第33話
スライムを脇に抱えた俺は、家に入って一旦ローテーブルの上にスライムを置くことにした。
「お前の名前どうする?俺ってネーミングセンス皆無だからな……」
俺はスライムを人差し指で優しく押し付けながら、色々な名前を考えていた。
スライムだからそのままスラ……なんて安直すぎるもんな。
ゴールデンスライムだから金太郎とか?
「まあお前は名前なんてどうでもいいのかもしれないな。それにしても、お腹いっぱいになったのかさっきから大人しいな」
畑から帰ってきたスライムは、先ほどの元気は何処へやらといった様子で、俺の目の前でモゾモゾ動くだけだった。
大人しくなった事には俺もホッとしていた。いつまでも餌を欲しがるようなペットじゃなくて良かったよ。
「スライムの名前なんて決められないなあ。しかも金色のスライムだし、それに合う名前なんて俺には考えられなさそうだ……」
俺はその後もしばらく名前を考え続けたが、ゴールデンスライムに合うオシャレな名前なんていうのは全く思いつかなかった。
「……よし、適当に決めてしまおう。お前の名前はパプリだ。異論は認めない!」
ゴールデンスライムのような色の野菜はもちろん無いが、黄色っぽい野菜と考えた時にパプリカにも黄色いものがあった事を思い出した。
パプリカからパプリ……。スライムのスラ、なんていう名前と同じくらい安直だが、俺には他の名前を考えることはできなかった。
俺がパプリと名付けたスライムは、名前のことなどどうでもいいかのように、ローテーブルの上で大人しくしていた。
「お前の名前は今日からパプリだぞー」
パプリを再び人差し指で押し付けると、パプリはローテーブルの上で左右に転がり始めた。
その姿が喜んでいるように見えて、俺は少し嬉しかった。ペットがいるって結構心が安らぐものだな。
そうしてパプリと戯れていると、急にパプリの体が光り出した。
「え、どうしたんだよ?おい、大丈夫なのか……?」
もしかしてさっき食べさせた雑草が体に悪かったのかと、俺はかなり焦ったがその心配も杞憂に終わった。
パプリの発光が収まっていくと、ローテーブルの上にはなんと、握り拳ほどの大きな金塊があることに気がついた。
「おお!すごいな!これがパプリの力なのか!」
これだけで億万長者も夢じゃ無いかもしれない。そう考えていた俺だったが、1つ重要な事を思い出した。
「……そういえばこれって、パプリの糞なんだっけ……?汚くない?」
前にパプリを『鑑定』した時に、たしか糞として金塊を生み出すと書かれていた記憶がある。
……水洗いくらいはしておくか。そのままでも問題ないかもしれないが、スライムの糞って知っていると少しだけ抵抗があるし。
「まあ、これが金塊だということは変わらないはずだし、パプリに生活を助けてもらう事も今後あるかもしれないな。そうだ、『鑑定』」
◯金塊◯
不純物が全く含まれていない綺麗な金塊。
ゴールデンスライムから生み出されたもの。
金塊を『鑑定』して表示されたプレートには、俺が望んでいた情報は載っていなかった。
「金1グラムあたり何ガレル、なんて表示されると思っていたが……この辺はアルベールさんやプリシラに聞かないとわからないか」
俺が植木鉢などを売却した際に受け取ったのは銀貨だったが、金貨なんかもあるんじゃないかと考えていた。
今日会った商人のアルベールさんは指に金色の指輪をしていたし、金属としての金の価値もそこそこ高い……と思いたい。
そろそろ魔法の肥料を撒いた畝の作物も収穫間近だし、もしかするとまた明日街に向かうことになりそうだな。
その時にでもこの金塊を買い取ってくれるか聞いてみることにするか。
「そういえば考えてなかったが……パプリって街に入っても大丈夫なのか?」
明日以降街に向かった時の予定を立てていた俺だったが、パプリの事をすっかり忘れていた。
『鑑定』では人に危害を加えることはないと表示されていたが、その事を街の人間が知っているかどうかもわからないのだ。
「さすがにここに留守番させるわけにもいかないしなあ……」
この近辺はモンスターを寄せ付けない結界石が起動してあるので、パプリが襲われるということは無いはずだが、それでも心配だった。勝手にどこかへ行ってしまうかもしれないしな。
そこで俺は一つ、おかしな点に気がつくことになる。
「ところで、こいつもスライムだからモンスターのはずだけど……結界石って本当に起動できているのか?普通にモンスター入り込めちゃいましたけど?」
俺はその瞬間、結界石が壊れたのかもしれないとかなり焦り、すぐに木箱に入れてある結界石の様子を確認することにした。
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