第26話
俺はアルベールさんに場所を聞いた、とある錬金素材の店に到着した、はずだった。
アルベールさんから聞いた場所には、今にも崩れそうなボロボロの建物があり、扉の向こうには明かりがついているわけでもなく、とても店と呼べるような外観では無かったのだ。
「本当にここなのか?まるで廃墟じゃないか……」
場所を教えてもらわなかったら素通りしてしまうような外観だ。
まあ、アルベールさんが言っていたなら間違いはないはずだが。
俺は意を決して扉を開いた。
暗い店内には誰もいなかったが、そこら中に鉱石や植物などが無造作に陳列されていた。
「あのー、すみませーん……」
俺は店員がいるかもしれないと呼びかけたが、それに反応する声は聞こえてこなかった。
まさか営業時間がまだなのだろうか?それにしても入り口が空いているというのは変だと思うんだが……。
俺は日を改めてまた来ようと、店の入り口へ振り返った。
「ぎゃあああああああああ!!!」
目の前には包丁のような物を持った老婆が俺を睨むようにして立っており、俺はそれに驚いてかなりの声量で叫んでしまうのだった。
◇
「なんだいやかましい男だね。店主のいない店に入り込むなんて、あんた泥棒かなんかかい?」
老婆は持っていた包丁をカウンターの上に置き、呆れたようにそう言った。
言い方からして、老婆はこの店の店主なのだろう。
「いやいや!そもそも店からいなくなるなら入り口の戸締りぐらいしろよ!それにこんな真っ昼間から包丁を持ち歩いている婆さんの方がよっぽどおかしいよ!」
振り返ったら包丁を持った老婆が立っているなんて、どこぞのB級ホラー映画かよと思ってしまう。
「最近包丁の切れ味が悪くなってきたから知り合いの鍛治師に研いでもらっていたんだよ。それで?あんたは何を買いに来たんだい?」
「あー、忘れてた。少し臨時収入があったから『錬金』に使える素材を買いに来たんだ。アルベールさんから紹介されてな」
俺がそう言うと、老婆は目を開いて驚いた表情をしていた。
「あのアルベールの紹介だって?へえ……あの子がそんなことをするなんて……あんた、相当腕のいい『錬金術師』なんだね?」
「まあ『錬金』は使えるが……本当に趣味程度の実力だぞ?『錬金』に何が必要かもあまり分からないし」
『錬金』には多くの魔力を使うということくらいしか俺は知らないし、カミラが用意してくれた素材があったから『錬金』ができただけなのだ。
「……ちょっと私も耳が遠くなってきたようだね。『錬金』を趣味程度にやっているなんて聞こえちまったよ」
「だからそうだと言っているだろう。俺の本業は野菜なんかを育てる農家なんだ」
俺がそう説明すると、老婆は大きく右手を振りかぶり俺の頬を平手打ちした。
「痛!なにするんだよ!」
「あんたはよほどの世間知らずのようだから私がよーく説明するよ。耳をかっぽじって聞きな。『錬金』が使える職業は私の知る限り『錬金術師』しか知らないよ。あんたの職業がなにかは知らないが、『錬金』が使えるのに普段は農作業しているなんて錬金ギルドが聞いたらあんたをとっ捕まえにくるはずさ。それくらい『錬金術師』は希少な人材なんだよ」
「錬金ギルド?そんなものがあるのか?」
「はあ……ギルドの事も知らないなんて、あんたどれだけ世間知らずなんだい?」
老婆が言った錬金ギルドのことなどカミラからは説明を受けたことはなかったので、その辺に関しての知識は全く無かったのだ。老婆の反応を見る限り、知らない人はいないようだが。
「俺は今まで森の中で作物を作って暮らしていたんだよ。街にきたのも今回が初めてだし、世間知らずはそのせいなんだ」
「世間知らずは良いカモにされるから気をつけることだね。アルベールに気に入られたのは運がよかったと思った方がいい。ほら、色々教えてやったんだ。少しは老婆の懐を温めるために色々買っていっておくれ」
老婆はそう言って商品を見るように促してきた。別に教えてくれなんて頼んだ覚えは無いのだが、それでも初めて知ることを少し教えてくれたのは事実だ。アルベールさんの紹介する店だし、ぼったくる店では無いだろう……と信じたい。
俺は店の中にある商品を見てまわったが、初見ではそれが何か全く分からないものがほとんどだった。
俺は老婆にバレないように、商品に向けて『鑑定』を発動させた。
◯聖水◯
一部の地域で湧き出る清められた水。アンデットの討伐や錬金素材など、さまざまな使い道がある。
◯大地の結晶◯
ダンジョン内の鉱脈で採取される結晶。魔力を多く含んでおり、魔道具や錬金の素材として使われることが多い。
◯ブリーズビーの毒液◯
蜂型モンスター、ブリーズビーから採取される毒液。主に錬金の素材となる。
◯パロールベアの牙◯
熊型モンスター、パロールベアから剥ぎ取ったもの。その牙はとても硬く、主に武器の素材として使われることが多い。
「うーん……これを使ってもどういうものが『錬金』できるのか分からないしな」
『鑑定』ではその素材がどういうものか分かっても、『錬金』のレシピが表示されるわけでも無いので、正直何を買うべきかはわからなかった。
「あんた本当に『錬金』について何も知らないんだね……。仕方ないねえ、私が『錬金』の練習になるような素材を選んでやるから少し待ってな」
何を買えばいいか分からずに悩んでいる俺を見て、老婆は少し手助けをしてくれることになった。
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