第47話
「そ、そんなに怒らなくても……」
「コーサクさんは大切なお客様です。魔の森に住んでいらっしゃるのを、そうなんですね……なんて流すわけありませんよ!」
先ほどまでのアルベールさんはどこへ行ったのかと疑いたくなるほど、彼は語気を強めてそう言った。
「まあまあ落ち着いてください。今までモンスターに襲われたことも無いですし、それにグランドボア程度であれば1人でも討伐できますから心配ありませんよ」
「それでも大事をとって、せめて街の近くまで移住するべきです。ここには畑はありませんが、隣の小さな町では農業を主な産業にしています。何もそんな危険な場所で農業を続ける必要も無いのでは?」
アルベールさんはとりあえず魔の森から離れるべきだと話した。
まあ、俺は農業ができればどこでも良いんだが、じゃあすぐに引っ越しますと言うわけにもいかない。
新しい種も蒔いてしまったしな。
「もし危険だと判断したらすぐに森を出ますよ。それに、あの畑は大切な人から引き継いだものですから」
「そうしてくださると私も安心します。取り乱して申し訳ございませんでした。そろそろふかし芋も出来上がるはずですよ」
アルベールさんがそう言ってから1分も経たないうちに、女性の職員がポムテルのふかし芋とシュワンのサラダを持ってきた。
シュワンのサラダには鶏肉を茹でたようなものも乗っていた。
「悪いねセシル、ありがとう。それではコーサクさん、一緒に食べましょう」
「美味しそうですね……ありがとうございます。セシルさんもお忙しいのにすみません」
俺はセシルと呼ばれた女性の職員にも礼を言い、早速調理してもらった2つの作物を味見することにした。
まず俺はポムテルのふかし芋に手をつけた。一緒に出されたフォークを使い、小さく切ってから口に運んだ。
「熱っ!!でも、ホクホクで甘みもあるな」
「こんなに食味が強くて甘みのあるポムテルは初めて食べましたよ!間違いなく私が食べてきたポムテルの中でも最高級に位置付けしていいものだと思います!これならシュワンも期待できるかもしれませんね」
ポムテルのふかし芋はアルベールさんにも大変好評だった。
俺が食べたことのあるジャガイモなんかに食感は近いが、それに負けない食味と甘みがあった。まあ、魔法の肥料で育ててしまったから、普通に育てた場合の味も気になるな。
次に俺とアルベールさんはシュワンのサラダを口に運んだ。サラダにドレッシングのようなものはかかっていなかったが、その方がシュワンの味も一番わかりやすくて良いだろう。
「これは……まあまあ、かな?」
サラダで食べるシュワンはとても瑞々しく、シャキシャキした歯応えが感じられてとても美味しかった。わずかに甘みも感じられたが、特筆するような変わった点も無かった。
越冬キャベツなんかの甘みに似ているかもしれないな……鍋やスープと相性が良さそうだ。
期待を超えてこないシュワンに少し残念がっていたが、目の前にはとても驚いているアルベールさんがいた。
「コーサクさん!このシュワンもとても美味しいですね!」
「え?そうですか?昔食べたことのある作物に似た味だったので、そこまで驚くことでもないと思いましたが……」
「こんなに美味しいものを食べたことがあるのですか……?市場に出回るシュワンは繊維質が多く、そこそこ苦味のある作物なんです。比較的安価でよく庶民の食卓に並びますが、スープなんかに入れて味を誤魔化して食べる家庭も多いのです」
……待ってくれ。そんなに美味しくないものを普段から食べているのか?
その話が本当だと、現在別の畝で育てているシュワンはこれより格段に不味いものに育ってしまうことになる。土壌管理もあまりできていないし、土壌養分もそこまで肥沃な土地では無いのだ。
「それならば市場に出回るシュワンは主に庶民が食べるものなのですか?」
「ええ、そうなりますね。好んで食べられることはあまりなく、貴族の方々はもっと食べやすく比較的美味しい作物を好んでいらっしゃいます。例えばメイトなんかが人気ですよ。貴族の方々が欲しがる作物ですので、価格はかなり高騰していますが」
アルベールさんはシュワンの不遇さを説明してくれた。嫌われ者の野菜なんだな、かわいそうに。
俺が別の畝に植えたシュワンも頑張って美味しく育ててやらないとな。
その後、職員のセシルさんも加わり、試食会も終盤に差し掛かったところでアルベールさんは俺に商談を持ちかけてきた。
「ちなみに、他に用意できるシュワンは2玉と聞きましたが、ポムテルはどれくらいの量があるんですか?」
「ポムテルもそこまで量が無くてですね……大きめのカゴが1つ分ほどしか用意できないんです」
「なるほど……かなり少なめですね。まあ、これだけ美味しいものをたくさん生産するのは難しいですよね。まず、シュワンですが1玉5万ガレル、ポムテルの方は1個1000ガレルでどうでしょう?」
「……はい?」
アルベールさんは俺が持ってきた2つの作物に、俺が予想していた何倍もの価格をつけてきたのだった。
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