第64話
「本当に今日街に行っても良いんだろうか?ギルドマスターに追いかけられる羽目になったらプリシラを恨むぞ……?」
森を抜け草原を歩いていた俺だったが、街に近づくにつれだんだん不安になっていた。
本当にあの婆さんが冒険者ギルドに何か出来るのか疑心暗鬼になっていた。
裏路地に錬金素材店を細々と営んでいるような老婆に何ができるのかと思わずにはいられないのだが、何もできないのに任せろなんて言うわけ……無いよな?
「とりあえずプリシラの店に行くまでは分からないか……」
一抹の不安を感じながらも、俺はパプリと共に街に向けてのんびり向かうことにした。
◇
街の正門に着くと、いつも通り衛兵のアランが暇そうに立っていた。
「おはようございます、アランさん」
「おう、コーサクか。このところ毎日街に来てるんだな」
「ええ、今日はちょっと人に呼ばれていまして……」
アランさんとの会話もそれなりにして、俺はプリシラの店に向かうことにした。
アランさんは何も言わなかったが、毎日他の街からここに来る人なんているんだろうか?
俺が街と家を往復する間、人に出会ったのはジャン達がアンフェルボアの死体を運んでいた時だけである。
そこそこ大きい街なのにそんなに人の出入りは無いものなのか?
「まあ、俺の住んでる場所が特殊すぎるだけかもしれないが……」
そんなことを考えていると、あっという間にプリシラの店の前にたどり着いた。
扉を開くと、相変わらず店の中は薄暗くて不気味な雰囲気が漂っていた。
「ったく、もう少し明るくしてもいいんじゃないか?」
「あらあんたかい。ずいぶん早く来たんだね」
俺が文句を言いながら店の中に入ると、プリシラはカウンターで何やら素材を色々分けている途中だった。
「それで?例の問題はどうなったんだ?」
俺は早速プリシラに冒険者ギルドの件が解決したのかどうか聞くことにした。
「ああ、あの件はもう解決したさ。あんたが来たら冒険者ギルドに向かうことになってるんだけど……『錬金』の素材も買っていくだろう?ギルドに行った後また店に来るのも二度手間だし少し見ていきな」
プリシラはそう言ってカウンターに広げた素材を俺に見せてきた。
「また見たことのない素材が多いな……これも練習用か?」
「そんなことは無いさ。今回は回復薬と魔力回復薬の素材がほとんどだよ。それよりも昨日持ち帰った素材は『錬金』できたのかい?」
「ああ、無事に色々作れたよ。帰るときはプルチュアの実がいつ破裂するかと思ったぞ?」
俺がそう言うとプリシラはケラケラと大笑いした。
この婆さん、所々性格が悪そうな面が垣間見えるようになってきた……色々世話になってるから文句も言えないが。
「まあ、無事に『錬金』出来たんなら安心したよ。それより今日用意した素材だけど、中には中級薬草なんかも入ってるんだ。その分値は張るけど大丈夫かい?」
「ああ、問題ない。金を使うのも今のところプリシラの店だけだからな」
俺は今日金貨を数枚と細かい貨幣を多めに持ってきていた。一応珍しい素材が売っている場合に備えてきて正解だったな。
「なんだい、意外と気前が良いじゃないか。代金は全部で10万ガレルだよ。袋に入れたら早速冒険者ギルドに向かうからね」
その後俺は金貨1枚を払い、プリシラから素材がたくさん入った布袋を受け取った。
「ずいぶん大きい袋だな……」
「そりゃそうさ。薬草がメインだしかなりの量を入れておいたからね……それじゃあそろそろ行くとするかね」
そうして、俺は不安な気持ちを抱えつつプリシラと共に冒険者ギルドに向かうことになったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます