継がれていく。5代目、6代目も同じだ」

 みんな昼に負けて、眠りに落ちる。とおとうさんは言う。わたしもそうなる、と。

「もっと大事なことは、日に当たってはいけない、ということだ。我々の体は日に当たると、焼けただれ、崩壊してしまうから」

 さすがにショックだった。もう二度と日の光の下を歩けなくなっただなんて。

 私が沈黙していると、さらにショッキングなことを言われた

「炎が怖くなるんだ。個人差はあるけどね。パニックを起こして逃げ出してしまうものもいる。ただ、これは訓練で克服できるから、参加してもいいと思う」

 私は、少し怒っていた。だからほんの意趣返しのつもりでこういった

「私、今日から「おとうさん」じゃなくて「エレオス」って呼ぶんだから!」


 あとで後悔するとも知らずに。それでも感謝していたくせに。

 何でそんなことを言ったの?「私」までエレオスと呼んでしまうじゃない。


 エレオスはそれは悲しんだが、「仕方ない」と言って

「どうかお前の気が変わったら、またおとうさんと呼んでおくれ」


 呼びたいわエレオス。叶うものなら「おとうさん」って―――。

 小娘の私は、何も分かっていなかった。


 それから私は、私の部屋へ連れて行かれた。

 最初の部屋は「生誕の部屋」と呼ばれていて、覚醒直後の飢えを取り払うためだけに使われるらしい。

 血の樽を使うのはエレオスだけらしく、普通は生きた人間を使うそうだ。

 血の樽で良かった、人間だったら私、発狂していたかもしれないわ。

 生きた人間で満足する人たちの神経がちょっと心配………。


 私の部屋は、慎ましいものだったが、私はその方が良かった。

 ただ、ベッドの代わりが棺桶って………眠ってるときは何も感じないし、確実に日光を遮断してくれるから………だそうだ。

 あとは、普通の人間とあまり変わらない。

 蠟燭や、ランタンがなくなっただけ。

 ヴァンパイアの瞳は暗闇でも昼のように見渡せるから………って。

 そういえば、ここまでの道行き、昼間のように歩いてきたけど、空には月があったような………。

「うん、いまは夜だよ、昼みたいに見えたろう?尤もここでは厚い雲で太陽が遮断されているけど。みんな寝てしまうから、あんまり活用している人はいないかな」


「そうそう。話は通しているから、君は落ち着いたら、何人かの大いなる者に会いに行くんだよ。彼らから『教え』を教えてもらうように。もちろん私も教えるけどね」

「ん?「教え?」魔法に似たあの力のこと?」

「そうだよ、『教え』は魔法が使えない空間でも使えるし、魔法にはない効果もあるからね」

 ただし、とエレオスはちょっと困ったように

「十三人全員に会いに行く必要はないんだ。接触するのが、私ならともかく、君では会いに行くのが少々物騒な人もいてね。あと、外に出たっきり戻らない人や、用事で外に行っている人もいるから、彼らの『教え』は私が教えるよ」

「怒られないの?」

「大丈夫、私に害意は持たれないよ。苦言ぐらいは貰うだろうけど」

 このころになると、わたしはエレオスの纏う雰囲気は、何かの術ではないかと思い始めていた。本人に直接聞いてみる。

「ああ、半分正解で半分外れだね。わたしの人に受け入れられる理由は確かに能力と言える。けど術ではないんだ。『存在能力』といってね。私が生きている限り、勝手に発動し続ける」

「聞いたことないわ」

「極めてめずらしい能力だからね」

「………そう」

 それしか言えない。

 ただ『存在能力』に上乗せして、彼自身の性格があるんじゃないかとは、思った。

 それにしても………眠い。どうも朝が来たようだ。

 窓のない部屋なので分かりにくいけども。

 エレオスも眠かったのか、

「今日は、これでお開きにしようか、眠りなさい」

 ありがたい、後の事は、みんな起きてから―――

 そう思いながら、わたしは棺桶にもぐりこんだ

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