第44話
「た、倒せた……」
魔法を撃ち込んだアンネという女の子は、アンフェルボアを倒して安心したのかその場に座り込んでしまった。
「余計な事に巻き込んでしまってすまなかった!俺にできる事であれば何だってする」
俺は3人の冒険者に深く頭を下げてそう言った。あやうく4人とも死んでしまう可能性もあったし、巻き込んでしまった原因は俺がアンフェルボアを引き連れて逃げてきた事にあった。
そうして頭を下げた俺に、赤い短髪の男は呆れたような表情を見せた。
「そんなに頭を下げられるとこっちも対応に困っちまうだろうが。それにあんたにはアンフェルボアを倒すだけの力があったんだ。俺たちも結果的にはあんたに助けられたようなものさ。なんせ、今日は魔の森のグランドボアを討伐しに行くところだったんだ。アンフェルボアとも出会っていた可能性がある。お互い助かって良かったって事にしようぜ」
「わかった。一緒に戦ってくれてありがとう」
俺は先程の謝罪とは別に、感謝の気持ちを込めて頭を下げた。
すると、座り込んでいたアンネという女の子が俺に話しかけてきたのだった。
「アンフェルボアに攻撃が通用するなんて、他の地域で冒険者として活動しているんですか?あんな攻撃、A級冒険者じゃないとできないですよ?良かったらお名前聞いても良いですか?」
「そういえば自己紹介がまだだったな……俺の名前はコーサクだ。俺はしばらく先から森に少し入った場所で農業を営んでいるだけなんだ。この前初めてグランドボアを倒したばかりで……」
俺がそう話している最中に、赤い短髪の男は驚いた様子で俺の両肩を掴んできた。
「コーサク、お前この森の中で農業してるって!?馬鹿な事言うなよ、この森は魔の森と呼ばれていて草原に出るモンスターとは比べ物にならないほどの強さのモンスターが出るんだぞ?そんな場所で農業してるって誰に言っても信じてもらえないだろ……」
「いや、でも事実だし……今日は向こうの街に収穫した野菜なんかを買い取ってもらおうとしていたんだ。途中でアンフェルボアに追いかけられて逃げてきたんだよ」
俺がそう話すと、冒険者の3人は少し離れた場所でコソコソ話し始めた。隠し事なんてやめてほしいんだが……。
しばらくすると、3人は話をまとめたようで赤い短髪の男は俺に説明を始めた。
「そういえば俺たちも自己紹介がまだだったな。俺はジャンって言うんだ。そっちの金髪の男がクロード、そこの魔法使いがアンネだ。話は戻るがコーサク、お前は長いこと森で暮らしていたのか少し世間知らずのようだ。街に知り合いなんかはいないのか?」
「うーん……知り合いと言って良いものなのかはわからないが、アルベール商会の会長と錬金素材を扱ってる店のプリシラっていう婆さんくらいだ。あとは衛兵の人と少し話す程度だな」
「アルベール商会の会長と知り合いとは……お前どんなコネを使ったらそうなるんだよ。とりあえず、アンフェルボアの事を冒険者ギルドに報告しないといけないんだ。街の近くまでこんなモンスターが近づいているなんて大問題だからな。もちろん、討伐に参加したコーサクは話を聞かれるはずだが……大丈夫か?」
赤い短髪の男、ジャンの説明を聞いて俺は少し考え込んだ。冒険者ギルドの報告が長引けばその分家に帰るのも遅くなってしまうだろう。それに今日は野菜なんかを買い取ってもらうために街に向かっている。なんとかその要件を先に済ましたいものだが……。
「先にアルベール商会に向かっても良いか?そんなに時間はかからないはずだし、そっちの冒険者ギルドの方が時間はかかるんだろう?」
「ああ、それは構わない。先に俺たちが冒険者ギルドに報告すれば良いことさ。話を聞く分には後でも良いはずだからな」
ジャンがそう言ったので、俺は冒険者ギルドの件を了承する事にした。
俺は少し離れた場所に置いてある麻袋を取りに行くと、そこにいるはずのパプリが消えていることに気がついたのだった。
「……パプリがいない!?おーいパプリ!どこに行ったんだー?」
俺が大きな声でパプリを呼ぶと、なんとパプリは口の開いた麻袋の中から出てきた。
「まったく……どこに行ったのか心配したじゃないか……って、パプリ。その中に入っていたプエリア草はどうしたんだ?」
こいつが大人しくするなんて、大体は何かを食べている時だ。今まで誰も気が付かないほど大人しかったことに、俺はかなり嫌な予感がしていた。
麻袋の中を見ると、やはりそこに入れていたはずのプエリア草が半分ほど減っていた。
上級薬草ってかなり希少な物のはずなのに……。まあ、パプリも大人しくしていて無事だったことだし、今回は大目に見てやるか。
俺が再び2つの麻袋を肩に背負いパプリを脇に抱えると、ジャンたち3人は俺を見て不思議に思うような顔をしていた。
「どうした?早く街に向かうぞ?」
「いやいや、さっきまではアンフェルボアに夢中で忘れていたが、お前の職業はモンスターテイマーなのか?そんなに懐いているスライムなんてあまり見たことがないぞ?」
「へえ、そんな職業もあるんだな。こいつは俺が餌付けをしたらついてくるようになったんだ。今は俺のペットとして連れ歩いているんだよ。それより早く街に向かいたいんだ。帰りが遅くなるのは避けたい」
俺がそう言うと、ジャンたちはすぐに支度を済ませて俺に付いてくるのだった。
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