第66話

「どうしたんですかアルベールさん……」


 いつもとキャラが変わりすぎていないかこの人?大丈夫?


「まずこちらの男性をご紹介します。王宮執事長のギイ様です」


「初めましてコーサク様、王宮において執事の代表を担っておりますギイと申します」


 黒いスーツのようなものを着た男性は胸に手を当て一礼した。

 王宮執事長……?なんであのギルマスの処分について話していたのにこの人の紹介になるんだ?


「まず、コーサク様に1つ提案がありまして……王宮、そして王都周辺に農場を開いてみませんか?」


「はい……??」


 いやいや、いきなりなんでそんな話が出てくるんだ?

 そもそも王都がどこかも知らない人間なんだぞ?


「なんでそんな話になっているんですか?いきなりすぎて全く話についていけないんですけど……」


「それについては私がご説明いたします」


 俺が困惑していると、王宮執事長のギイさんがそう言って説明を始めた。


「コーサク様に王宮、そして王都周辺に農場を開いてほしいと要望したのはこの国、ボルドーニュ国の国王ファブレス・ヴェル・ボルドーニュ様です。あれほどの野菜を作れる農家がいるのならば王宮で雇いたい、とのことでした」


「いや、あの作物はたまたま上手くいっただけですよ?そのことはアルベールさんにもお伝えしたと思いますが……?」


 まさかその事を言っていなかったのだろうか?

 俺がアルベールさんの方に視線を送ると、彼は苦笑いして頬を掻くような仕草を見せていた。


「いやあ、私もそう説明したんですけどね……1回作れたなら、そのうち同じ品質のものがそのうち作れるだろうと国王は期待されているそうですよ?」


「そんな勝手に話を進められても困りますよ……」


 貴族相手の商売になるとアルベールさんは言っていたが、まさか王宮で提供されるとは思っていなかった。

 せっかくだが、今回は断ることにするか。


「申し訳無いんですけど、まだ栽培中の作物もありますしそれにあの畑は大切な人から受け継いだものなんです。その畑を捨ててまで王都に行くわけにはいきません」


「そう!そこで先程ポルナレフ様がおっしゃっていたギルドマスターの処分の件が関わってくるのです!現在コーサク様が管理している農場を分場として、今後はギルドマスターのアルディが管理していくというのはどうでしょう?」


 俺が断ろうとすると、アルベールさんが変な事を言い始めた。

 ……なんでキラキラした綺麗な目をしてそんなこと言えるんだよ。

 そもそも、あの土地をギルマスに管理させるのはカミラに悪い気がする。せっかく俺が作る作物を楽しみにしてあの土地を用意してくれたんだ。王都に引っ越すから、なんて簡単な話ではないのだ。


「余計ダメですよ!まず仮に王都に引っ越すとしても、あのギルマスが言うことを聞いて畑を管理するとは思えませんし」


「その辺はポルナレフ様も色々案を考えている途中だそうです。もちろんすぐにとは言いませんが、前向きに検討していただけると嬉しいです」


 アルベールさんはそう言って、王宮執事長のギイさんと共に応接室を退室していった。


 俺とプリシラ、そしてポルナレフという男性を残した部屋はまるで嵐が過ぎ去ったかのような静けさだった。


 そんなシーンと静まり返った室内だったが、すぐにプリシラが話し始めた。


「ああ、そういや私もあんたに頼みたいことがあったんだ。農作業の片手間でいいから私の研究を手伝って欲しかったんだよ」


「はあ……今度はプリシラかよ。みんな揃いも揃って……」


 俺はさらに俺に頼み事をしようとしてきたプリシラに呆れてしまった。俺の身体は1つしか無いし、いきなり色々頼まれてもどうしようもない。


「それよりも俺に説明することがあるんじゃないか?どうして錬金素材屋さんのおばあちゃんが冒険者ギルドの本部長に敬称をつけて呼ばれているんだよ?」


「ああ、昔の事だが私は若い頃、錬金ギルド本部で本部長を務めていたことがあったのさ。今は王宮名誉錬金術師という称号をうまく使って半分隠居生活を送っているんだよ」


「王宮名誉、錬金術師…………??」


 なんとこの婆さん……もといプリシラは俺が思うよりもかなり偉い立場の人物だったようだ。

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