第29話

 結局スライムは俺にずっとついてきた。

 先程あげた薬草で満足したのか、それとも餌をくれる人だと認識したのか、どちらにせよピョコピョコ跳ねながらついてくるのは可愛げがあって嬉しかった。


 そして今日の朝、支柱セットを立てた場所に俺とスライムはたどり着いた。


「ここからまっすぐ東に向かえば、おそらく家に着くとは思うんだが……」


 俺は一つ不安なことがあった。例の熊型モンスターから逃げるのに必死で、どのように森を抜けてきたのかはあまり覚えていなかったのだ。


「まあ、なんとかなるだろう。俺の家の裏には小川が流れているし、迷っても川を見つけられたらなんとかたどり着けるだろ」


 俺はあまり深く考えないようにして、ついてきたスライムと共に森へと足を踏み入れた。


 相変わらずこの森は日が差す隙間もほとんどないくらいに木々が生い茂っていた。

 なんというか、どんよりとした不気味な森だった。


「また変なモンスターが出てきたら厄介だな……もしそうなったら、スライムを抱えて走ることになりそうだな」


 おそらくこのゴールデンスライムとやらはそこまで機敏な動きはできないだろう。このスライムが素早く移動することなど想像もつかないしな。


 遠くの方からはギャアギャアとなんの生物かわからない鳴き声が時々聞こえてくる。

 

 早く森を抜けたい。少し急ぎ足で歩きながらそう考えていた俺だったが、少し遠くの方の木々が激しく揺れて何かがこちらに近づいて来るのがわかった。


「おいおい、なんかやばそうなの来るんじゃないか?」


 まだその姿は見えなかったが、木々を大きく揺らすほどの生物がそれなりの大きさなのはなんとなく予想がついていた。


 俺はスライムを脇に抱えて、進んでいた道を走って引き返した。


 しかし、ステータスが上がって朝の熊型モンスターから逃げ切れるスピードを手に入れた俺でも、今こちらに近づいているモンスターのスピードは尋常じゃ無いほど速かった。


「くそ!どんだけ速いやつが来るんだよ!」


 まだモンスターの姿を視認することはできないが、後ろからは木々を揺らすだけではなく時折メキメキと木が折れるような音も聞こえてきた。


 森に入ってまだそんなに進んでいないので、すぐに森を抜けることができた。その後すぐに、俺たちを追うように近づいてきたモンスターの姿をようやく目にすることになった。


「おいおい……熊の次はイノシシかよ!」


 俺たちに近づいていたのは、大型のイノシシのようなモンスターだった。


 真っ黒な体毛で覆われていて、体高は4メートルはありそうなほどその体は大きく、口には大きな牙が生えていた。

 

 なぜかイノシシ型モンスターは興奮した様子で執拗に俺を追いかけてきた。

 特にこちらから攻撃を仕掛けたというわけでも無いのに、なぜそこまで追いかけてくるのか分からなかった。


「そもそもなんで居場所がバレたんだ?森に入ってすぐだっていうのに……」


 イノシシは居場所がわかるほどに鼻が効くものなんだろうか?


 そんなことを考えながらモンスターから逃げていた俺だったが、次第にその距離も徐々に縮まっていた。

 

「どこまで追いかけてくるんだよ!このままだとやられてしまうか……」


 イノシシと言えば、猪突猛進ということわざを思い浮かべることも多い。

 イノシシの恐ろしい所は重たい体重で相手に向かって突進する高い攻撃性にある。

 

 クソ……!ついにモンスターと戦わないといけない時が来てしまったのか。

 

「あのモンスターに真正面から挑むなんて、トラックに轢かれに行くのと変わらねえだろ……」


 あんな大きなモンスターに真正面から攻撃しても通用しないだろう。俺はなるべく近くに引き寄せてから横に飛んで逃げようと考えた。


「上手くいくかは分からねえが……やるしか無いよな。せーの!」

  

 俺はイノシシ型のモンスターを充分に引きつけて、全力で横に跳んだ。


 その横をイノシシ型モンスターは猛スピードで駆け抜けていった。

 しかし、予想とは違いイノシシ型モンスターは機敏な動きでUターンしてきた。


「イノシシってそんな機敏に動けるものなのかよ!」


 このままだと俺とスライムは共に命を散らしてしまう。

 俺は覚悟を決め、モンスターに向けて斧を構えた。


「どうせ死ぬなら一撃でも食らわせてやる!おりゃああ!」


 俺はイノシシ型モンスターの突進に合わせて斧を全力で叩き込んだ。


 ここで俺は命を落としてしまう。そう考えていた俺だったが、俺の攻撃は思いもよらぬ結果を生み出してしまう。


「……え?」


 俺が斧を叩き込んだイノシシ型モンスターの頭部は、俺の攻撃によって横に真っ二つになった。

 

 その場には生き絶えたイノシシ型モンスターが横たわり、返り血をたくさん浴びてしまった俺は目の前の現状が理解できず、ポカンと立ち尽くしてしまっていた。

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