第68話

「久しぶりだな……ところで何か用か?別に俺のことが恋しくて呼び出したわけじゃないんだろう?」


「当たり前じゃろう…。寝言は寝ていうのじゃ……って現実世界のお主は寝ておるのか。まあよい、そなたが色々困っておるようじゃから久しぶりに話してみようと思ったのじゃ」


 カミラは俺の冗談も軽く受け流し、俺が座る目の前に白いダイニングチェアを移動させて座った。

 そんな冷たくあしらわなくても良いじゃない……。


「しかしお主の周りはいかんせん身勝手なやつしか集まらんのう。前世で何か悪い行いでもしたのか?」


「失敬な。俺は生前農業を愛する社会人として人生を終えたんだ。まあ周りに集まる奴がみんな好き勝手に行動するのは否定できんが……」


 まあその筆頭はあのギルマスだし、アルベールさんも王宮に頼まれているようだったが王都への引っ越しに前向きだった。

 プリシラの研究室とやらは少し気になったが、あまり王都に行くメリットがないように感じた。


「そうじゃ、お主はわらわが用意した土地を捨てる事を渋っているようじゃが、別にその辺りは気にしないのじゃぞ?定期的に作物が届けばわらわは文句ないのじゃ」


「そうなのか?でも俺が初めてこの世界に来てからずっと生活している家と畑だしなあ……。これから土を耕そうとも考えていたし」


 それに王都に行ってゆっくり農作業できるのか疑問が残る。馬車馬のように働かされるような気がしてならないのだ。


「そうじゃ、お主の事を気にかけ始めた国王じゃがその理由まで聞いておらんだろう?」


「理由?ただ単に美味いものが食べたい国王のわがままじゃないのか?」


 そういえば詳しい理由を聞いていなかった気がする。国王が気に入ってる……みたいなことを言っていたと思うが……。


「一応わらわもこの世界の神じゃからのう。1人の思惑を知ることなど容易なのじゃ。まず結論から言うと国王が、ではなく国王の娘……王女がお主の作物をかなり気に入ったらしいのじゃ」


「王女が……?そんな話誰もしていなかったぞ?」


 まあ俺があまり乗り気じゃなかったから詳しく説明しなかったのかもしれないが……あれだけ美味しい野菜は誰でも喜ぶか。


「その王女は貴族界では野菜嫌いで有名らしい。果物や木の実なんかを好んで食べるようじゃがのう。そんな王女が喜んで食べる野菜が作られたとなると国王も躍起になってお主を王宮に引き入れようとするのも当然と言えば当然じゃがな」


「へえ……そんな経緯が。でもそれなら別に今の農場で頑張って栽培すれば良いし王都に行く必要も無いよなあ」

 

 できれば俺の家の近くが栄えてくれたら喜ばしいのだが……流石にあの森には誰も近づきたがらないか。

 結界石があるし安全なんだけどなあ。


「ん……?そういえばあの結界石ってたくさん作れないのか?結界石があればより安全に街に行けるんだけど?」


「そうじゃのう……1個しか用意しておらぬがあれは迷宮遺産、という名目でわらわが作ったものなのじゃ。あれをたくさん用意するのは中々大変なのじゃぞ……?」


 カミラはそう言ってため息をついた。

 しかし作れない、という話でも無いようだ。


「なあカミラ、その話だと山ほど用意するのも不可能じゃないんだろう?そこで1つお願いなんだが……」


「あれはわらわが徹夜でようやく1つ作ったものなのじゃぞ!?山ほどなんて無理なのじゃ!」


 まだ頼んでもいないのにカミラが全力で拒否し始めた。

 しょうがない、奥の手を使うか。


「今プランターで作ってるイチゴ、魔法の肥料で育ててやってもいいんだぞ?そのかわり結界石を……500個用意してくれ」


「500!?そんなのわらわの身体が持たないのじゃ!いくらイチゴを早く食べられると言っても無理難題じゃぞ?」


 カミラは断固拒否する、といった剣幕で俺を見てそう言った。くそ、イチゴを餌にすれば食いつくと思ったのに。


「別に急いで、というわけじゃないぞ?とりあえず俺の家から草原の間を安全に抜けられる程度の量があればいい。それならなんとかなるんじゃないか?」


「それならできぬこともないがのう……そもそもお主は何を企んでおるのじゃ?それほど結界石を用意しなくとも生活はできるじゃろう?」


 俺が山ほど結界石を用意させようとしている理由を知りたかったのか、カミラは俺にそう尋ねた。


 そう、俺は結界石を使って魔の森を変えようと考えていた。


「カミラが用意してくれた土地、あそこを新しい街にするのは良いと思わないか?」

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