第61話
「とりあえずどうすることもできないし……少し早いけど街に向かうか。今日はアルベールさんの所に行ったらすぐに帰ってこよう」
雨が降ってしまい、やろうと思っていた畑の拡大ができなくなったので、俺はいつもより早く街に向かうことにした。
アルベールさんに買い取ってもらう予定のポムテルなどを用意していたが、雨に濡れないように持ち運ばないといけなかった。
俺は『資材ショップ』で1メートル四方のレジャーシートのようなものを購入し、ポムテルを入れている箱に被せることにした。
「シュワンは麻袋に詰めていくとして……問題はお前なんだよ、パプリ」
ポムテルが入った箱を両手で持たなくてはならないので、今日はパプリを抱えることができない。
普通に連れ歩くのも1つの案だが、途中でモンスターに襲われた場合に俺がすぐ動けないのが不安だった。
家で大人しく留守番してくれるなら問題ないのだが、パプリも時間が経てば腹が減るだろう。餌を探し回って家の中がとんでもないことになりそうなのでそれはできないのだ。
「しょうがない、ポムテルのカゴの上に乗っけていくか」
ビニールの上に乗せるしパプリが大人しくしていれば作物にも傷がつくことがないだろう。
そうして俺は準備を整えて街に向かうのだった。
◇
森を抜ける間特にモンスターに襲われることもなく順調に街に向かうことができた。
草原をしばらく歩くと、高い塀で覆われた街が見えてきた。
「今日は雨が降ってて少し歩きにくかったな……。明日は晴れるといいけど……天気は予測できないしな」
森の中や草原は雨水であちこちに水溜まりができていた。植物の上は濡れているとすごく滑りやすいので、転ばないようにかなり慎重に歩いてきた。いつもより力が入っていたのか、片道の移動だけでかなり疲れてしまった。
街の正門に着き、早速アルベール商会のある商業地区へ向かおうとすると、衛兵のアランさんに声をかけられた。
「おお、コーサク。相変わらず変な格好してるんだな……?そういえば冒険者ギルドのギルドマスターが街に来たらギルドに顔を出すようにって言ってたぞ?」
「おはようございます。雨がひどいので雨に濡れにくい上着を着てきたんですよ。ギルドマスターの件については……俺が街に来たのは内緒にしておいてください」
俺は今日、というかこの先ずっと冒険者ギルドに近づかないと決めていた。面倒なことになるのは御免なのだ。
「内緒って……良いのか?別にお前を連れて来い、なんていうことは言われてないから俺は構わないんだが」
「ええ、実はですね……」
俺はアランさんに昨日の顛末について簡単に説明することにした。
説明を聞いたアランさんはかなり驚いたようだが、それと同時に俺を憐れんでいるようだった。
「だから最初に言っただろう?世間知らずはそれだけ良いように使われることも多いんだし気をつけないといけないんだぞ?」
「ええ、それは昨日の件で思い知らされましたよ……。くれぐれも俺が街にいることは内緒でお願いしますね」
そうして俺は足早にアルベール商会に向かうことにした。
今日は雨が降っているからなのか、いつもより早い時間からなのかはわからないが街を出歩く人はかなり少なかった。
「人通りが少ない中でこんな格好してたらかなり目立つよなあ……今日は早く帰ろう」
いつあのギルドマスターに見つかるか分からないし、街に来るのも少し控えないといけないなあ。
そんなことを考えながら歩いていると、少し先にアルベール商会が見えてきた。
俺が商会の建物に気がつくと、中にいたアルベールさんが気がついたのか扉を開けて出迎えてくれた。
「わざわざ雨の中来てくれたんですか!?ささ、中でゆっくり休んでください」
俺がこの天気の中来ると思っていなかったのか、アルベールさんはかなり驚いていた。すぐに店内に入るように促され、俺は持ってきた作物をカウンターへと置かせてもらったのだった。
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