第27話
「ところで婆さん。名前はなんて言うんだ?」
老婆が色々素材を選んでくれている間、俺は何もすることがなく椅子に座って待っていたが、それなりに良くしてくれる老婆をずっと婆さん呼ばわりするのも悪いと思い、名前を尋ねることにした。
「私の名前かい?私はプリシラだよ。別に婆さんでもプリシラでもあんたの好きに呼ぶがいいさ」
婆さん、改めプリシラは素材を選ぶのに忙しいのか俺の方に目もくれずにそう答えた。
「ならプリシラと呼ばせてもらうことにするよ。ところで素材を選んでくれてるところ悪いんだが、俺の持ち合わせで足りるか分からないぞ?」
俺の手持ちは銀貨25枚、25万ガレルだけだ。こういう素材がどれくらいの価格なのか分からない今、とんでもない金額を要求されるのではないかとすこし不安になってしまったのだ。
「大体全部で銀貨2枚程度には抑えるつもりだよ。それくらい払えない甲斐性なしっていうわけじゃないんだろう?」
「へえ、意外と安く済むんだな。てっきり何十万と請求されると思っていたよ」
「そりゃ錬金の素材もピンからキリまでたくさんあるさ。あくまで私が今選んでいるのは『錬金』の練習用の素材だからね。そんな大層なものが作れるわけじゃないし、金額もそこまで高いものじゃないんだよ」
プリシラは『錬金』の素材についてそう説明してくれた。ということは、魔法の肥料(レベル5)なんてつくれる、カミラが用意した素材は高価なものが多かったのだろうか?
しばらく待っていると、プリシラがそこそこ大きな袋に入れた素材を持って俺をカウンターに呼び出した。
「待たせたね。『錬金』で作れる回復薬や魔力回復薬なんかが作れる素材を入れておいたよ。全部でちょうど銀貨2枚だ」
俺はすぐに銀貨2枚をプリシラに渡す。
「手間をかけさせて悪いな。ちなみにこの中に入ってるもので他に『錬金』できるものはあるのか?」
「いや、今袋に入れたのは主に薬草関係さ。毎日回復薬なんかを作っていれば、スキルレベルも上がって品質の高いものを作れるようになるはずさ。今のあんたが『錬金』でエリクサーなんかを作ろうとしても、せいぜい出来るのは中級回復薬程度さ。運が良ければ品質の良いものが作れる場合はあるんだけど、素材の無駄になるから最初はスキルレベルを上げることだけ考えな」
……ん?それは少しおかしいんじゃないか?
プリシラが説明したことが本当だとしたら、魔法の肥料を作れてしまったことに矛盾が生じる。
『鑑定』で魔法の肥料を見たときにも、肥料としては最高峰と表示されていたはずだ。
『錬金』のスキルレベルが足りないと品質が下がるということは、品質が下がってもなお魔法の肥料はあの効果だということになる。
俺はその点が気になり、遠回しにプリシラに質問することにした。
「一つ聞きたいんだが、『錬金』で作る物の品質というのはどうやって判断するんだ?効果が高いとか低いとかって、使ってみないと分からないんじゃないか?」
「それは『査定士』が判断できるんだよ。スキルの名前は『査定』と言うらしいんだが、それは物の品質を測ることができるっていうスキルらしいのさ。各地の錬金ギルドには『査定士』が必ず1人はいるものなんだよ」
なるほど、それならば品質の判定は問題ないのか。
「ちなみに品質はランクが付けられる物なのか?例えばレベル1とか」
「あんた、意外と察しがいいじゃないか。その通りだよ。『錬金』や鍛治師の『武具制作』で作られるものはどんなものでも最高ランクはレベル10と決まっているのさ。まあ、ここ近年『錬金』で作られた最高ランクはレベル6のエリクサーさ。それを作った錬金術師は一生遊んで暮らせるようなお金を手に入れたって話だよ。羨ましいもんだね」
プリシラは品質についてそう説明した。
……ということは俺、とんでもないものを作ってしまったんじゃないか?
魔法の肥料(レベル5)を作れたのは、ただ単に運がよかっただけなのだろうか。
それにしても、あんな効果がある肥料を持っているとバレたら面倒臭いことになるのは間違いないはずだ。
俺はその後プリシラに感謝を伝え、すぐに店を後にした。
魔法の肥料については誰にも話すわけにはいかないと俺は心に決めたのだった。
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