第6話 花は開いたか

 聖都に連れてこられて、アイゼン様に処女を奪われてから。

 わたしは学問に打ち込みました。

 とはいっても、まずはこの世界の成り立ちからです。

 全ての国の中心に聖都クォンメルがあります。独立国家です。

 周囲にはやや小規模な独立国家から大国といえる独立国家があります。

 大国は3つ。風の神を奉じる民の都「サラファーン」

 海の女神と、その娘である星の女神アステラを奉じる貿易都市「グランティノ」

 全ての神を―—―異教でなければ―—―奉じる文化の都市「クルスティーナ」

 それぞれ、小さな都市にも特色がありますが、割愛します。

 そして様々な神様がいて、人はそれぞれ1つまたは複数の神を信仰しています。

 私の村が、海の女神と光の女神を奉じていたのと同じことです。

 私は………何を信じているのでしょうか。


 勉強には、魔法の習得がありました。

 とりあえず水を出す「クリエイトウォーター」と光を呼び出す「ライト」

 この2つは簡単に覚えることができました。

 1か月でこれを覚えた私はかなり早熟なのだと先生が興奮していました。

 結局わたしが17歳になるまでに覚えた魔法は80種類を超えました。

 学問も、基礎は全て修め、進路を決めることができるようになっていました。

 先生は、私に学者の道に入ってほしいと言ってくれました。

「有難うございます。20歳になって聖なる巫女のお役目が済んだら、必ず………」

 と、わたしは先生に涙ながらに言いました。

 先生は、「君は人気が出るだろうけど、悲観してはダメだよ」と言います。

 私もこのころには人と自分の違いくらいは分かるようになっていました。

 聖巫女のお姉さんは優しく性の手ほどきをしてくれました。

 が、私と同じく予定のある娘は、わたしにきつく当たりました。

 炊事場や食事、浴場と、ずいぶん嫌がらせを受けたものでしたが平気です。

 毎晩津波の日を思い出す苦痛と比べたら。微風のようなものでした。

 私の心は、まだあの漁村にあるのかもしれません。


 お役目が始まりました、7人中で、最初にわたしは司祭長さまに呼ばれ、聖巫女の装束を賜りました。特注だそうで、背中から翼が出るようになっているとのこと。

 嬉しくないこともありません。

 今まで着ていた服は神殿支給のものに、自分で穴をあけていましたから。

 ………私に裁縫の才能は………ないようです

 それだけかと思っていたら、司祭長様が言いにくそうに

「君は身体再生の魔術を覚えたそうだね」

 と聞いてきます。私は頷きました。

「なら、予言を行うときに欠かせない「死せる巫女」をやってもらえないだろうか」

「死せる巫女って何でしょう、司祭長様」

 勉強してきたが、そんな存在については知らない。

「予言を行うとき、裏舞台でね、巫女を剣で切りつけるんだよ」

 え………?

「それで巫女が生きている間だけ正確な予言ができるんだ」

 私は絶句しました、予言が行われるときそんなことが行われていたとは!

「でもね、それでは巫女が何人いても追いつかないだろう?」

 あ、当たり前です。

「それで、死ぬ前に『身体再生』を使える君なら、何度でも予言が可能だと思ってね。なにせ、『身体再生』は高等魔術。切りつける役目のもの―—―タナトス(死の神)の使い―—―はその魔術は使えないんだ。だから、ね?」

 この人の中では、もう決定事項なんだろうな―—―。

 荒んだ気持ちがよみがえってきそうになったが、わたしはしぶしぶ頷いた。

 断ったら、そのお役目のために監禁でもされかねない。

 司祭長様にはそれだけの権限がある。

「普段は聖巫女の仕事についておりますゆえ、御用の時はお呼びください」

「うむ、頼んだぞ」


 聖巫女の仕事は、先輩に手ほどきを受けていたおかげで簡単だった。

 まず、信者は私のびぼうを見て感嘆し、見惚れる。

 次に翼を見て「奇跡だ」と騒ぐ。

 そしてしばし話をして、湯あみして―—―洗ってあげるのは私だが―—―事に及ぶのだ。信者はほとんど皆童貞らしく、ここで聖巫女に貞操を奉げるのは名誉らしい。

 時々、私は奥の院に呼ばれて「死せる巫女」の役目も果たす。

 聖王国にとって重要か、他の国から占ってほしいと使節が来たときだ。

 1週間に1度ぐらい。それだけでも正気を失いかけるほど辛かった。

 真正面から黒いクレイモアで切られるのだ。

 心臓に達するかはギリギリで、臓物はあふれてに負えない。

 自分の臓物の匂いなんて嗅ぎたくなかった。吐き気がする。

 それでも、私はギリギリになって、上手く動かない唇で『身体再生』を唱える。

逆回しのように、私の体は元に戻る。何もなかったかのように。

切られる前に脱いだ衣服を着用して、目を丸くしているタナトスの使いに礼をして、聖巫女の部屋―――私の部屋ともいう―—―に帰り、ベッドに倒れこんだ。

今日はもう、どっちも来てほしくない、と願いながら

はたして、願いは破られた。

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