第43話

「魔法っていうのはモンスターにはあまり効かないのか?」


 目の前でピンピンしているアンフェルボアを見て、俺は赤い短髪の男にそう尋ねた。

 俺が思っていた魔法のイメージだと、もっと簡単に倒すことができる物だと考えていてからだ。


「それは相手による……。これでも俺たちはB級冒険者だ。アンネの魔法は一般的なモンスターであれば一撃で葬ることができるんだが……そう簡単にはいかないみたいだな」


「ごめんみんな……私の魔法じゃダメージを与えられないみたい」


 アンネと呼ばれた女の子は申し訳なさそうにそう言った。冒険者の3人はそこそこ腕が立つのだろうが、彼らにとってもアンフェルボアは相手が悪いようだった。


「なあ、もう一度だけ魔法を撃ち込んでくれないか?ダメージを与えられないとしても目眩しくらいにはなるはずだろう?」


 俺はアンネに魔法を撃つように提案した。

 他の2人の男も俺の案を採用するべきと考えたのか、小さく頷いた。


「よし、それじゃあアンネの魔法を合図にアンフェルボアに近づこう。あんたもできる限り攻撃を加えてくれ。モンスターを倒したことがあるんならそこそこ腕が立つんだろう?前衛は1人でも多い方が良いからな」


 赤い短髪の男は俺を含めた3人に指示を出した。

 こうして、俺は3人の冒険者と共にアンフェルボアというモンスターと戦うことになってしまった。




「アンネ!撃て!」


 赤い短髪の男がそう言うと、アンネは再び魔法を発動した。


 それを合図に、俺たちは武器を持ってアンフェルボアへ向かった。

 アンネが撃った魔法は、着弾と同時に大きな爆発を巻き起こし、周辺には土埃が舞った。


「よし!横から回り込め!」


 赤い短髪の男は、俺に向かって指示を出した。

 他の2人も、土埃の舞った隙にアンフェルボアに向かって走り出した。

 赤い短髪の男はアンフェルボアの横に回り込むと、両手で振りかぶった大剣を叩き込んだ。


「……クソ!あまり効いてないぞ!」


 自分の身長ほどもある大きな剣を叩き込んだのだから、それなりにダメージが期待できるのではと考えていたが、赤い短髪の男は焦った様子でそう言った。

 彼の様子を見るに、普通であればそれなりのダメージを与えられる攻撃なのだろうが、アンフェルボアにとっては大したダメージでは無いのだろう。攻撃されたアンフェルボアは少しよろけた程度で、特に痛がる様子も見せなかった。


「うおおおおおお!!」


 片手剣と盾を持った金髪の男が雄叫びを上げながら、赤い短髪の男の反対側から攻撃を仕掛けた。

 彼は何度か剣をアンフェルボアに振るっていたが、その攻撃はどうやらかすり傷程度のダメージしか与えることはできないようだった。


 ……強すぎだろ、アンフェルボア。


 モンスターがこんなに強いとは思わなかった。俺がこの前倒したグランドボアなど足元にも及ばないのではないだろうか。


「このままやられてたまるか!」


 冒険者の攻撃が通じないのを目の当たりにした俺だったが、だからといって抵抗もせずやられるわけにはいかないのだ。


 俺は持っていた斧を大きく振りかぶり、5メートルは超える体高のアンフェルボアの体に向かって攻撃した。


『ブモオオオオオオオオ!!!』


 すると、なぜか俺の振るった斧はすんなりアンフェルボアの体に大きな傷を作ることができた。ダメージを受けたことによって、アンフェルボアはおびただしい量の血を流し、大きな鳴き声を上げたのだった。


「……今のうちに!」


 俺はアンフェルボアが苦しんでる今がチャンスだと判断し、何度もその巨体へ攻撃を加えていった。


 何度か攻撃を受けそうになったが、他の冒険者が俺の代わりに攻撃を受け止めてくれた。

 しばらくして、俺の攻撃を受けたアンフェルボアは断末魔の叫びのように大きな鳴き声を上げ、地面へ倒れたまま動かなくなるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る