第65話

 冒険者ギルドに向かっていた俺とプリシラは、ギルド前に立っている1人の男性を見て足を止めた。

 男性はとても冒険者とは思えないほど綺麗な格好をしていた。襟付きのシャツに黒いスラックスのようなものを身につけ、緑色のジャケットのようなものを羽織っていた。


「あれ、プリシラの知り合いか?」


「いや、そんなに関わったことは無いけど、冒険者なら誰でも知るような男さ。まあ話せばわかるさ」


 プリシラは早く話を済ませてしまいたいのか、俺に詳しく説明することもなくギルドに向かって歩き始めた。


 ギルド前に立っていた男性は俺たちの姿を確認すると、勢いよくこちらに近づいてきた。

 何が始まるのか分からず、俺が少し警戒しているとその男は滑り込むように綺麗な土下座を決めたのだった。


「こ、これはプリシラ様。ご足労いただきありがとうございます。もしや、そちらの男性が……?」


「ああ、そうさね。コーサク、この土下座している男は国内の冒険者ギルドをまとめ上げるギルド本部の代表、ポルナレフだよ」


 なぜかプリシラに対してやたらと腰の低い男は、国内の冒険者ギルドをまとめ上げるような人らしい。なぜプリシラにそこまで腰が低いのか全く理解できなかったが。


「プリシラ、なんでこんな状況になってるんだ?あのギルドマスターの件が解決したと聞いてここに来たはずだよな?」


「まあ今から山ほど説明を受けるだろうさ。ほら、ポルナレフ。あんたもいい加減コーサクに挨拶したらどうなんだい?」


 プリシラがそう言うと、ポルナレフと呼ばれた男性は立ち上がり俺に向かって再び頭を下げた。


「冒険者ギルド本部長、ローラン・ポルナレフと申します。この度は冒険者ギルドフラム支部ギルドマスター、グウェンドリン・アルディが大変ご迷惑をお掛けしたとプリシラ様から聞いて王都を飛び出して参りました。大変申し訳ございませんでした!」


「えーと……何もかも理解出来ないんですけど。どういうことなんです?」


 いや、この街のギルドマスターが俺に迷惑をかけたというのは事実だし、それを許すつもりも無い。だが、ギルド本部の代表がわざわざ俺の元に謝罪に来るなど何のメリットがあるのか甚だ疑問である。


「ポルナレフ、話は長くなるんだろうしギルドの中でも良いだろう?年寄りをあまり立たせないでおくれ」


「か、かしこまりました。さあ、どうぞ中へ」


 そうして俺とプリシラはポルナレフという男性に案内され、冒険者ギルドの応接室に通されることとなった。




 応接室に入ると、なぜかそこには1人見知った顔の人物がいた。


「なんでアルベールさんもいるんですか?」


「おはようございますコーサクさん。今日は冒険者ギルドにいらっしゃるとプリシラさんから聞いてこちらで待たせていただいたんですよ。ギルドの要件が終わりましたら少しお時間いただけますか?」


 アルベールはそう説明し、応接室の隅に置かれたソファに座った。

 その隣には見たことのない男性も座っていたが、アルベールの客なのだろうか?


「コーサク様、プリシラ様、どうぞお掛けになってください」


 ポルナレフさんにそう言われたので、俺はとりあえずソファに腰掛けることにした。


「それで……この状況はどういうことなんでしょうか?ギルド本部の代表がわざわざ私に謝罪を入れに来ただけ、という訳では無いんでしょう?」


 俺はすぐにポルナレフさんにこの状況を尋ねることにした。

 

「ええ、色々ご説明させて頂きます……。まず、こちらのフラム支部においてアルディが行なったコーサク様の冒険者登録についてです。冒険者登録の際には規則やC級以上の冒険者に課せられる指名依頼の件について必ず説明するように私共は指導しております。今回、アルディはコーサク様にそういった説明を省き冒険者登録を行なったとプリシラ様や、他の冒険者からの証言を頂きました。まず、いくらギルドマスターだからといってもそういった行為は詐欺の罪に問われますし、今回の冒険者登録はコーサク様がよろしければ即刻解除させていただきます」


「それならすぐにでも冒険者登録はキャンセルさせてください。モンスターを倒して生計を立てるつもりも無いですから」


 良かった……これで面倒な依頼なんていうのも受けなくて良くなるな。


 あのギルマスはいつの間にか犯罪者となってしまったらしいが、自業自得だろう。俺は知らん。


「それと、アルディの処分についてですが……」


「それについては私から説明致しましょう!」


 その声は応接室の隅から聞こえてきた。

 今まで静かに座っていたはずのアルベールさんは立ち上がり、キラキラした瞳でこちらを見ているのだった。

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