第31話

 森に再び入った俺とスライムは、西に向かって真っ直ぐ歩いていた。


 幸い、グランドボアに出会ってからはモンスターに襲われることはなかった。

 グランドボアの返り血を浴びているので、嗅覚が鋭いモンスターなどに襲われるのではないかとビクビクしながら進んでいたが、その心配も杞憂だった。


「グランドボアが倒せたとはいえ、俺の耐久力はあまり伸びてないからなあ……。一撃でも攻撃を受けてしまったら間違いなく死んでしまうし、なるべくモンスターに出会わないようにしないと」


 それに俺の横には相変わらず元気に付いてくるスライムがいる。このスライムがどれだけの攻撃に耐えられるかは分からないが、俺の目の前でこの可愛いスライムを死なせるわけにはいかないのだ。


 俺はこのスライムをどうにか家で飼えないかと考えていた。


 1人で農作業をするのも楽しいが、ペットとしてスライムが家にいてもいいだろうと思ったのだ。

 このスライムは草食らしいので、作物を収穫した苗なんかも食べてくれるかもしれないしな。


「まあ、こいつがどう思ってるのかは全くわからないんだが……」


 ここまで来ても離れずについて来てくれるのは、俺が餌をくれる人と判断したんだろうか?

 餌付けで連れて来たのは良いが、満足できないとすぐ逃げてしまうんじゃないかと少し不安になって来た。


 その後もしばらく歩いているとスライムが急に進むのをやめて、近くに生えていた植物を捕食し始めた。


「やっぱりこいつは腹が減ってるのか?そろそろ家に着くはずなんだけどなあ……」


 まるで犬の散歩をしている気分になって来た俺だったが、スライムが何の植物を捕食しているのか気になり、俺は近くに生えている植物に『鑑定』を発動させた。



◯プエリア草◯

 空気中に魔力が多く含まれる地帯で稀に発見される上級薬草。効能が高く、『錬金』で作られる上級回復薬の素材となる。



「ちょっと待てええええい!!」


 俺はプエリア草を捕食しているスライムを一旦抱き寄せた。


 スライムは食事中に邪魔されたのが気に食わなかったのか、俺の腕の中でかなり暴れていた。


「だから少し待てって!ほら、こっちの薬草だったらいくらでも食って良いから!」


 そうして俺はプリシラから購入した薬草をスライムの目の前に1束置いた。

 スライムは俺が置いた薬草をすぐに食べ始めた。


 その間に、俺はプエリア草を摘み取ることにした。『鑑定』の結果から見ると、それなりに希少な物のはずだ。今のように普通の薬草でも満足するスライムに与えるのは勿体無いと考えた。


「薬草の摘み方なんていうのは分からないけど……根元をちぎって持っていくか」


 今度街に行くときにこのプエリア草も持っていくことにしよう。プリシラが買い取ってくれるかもしれないし。

 その時にでも薬草の摘み方を教えてくれたら良いけどなあ。


 それから俺は薬草を食べ続けるスライムをとりあえず脇に抱えて歩き出した。ずっと立ち止まっているとまたモンスターに襲われる可能性もあるかもしれないからだ。


「プリシラから買った薬草はまだあるけど……このままだとスライムの餌になって無くなってしまうぞ……」


 畑で育てている作物をこのスライムが気に入れば良いんだけどな。

 ただ、こいつが毎日植物を摂取するんだったら魔法の肥料を撒いた畝をこいつの餌用にするのも良いかもしれない。

 俺は別の畝で普通に作物を育てられたらそれで良いし。


 そんなことを考えながらスライムを脇に抱えて歩いていると、急に開けた場所に出ることができた。


「ようやくついた……」


 目の前に広がる開けた場所には、俺が耕した畑と木造のログハウスのような我が家があった。


 こうして、はじめてのお出かけは色々問題も起きたが、無事に帰ってくることができた。

 さらに俺の異世界農業生活には、帰る途中に連れてきたゴールデンスライムというペット(仮)が加わることとなったのだった。

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