第53話
「待たせたね。プエリア草と交換するのはこの辺の素材でどうだい?」
戻って来たプリシラはキャベツ1玉分くらいの大きさの布袋を持っていた。
袋の中に入っていた錬金素材をカウンターの上に広げたプリシラは素材について説明を始めた。
「まずこの2つの木の実から説明するよ。こっちの橙色の実がマクスルの実、淡い青色の方がデフスンの実だ。この2つの木の実はセットで覚えておいた方がいいよ」
プリシラは橙色の実と淡い青色の実を両手に持ってそう言った。
「セットで覚えた方がいいってどう言う意味だ?」
「この2つの実から作る薬は用途が似ているんだよ。まずこの橙色の実だけど、これはマクスルの実って言うんだ。マクスルの実から作られる薬は短時間の間攻撃力を増強できるものなんだよ。反対にこっちの青い実はデフスンの実って言って、これは短時間の間耐久力を増強する薬の素材になる。どちらもステータスを増強する薬の素材だからセットで覚えておいた方がいいって意味さ」
へえ、ステータスを増強する薬なんてあるのか……便利な世の中だな。
しかし、面白そうな素材を持って来てくれて助かった。昨日はエドラ草から低級回復薬を使ってばかりだったが、本当は色々試したかったのだ。
昨日プリシラから購入したアミュレス草っていう魔力草はまだ1度も『錬金』を試していないし、今日は帰ってから色々な種類を作ってみることにするか。
「面白そうな素材だな、今日の夜が楽しみだよ。他の素材からは何が作れるんだ?」
俺はマクスルの実を手に取りながら、プリシラが用意した残りの素材について尋ねた。
「こっちはこの紫色のプルチュアの実と組み合わせて『錬金』するものだよ。黄色いファミーの実と組み合わせると煙幕玉に、こっちの透明な実と組み合わせると閃光玉になるんだけど、この3つを扱う時に気をつけないといけないことがあるのさ。どれも衝撃を加えると破裂したり煙が出たりするものだから、持ち運びには十分気をつけておくれ」
「そんな物騒なものなのこれ……?どれくらいの衝撃でそう言う効果が現れるんだ?」
プリシラが持ってきた残りの素材はかなり扱いに気を遣わなければいけないようだった。持ち運ぶにもどれほど気をつけなければ良いかわからないので、俺はプリシラに扱い方を尋ねることにした。
「そうだね……1番気をつけないといけないのはこの小さなプルチュアの実だよ。固い皮で覆われているから簡単には破裂しないけど、1つ破裂すれば周りのプルチュアの実を巻き込んで大爆発を巻き起こすからね。まあ、岩で叩き潰すような衝撃が加わらなければ大丈夫だと思うけどね」
「危なすぎるだろ!よくそんなの当たり前のように触れるもんだな!」
プリシラは手のひらにプルチュアの実を何粒か乗せていたが、そんな話を聞くと俺は触りたくもなかった。いくら丈夫な皮で覆われていると言われても破裂する木の実など小さな爆弾を持ち歩くようなものだろう。
「うじうじしてないでさっさと持ってお行き。あんたが面白い素材を求めたから持ってきたんだよ?」
「分かってるよ……こんなに物騒なものを持ってくるとは思わなかったんだよ。とりあえずありがたく頂いて行くよ」
俺はそう言ってプリシラが用意した布袋に再び素材を入れて持ち帰ることにした。
無事家に持って帰ることができるように祈るしかないな。
「それじゃこっちのプエリア草はもらっておくよ。『錬金』のことで分からないことがあればまた来るといいよ。あんたは錬金術師の才能がほんの少しあるみたいだからね」
「ほんの少しかよ……。まあ、また色々聞きに来ると思うよ。その時はよろしく頼む」
そうして俺はエドラ草に夢中になっているパプリを脇に抱え、プリシラに別れを告げて店を出た。
「色々話し込んでしまったな……。少し急いで帰るか」
時間もかなり経ってしまったようで、日が暮れる前に家に着きたい俺は早足で街の正門に向かって歩き始めた。
裏路地から大きな通りに出た俺だったが、その瞬間今一番聞きたくない声が聞こえてくるのだった。
「おーい!コーサクくーん!例の件は少し検討してくれたのかい?」
少し遠くの方から大きな声で俺を呼び止めた人物。それは先程俺が逃げ出してきた冒険者ギルドのギルドマスター、グウェンドリン・アルディ、通称グウェンさんだった。
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