第42話

 俺が冒険者らしき3人へ近づくと、男性が2人、女性が1人ということがわかった。

 その内、赤い短髪で大きな両手剣を持った1人の男が俺に声をかけてきた。


「おい!荷物なんて置いて早く逃げろ!」


 荷物……?ああ、この麻袋のことか。この中には育てたポムテルとシュワンなどが入っているし、できれば捨てるようなことはしたくないんだが……。


「ねえ、赤いボアのモンスターってアンフェルボアじゃないの!?A級パーティが3部隊揃ってようやく討伐できるモンスターなのよ!私たちも早く逃げないと!」


 赤毛のショートヘアで、杖のような物を持った女の子は、かなり焦った表情をしてそう言った。

 その表情を見るに、どうやら俺を追いかけているモンスターはかなりの強敵のようだった。

 

 ……もしかして俺、結構やらかしてしまったんじゃないか?

 

 通称MPK、モンスタープレイヤーキルと呼ばれる、オンラインゲームなどで使われる手法だ。

 追いかけて来るモンスターの習性を利用して、他のプレイヤーを倒すという行為でこれを規則で禁止しているオンラインゲームも多い。

 

「すまない!大変なことに巻き込んでしまった!」


 俺はアンフェルボアと呼ばれるモンスターから逃げながら、とりあえず3人の冒険者に謝罪をした。

 この前倒したグランドボアと同じようなものだと考えていたが、その考えは甘かったようだ。


「ったく!なんで武器も持たずにこの草原にいるんだよ!魔の森からいつモンスターが出て来るかわからねえんだぞ?」


 短く髪を刈り上げた金髪の男は、俺に向かって怒鳴るようにそう言った。

 たしかに、俺の今の装備は片手にゴールデンスライムを抱え、大きな麻袋を2つも持っているだけだ。

 武器は一応麻袋に入っているが、それを取り出す暇なんて今は無いだろう。


「……先に逃げてくれ。俺が引きつける」


 俺は関係ない人を巻き込みたく無かったので、アンフェルボアから一緒に逃げている冒険者の3人にそう伝えた。


「引きつけるって……武器も持ってないお前に何ができるんだよ」


 赤い短髪の男は装備も持たない俺を見て、呆れたようにそう言った。


「この袋の中に斧が入っているんだ。この前もモンスターを倒したし、足止めくらいはできるはずだ!このままだといずれ追いつかれる。斧を取り出した時には追いつかれるだろうが、何もしないままだと君達が危ない」


 俺がそう言うと赤い短髪の男は少し考えるような表情を見せた。彼はすぐに考えをまとめたようで、俺と他の冒険者に指示を出し始めた。


「まずあんただけ残して逃げるわけにはいかない。そんなのはただの見殺しに過ぎない。そうだろう?」


 彼が他の2人に尋ねるように聞くと、2人も首大きく縦に振った。


「まさかアンフェルボアと戦うことになるなんて思わなかったけど……一般人を囮にして街に逃げるだなんて、冒険者の風上にも置けないからね。私たちも一緒に戦うよ!」


 杖を持った女の子はそう言って、何やらブツブツと日本語ではないような言葉を呟き出した。


 すると、彼女の目の前に大きな火の玉が現れた。

 火の玉は俺たちにかなり近づいていたアンフェルボアに勢いよく飛んでいき、着弾すると大きな爆発を巻き起こした。


「魔法……?」


「おい!早く自分の武器を出せ!稼げる時間もそんなに多く無いんだぞ!」


 赤い短髪の男に怒鳴られた俺は、我に帰ったように麻袋から斧を取り出した。

 

「嘘!全然効いてないよ!」

 

 斧を袋から取り出した際に、冒険者の女の子の驚くような声が聞こえて振り返ると、そこにはほぼ無傷のアンフェルボアが、鼻息を荒くして真っ赤な目でこちらを睨んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る