第7話 花は枯れた

 私にとって、運命の転換となる男だ―—―

 運命の女神「エイサネ」が初めて私に与えた神託だ

 入口の向こうの庭園―――ドアなどというものはない―—―に佇んでいる緑の髪、緑の瞳の青年。結構立派な体格をしている。

 こちらに歩み寄ってきて

「やあ」と声をかけてきます。

 運命の瞬間でした。

 わたしはその男に惚れ………というよりも、彼の「神殿から連れ出すから、奥さんになって、好きな学問を好きなだけ極めたらいいよ」という言葉に惚れたのです。

 この言葉を言ってくれる人がいたら、彼でなくても構わなかったでしょう。

 私と彼は急接近しました。

 そして、運命の日。

「連れて行きたいから、今日、神殿の裏口から出てきて」

 私は疑いもせず、着の身着のまま(持っていけるものなんてありませんでした。せいぜい勉強のノートぐらい)裏口で佇んでいました。


 ここまではライラックの視点で話していたけど、ここからはこの未来のレイズエルがまとめるわ。

 誰でも、詳しく話したくないようなことってあるでしょう?

 結論から言うと、「ライラック」は騙されたのね。

 彼が迎えに来て………行先は「セイナルヒト」というカルト集団だったの。

 聖巫女をさらっては、犯して、死ぬまで「聖気」を絞り出させ、それを自分に宿す、という趣旨の集団だった。

 私は、翼と美貌のせいで、神殿に通える男たちから噂がひろまっていたの。

 標的にされるのは、時間の問題だった。

 もっとも、私は街に出ないので攫えず、今回の茶番が実行されたわけだけど、ね。

 最初は彼に助けを求めたのよ?でも彼はもう、このカルトにどっぷりだった。

 カルトの一人と切り捨てるべきだったけど、私は最後まで彼に助けを求めたわ。

 一番笑えるのが、この行為自体全く意味がない、ということ。笑えるでしょ?

 そう、聖気はそんな行為で漏れ出したりしない。だというのに………。

 わたしは3か月ほど持ちこたえたのだけど、酷い皮膚病と性病にかかり、ミイラの一歩手前みたいな状態になっていた。

 一応まだ食事もできたし、自分で歩くこともできたけど、「セイナルヒト」の構成員はそんな私が、もう死ぬ直前だとおもって『死者の谷』に捨てに行くことにしたの。

 死者の谷は、鍋のようになっている、赤茶けた砂岩で出来た地形で、この時代この地域では、死者はここに捨てに来るのが慣例だった。

 死の神タナトスの加護があると言われていたわ。

 でも私は生きていたのよね―—―。

 視点をライラックに戻すわ


 わたしは、死体の中を転げ落ち、途中で止まった。腐臭で、鼻が曲がりそうだった。

 そして、いつこの中に自分が混ざるか分からない、と自覚して寒気がした。

 自分の姿を見る。

 樹皮のような体。触ると枯葉のような手触りの顔。ショートヘアーになってしまった髪(奴らは髪を食った)ガザガサになって少しボリュームの落ちた翼(奴らは羽も食った)

 今の私がここでウロウロしたら、きっと幽鬼、それか食死鬼グールに見えるでしょう。

 わたしは何をしたらいいか分からず、立ち尽くすのだった―—―

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