存在

でぴょん

君と一緒

 暑い。今日はとても暑い。

 一体地軸は今どのくらい傾いているのだろうか? 歳差運動は変わっていないだろうか? さすがに太陽との距離は"まだ"離れている。生物はまだまだ生きられるはずだ。現に私が汗をダラダラと流し、這いつくばりながらも、こうやって音声日記に録音できているのが良い証拠だ。

 しかし重い。身体が重い。

 地球の質量が重くなっているのだろうか。

 いや違う。

 地球の弟分である月が無くなったからだ。愚かな人類め。母なる大地から資源を貪り尽くした後は、月に狙いを定めやがった。月を植民地扱いしたその結果、無知ーーいや違う。勝手に知能生物だと思い込んでいた人間が、地球に住む数多の生物の絶滅を招いた。馬鹿にも程がある。

 私も同じ人間として、少しの時間だけ地球に住んでいたものとして謝罪したい。

 すまなかった。地球に住む生物達よ。生まれ変わりは人という野蛮な生物がいない平和な星で生きるといい。

 これで許して貰えるとは思えない。……ああ、もちろん自己満足だ。これで少しでも天国にーーああ、そうか。地球が無くなれば天国も無くなるじゃないか。罪人が誰もいない楽園も地上がなくては復活した所で何も意味が無い。その時は宇宙でも生きれる身体にでもなっているのだろうか?

 だったら、私も懺悔をしよう。いくらでも神に祈りを捧げよう。

 それにしても喉が渇いた。喋り過ぎているせいだろうか。身体がだるい。熱もあるだろう。身体内部の圧迫感が強く、所々に強い痛みを感じる。水を飲む気にもならない。というより水を飲むのがこ……わい。

 は……は、こん……な風になっても……怖いも……のが……あるな……んておも……しろ……いも……のだ。

 さ……いごに……これ……聞いて……いる……しょく……んに……こと……ば……をおく……る。


 人類に栄光あれ!


 ☆★☆★☆


 無音なる空間に全長一万kmを超える真っ白な宇宙船が遊泳していた。どこに向かっているかも分からない。まるで無人島に漂着した者が海を見ているだけで、希望を感じずにはいられないような哀れさを、その宇宙船は醸し出していた。

 搭乗員の一人であるガルケは食堂で隕石を粗挽きにひいた隕石湯を飲みながら、友人のタケットと会話を楽しんでいた。

「なぁ俺達って結局、このガラクタの中で一生を終えることになるのかな?」

タケットは笑いながら言った。

「宇宙は広いんだ。十中八九そうなるだろうな。よしんば俺達人間が永住できるような星があっても、地球と同程度の文明を復興させるためには数百年はかかるだろうな」

 そう言ってガルケは隕石湯をゆっくりと飲む。

「それにしても月がぶっ壊れて、地球の終わりが来たってのに、なんでアイツは地球に残ったんだろうな? 別にくじで外れたわけでもないんだぞ」

 タケットは手に持っているスプーンを回す。

「なぁに。理由は単純さ」

ガルケは隕石湯を一気に飲み干す。タケットはきょとんとした顔でガルケの言葉を待つ。

「俺達がおかしいのさ」


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