第46話
「……正直、ずっと気になっていましたが一体これは?」
俺が麻袋から取り出したものを見て、アルベールさんは不思議そうな顔をしてそう尋ねてきた。
「昨日の帰り道に倒したグランドボアの牙です。これも買い取りして頂けるのかと思いまして」
「グランドボアですか!?コーサクさん、普段は農作業をしているのではないのですか?グランドボアなど、C級冒険者4人ほどのパーティで討伐するモンスターですよ?……まさかそちらのスライムにそんな力が?」
「そ、そうなんですか。なんとか倒せたので運が良かったのかもしれないですね、アハハハ」
アルベールさんの表情を見る限り、グランドボアは1人で倒すようなモンスターでは無いのだろうと予測がついた。
俺は話を上手く合わせて、今後は『テイマー』としてこの街を訪れようと考えた。
「まあその話は置いておいて……残念ながらモンスターの素材は冒険者ギルドが独占して買い取りを行なっているんです。当商会は冒険者ギルドから仕入れた素材を販売するだけですので、そちらのグランドボアの牙は買い取りできないんです」
「なるほど……なんでも買い取ってもらえるわけではないんですね。ちなみにこういうものも買い取りしていないんですか?」
そう言って、俺はゴールデンスライムであるパプリから生み出された握りこぶしほどもある金塊を2つ机の上に置いた。
「……!!コーサクさん、一体これをどこで?」
「まあまあ、詳しいことは置いておいて……買い取って頂けますか?」
「もちろん喜んで買い取りさせていただきますが……コーサクさん、失礼ですがあなたは少しこの国について知らないことも多いみたいですね。まずこういう金を含めた貴金属の鉱脈は主に国が管理しています。当然国が管理している鉱脈から勝手に採取するのは重罪になりますが……そういった心配はありませんか?」
アルベールさんは金などの貴金属について、詳しく説明をしてくれた。
なるほど……希少な金属をご自由にお取りくださいなんていうことになればあっという間に鉱脈が尽きてしまうから当然と言えば当然か。
しかし、このゴールデンスライムが金を生み出すなんていうことは、もしかしたら知られていないのかもしれない。
アルベールさんはパプリを見ても特に反応しなかったし、知っていればもっと大騒ぎになっているはずだ。
俺はパプリの能力は隠したまま話を続けることにした。
「国が管理している、ということは普段から見張りや作業員が駐在しているんですか?私が採取した場所は、森のかなり奥の方でしたし周辺には人影はありませんでしたよ?」
「ええ、国が管理している鉱脈は常に見張りが立っていますし、その鉱脈までは道が整備されている場合がほとんどです。もしかするとまだ未発見の鉱脈かもしれないですね……。詳しい場所は分かりますか?もし分かるのであれば国に報告しますと、報奨金として金貨500枚が支給されることになっているんです」
「金貨500枚!?それほどの大金を支給するんですか!?」
金貨1枚がどれほどの価値があるかわからないが、ボルドーニュ銀貨1枚で1万ガレルだった。それ以上の価値があるのは間違いないだろう。
「まず鉱脈を発見した際は国に報告するのが義務になっているのですが、希少金属を独り占めしようと考える人も多く問題になっていたんです。報奨金を支給する制度を作ってからは、独り占めしている間に他の人が鉱脈を見つけて報奨金を受け取られてはたまらないと考えたのか、鉱脈発見の報告が相次いだんです。それからはそういった鉱脈を見つけようとする冒険者もいるようですね」
国への報告は義務なのか……。これは少し面倒くさいことになりそうだな。
とりあえずは偶然見つけたことにしておいた方が良さそうだな。
「そうなんですか……。でも、私がこの金塊を見つけたのは森の中で木の実を採取していた時だったので、正直詳しい場所まではわからないんです……。それに金鉱石ならまだしも、金塊まるごとが地面に落ちていましたし、何か特殊な鉱脈だったのかも知れません」
「確かに普通であれば金鉱石として採取されるはずですよね……。ちなみにコーサクさんが暮らしている森というのはどちらに……?」
アルベールさんは俺の生活している森の場所を訪ねてきた。珍しい鉱脈と聞いて商人の血が騒いだのだろうか?アルベールさんには悪いが、そんな鉱脈は無いんだけどな。
「ここから南にしばらく進んだ場所にある森の中ですよ。たしか今日会った冒険者が魔の森、なんて言っていたはず……」
「…………ごめんなさい、少し耳が遠くなってしまったようで。私ももう年なんですかね、アハハハ。それで今なんとおっしゃいました?」
「冒険者が言うには魔の森、と呼ばれている森みたいですよ。今日持ってきた作物もそこで栽培したものです」
俺がそう説明すると、アルベールさんは真っ青な顔になってしまった。
「あの魔の森に住んでるなんて自殺行為ですよ!今すぐにでも引っ越すべきです!」
アルベールさんは普段の柔らかい口調とは想像もつかないほど、怒鳴るようにそう言ったのだった。
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