第3話 津波
ある日、海から水が失せていた。
洞窟の中にはある程度残っていたが、そのほかの場所は砂浜になっていたのだ。
私の住むバルコニーは高台にあたる。
その出口から村をのぞいてみたが、同じだった。
その時の私には、津波、なんていう知識はなかったのだ。
はたして、五分もせずに津波が来た。
私の立っているところに届きそうな膨大な海水。
砂を抉り、少ない木々をなぎ倒し、家屋までさらっていく。
木にしがみついていた人も、勢いに負けて、もしくは木ごと呑み込まれていく。
ついに津波は、私のいるところまで到達した。
だが、バルコニーの間を抜けて、階下に流れていく。
………その波に乗って、5歳ぐらいの少女が流れてきた
………私が手を掴めば助けられるかもしれない
そう、頭によぎった。
実行しようとした。でも、できなかった。
この手を掴んだら、私も一緒に流されてしまうのではないだろうか?
そう思うと、足が動かなかった、手が痺れた………。
私は自分の命をかけることができなかったのだ。
最低だ、と思いながら立ち尽くしていたら、出口の方から私を呼ぶ声がした。
セフォンの声だ。私はぼんやりしながら出口から出た。
セフォンはここまで来るための階段の、二段目にいた。
砂浜はまたむき出しだった―—―。
セフォンは私が大丈夫かどうか、確認に来てくれたのだ。
その時の「私」は、津波は寄せては返すという事も知らなかったわ。
そしてセフォンも、そんなこと知らなかったのよ―――。
もう一度、津波が来た。無慈悲に。
私はセフォンに「波が来た!」と叫んだ。
セフォンは地平線を見つめてから、こっちに昇ってこようとした
だが、津波の方が早かった―—―。
ドン
とがった木が、セフォンの胴体―――心臓―――に突き刺さった。
彼はその場で、とさり、と崩れ落ちた。
「…セフォン?」呼んだけど、なんとなく分かってた。
彼はもう、動かないということを。
彼は私のためにここに来たのだ―—―。
私がいなければ、さっきの少女と一緒に流されていれば、彼は最上段まで登ってきただろうから、助かったはずなのに。
わたしがいなければ―—―
そう思いつつ最上段に佇んだまま、やってきては帰る津波を見続けた。
そのうちセフォンも流されてしまった。
わたしがぼんやりしてるから………
そのうちわたしは、あまりのことに耐え切れずに意識を手放したわ。
罪悪感に耐え切れなかったのでしょうね。
もう一度目を覚ました時「わたし」の目に映るものは―—―。
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