第76話

「おい!俺はどうすればいい?」


 ジャン達は普段から冒険を共にしているため連携はしっかり取れるのだろうが、俺がそこに入って大丈夫か心配になった。

 この前はアンフェルボア1体を相手にすればよかったのでなんとかなったが、ルーヴというモンスターはかなりの数で押し寄せてきている。


「とりあえず自分の身は自分で守ってくれ!コーサクの力があれば簡単に倒せるとは思うが、絶対に囲まれるなよ!」


「分かった!」


 ジャンにそう指示され、俺は斧を握っていた手に力を込めた。

 まだ農業を始めたばかりでやりたいことが沢山あるんだ。ここで死ぬわけにはいかない。


 俺は迫り来るルーヴに斧を振るいながら、徐々に家がある方向へ足をすすめた。

 すでに森の中腹まで来ているはずなので、ここを凌げば結界石の効果がある範囲に入るはずだ。


「……!ジャン、後ろだ!」


 いつの間にかジャンを目掛けてルーヴが飛びついていることに気がつき、俺は叫ぶように知らせた。

 不意に後ろを突かれたせいなのか、ジャンは反応が遅れてしまった。


 まずい、やられる……!


 俺がそう思った時、ジャンに飛びかかったルーヴに炎のようなものが着弾した。

 

「……アンネ、助かった!」


「ぐずぐずしてられないよ!火魔法を使ってしまったから、私たちの居場所が鮮明に見えちゃったと思う!」


 アンネの魔法でジャンに迫ったルーヴを間一髪倒すことができたが、今の魔法で周囲は明るくなってしまった。

 

「ルーヴの数が減った今のうちに急げ!これ以上の数が来たら捌ききれなくなるぞ!」


 そうして、俺たちは迫り来るルーヴを倒しつつ、俺の家がある東に向かって全力で走った。

 

 いつの間にか、俺たちを追ってくるルーヴが見えなくなった。そう思った時、俺たちは開けた土地に出ることができた。


「よ、ようやくついたぞ……ここが俺の家だ」


「……疲れたああああああああ!!ハハハ、生きて辿り着けて本当によかったな!」


「笑い事じゃないよ!?私たち、あそこで死んでもおかしくなかったんだからね!?」


 無事に目的地に着いた喜びなのか、ルーヴから逃げきれたという安心感なのか。

 ジャンは笑いながら俺たちに声をかけたが、その様子にアンネはかなり怒っていた。


「おい、本当にお前の家の周りにはモンスターが近づかないんだな……。さっきまで執拗に俺たちを追っていたルーヴがいつの間にかいなくなっていた」


「ああ、ここにいれば安心なんだが……みんな、すまなかった。夜に移動したことがなくて、ルーヴというモンスターが住み着いていることを知らなかったんだ。みんなを危険に晒してしまった」


 ルーヴに襲われた原因は俺にあると感じ、ジャン達に謝罪した。


 今日、街に泊まって明日の朝にでも家に来ればこんなことにならなかったかもしれないのだ。みんな無事でよかったが、それは結果論に過ぎないと考えた。


 しかし、俺の謝罪を聞いたジャンたちは怒った素振りも全く見せなかった。


「コーサク、ルーヴに襲われたのはお前のせいじゃない。そもそも、冒険者の俺たちが危険を予知して、明日の朝にでも日程をずらしてもらえばよかったことなんだ。俺たちこそ、コーサクを危険な目に遭わせてしまって申し訳ない」


 そうしてジャン達は俺に向かって頭を下げた。

 助けてもらった身としては、謝罪をされると逆に申し訳ない気持ちになってしまう。


「まあ、お互い無事に目的地に辿り着けたんだし、この話はこれで終わりにしよう。ジャン、さっさと飯にしようぜ」


 クロードは少し重たくなった空気を一変させるように、手を叩いて話を切り替えた。

 

 危うくお通夜のような空気が流れるところだったので、クロードの心遣いは非常に助かった。

 

 そうして、ルーヴの襲撃をなんとか突破した俺たちはひとまず体を休めることになった。


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