第28話

「少しまったりしすぎたか……?」


 この街に来てからアルベールさんとプリシラの所にしか行っていないが、随分時間が経ってしまった感覚がある。


 モンスターに襲われたりする可能性を考えると、帰り道も時間がかかると思っていた方が良いだろう。


 俺は暗くなった後に森を抜けるのが嫌だったので、なんとか夕飯には間に合うように帰りたかった。


 商業地区を抜け、しばらく歩くと街の正門にたどり着いた。

 アルベールさんを紹介してくれた衛兵のアランさんは暇そうに街の外を眺めていた。


「アランさん、今日はありがとうございました」


「おお、今朝の兄ちゃんか。アルベールはいい奴だっただろう?」


「ええ、お陰様で良い取引が出来ましたよ。これもアランさんがアルベールさんを紹介してくれたおかげです」


 俺がそう言うと、アランさんはとびっきりの笑顔を見せた。その様子を見る限り、彼らは相当親しい友人なのだろう。

 

「おっと、忘れちゃいけねえことがあったな。ほら、お前の斧だ」


 そう言って、アランさんは俺が街に入るときに預けた斧を俺に手渡した。

 

「次からは斧を担げるような装備をしてこいよ?そうじゃないとまた預かる羽目になるからな」


 アランさんのその言葉で、俺は買い忘れに気がついた。しかし、今日はもう時間が無いしなあ……。


「すっかり忘れてました……。そういった装備はこの街でも購入できるんですか?」


「ああ、この街の武器屋に行けばほとんどの店が取り扱っているはずだ。なんだ、てっきり俺はそれを買ってくるものだと思っていたぞ?」


「私の住むところはここから少し距離があるので、今日はもう帰らないと行けないんです……今度この街に来た時はまた預かってもらうことになるかもしれません……」


「まあその時はまた預かってやるよ。ほら、急いでるんだろ?帰り道もモンスターに気をつけるんだぞ」


 アランさんはそう言って俺を送り出してくれた。俺はアランさんに頭を下げ、自分の家がある森へと少し急ぎ目に足を進めるのだった。




 しばらく家に向かって歩いていた俺は、モンスターに襲われる、なんていうことも無く順調に進むことができていた。


「もう少し街でゆっくりできたかもしれないな……まあ時間に余裕を持つのに悪いことはないか」


 帰ってからプリシラが選んでくれた素材で『錬金』の練習もしたいと思っていたのだ。


 魔法の肥料を撒いた畝も成長が早すぎるから少し様子を見ないといけないなあ。


 家に帰っても少しやることもあるの、で早く帰ることに越したことは無いと考えながら、見渡す限りの草原を歩いていた俺だったが、午前中にも見た可愛らしいモンスターに再び出会うことになった。


「おお!あれはスライム!しかも金色でめっちゃ綺麗だな!」


 近くの草むらからピョコッと跳ねて出てきたのは、その体を黄金に光らせたスライムだった。朝見た透明度の高いスライムとは違い、その体は全く透けておらず内部にキラキラと金属のような物が見えてとても綺麗だった。


「こんなスライムもいるんだなあ……。詳しく見てみるか」


 相変わらず逃げようともしないスライムに近づき、俺は『鑑定』を発動させた。



◯ゴールデンスライム◯

 10万匹に1匹程度の突然変異で生まれる特別なスライム。人に危害を加えることはなく、主に雑草や木の実を好んで捕食する。ゴールデンスライムは捕食したものを分解し、金塊を生み出すことができる。

 


「……こいつとんでもないスライムじゃねえかよ!」


 『鑑定』の結果、人に危害を加えることがないと知り安心したが、問題は最後の一文だ。

 金塊を生み出すスライムなど問題にならないわけがない。この世界で金にどれほどの価値があるかは分からないが、金貨が貨幣として使われるくらいだ。それほど安くないことは確かだろう。

 

「こいつ、連れて帰れないかな……?」


 愛くるしい見た目をしていて尚且つ俺の資金を作り出してくれるなんて良いこと尽くめだろう。

 

 俺はプリシラから買った錬金素材の中に薬草があったのを思い出し、餌付けで懐かせようとした。


 薬草を動かすようにしてスライムを誘い出すと、ピョコピョコと跳ねながら近づいてきた。

 スライムは俺が持っていた薬草を食べたがっているようなので、そのままスライムに与えることにした。

 薬草を地面に置くと、スライムは自分の体に取り込むように薬草を捕食した。


「スライムって口とか無いんだな……」


 俺はスライムが薬草を捕食し終わるのを待っていると、スライムはもっと寄越せと言うように俺の近くをピョンピョン跳ね回った。


「うーん……さすがに錬金の素材を全部与えるわけにもいかないしなあ。いっそのこと家までついて来ないかな?」


 スライムも俺の近くを離れようとしないので、とりあえず家に向かうことにした。

 途中で俺から離れるようならまた薬草で興味を引こうと考えていた。

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