第25話
「失礼します……」
俺はアルベール商会の扉を木箱を抱えながら開けた。
商会の中にら商品がたくさん陳列されている……というわけではなく、そんなに広くない部屋にテーブルが3つとそれに椅子が設置してあるだけだった。
「おや?コーサクさん、何か忘れ物でも……?」
ちょうど他の客もおらず、なにかを勘定していたアルベールさんが声をかけてきた。
「いえ、少し見てもらいたいものがありまして」
俺はそう言ってアルベールさんが座っていたテーブルの上に木箱を置かせてもらった。
早速俺が木箱から植木鉢を取り出すと、アルベールさんはかなり驚いた様子だった。
「コーサクさん!これをどこで手に入れたのですか!?」
「え?私の家で使おうと思っていた植木鉢ですけど……入手方法は秘密です」
俺はアルベールさんに『資材ショップ』のことは黙っておいた方が良いと考えた。
さすがにカミラからもらったスキルはこの世界だと異常なはずだからな。
「こんな綺麗なものを植木鉢に、ですか……?それにこの平皿だって、王族の食卓に並ぶような綺麗な皿ばかりです。形も全て同じで狂いもないですし……」
アルベールさんは真っ白な植木鉢と受け皿を見て何か独り言をブツブツと呟いていた。
「あの、すみません。私はそういった知識が全く無くてわからないのですが、こういったものは高級品にあたるのでしょうか?」
まさか植木鉢の受け皿が王族の食卓に並ぶものなどと、高い評価を受けるとは思わなかった。真っ白な皿というのはあまり市場に出回っていないのだろうか?
「まず、一般的な家庭にある食器というのは粘土をこねて素焼きしたものになります。そのため、色も茶色のようなものが多いのです。一部の地域の山から採れる土からはこういった白い陶器を作ることができるのですが、その土も産出量が少なく希少な物なのですよ。それにここまで均一に同じ形の食器などを作れる職人はまずいないでしょう」
「そうなんですか。それほど価値のある物だとは思いませんでした……。ちなみにこれは買い取っていただけるのですよね?」
「もちろんです!大至急代金をお支払いしますのでもう少々お待ちください」
そう言ってアルベールさんは部屋の奥の方へ走って行った。
まあ、買い取ってくれるとわかって一安心だな。これでひとまず一文なしでは無くなるだろう。
「……どれくらいの価値があるんだろうな」
ちなみにこの白い植木鉢は1つ50ポイント。受け皿は10枚セットで100ポイントで購入した。
それなりに高値で買い取ってもらえれば、帰りに『錬金』の素材なんかを買い足すことができるかもしれないな。
しばらくすると、アルベールさんは小さな袋を持って戻ってきた。どうやらあの袋の中にお金が入っているようだ。
「お待たせいたしました。まず、この植木鉢の方ですが、1つにつき5万ガレルで買い取りいたします。3つありますので合計15万ガレルとなります。そしてこちらの平皿の方ですが、1枚あたり1万ガレルで買い取りいたします。こちらは合計10万ガレルですね」
「買い取っていただけるならそれで結構です。ありがとうございます」
俺は特に要望も無かったので提示された金額で売り払うことにした。
正直、ガレルという通貨がどれほどの価値なのかはわからなかったが、そんなに安くは無いだろうと考えたのだ。
俺は受け取った銀貨に『鑑定』を発動させることにした。
◯ボルドーニュ銀貨◯
ボルドーニュ大陸で使用されている通貨。
1枚あたり1万ガレルの価値がある。
まあ、枚数的にはそのくらいの価値だろうとは思ったが……1万ガレルはどれくらいのものが買えるのか『鑑定』だとわからないな。
「あの、ちなみに普通に栽培したポムテルだと露店などではどれくらいの価格で売られているのでしょうか?」
「そうですね……時期にもよりますが、大体1個50ガレルから60ガレルと言ったところでしょうか」
アルベールさんは俺の質問にそう答えてくれた。日本ではジャガイモ1個だと70円とかそこらだったから、大体日本円と同じ価値なのか?
「そうなんですね。今度近いうちに作物の方も持ってくるので買取りをお願いしますね」
「ええ、もちろんです。今回は良い取引になりました。また後日お会いしましょう」
そうして、俺の初めての商談は特に問題もなく終わることができ、アルベール商会を後にした。
まさかただの植木鉢が5万円相当の金額で売れるとは思わなかった。受け皿も1枚1万円相当だ。日本だとぼったくり同然の金額だが、この世界ではそれほどまでに価値があるものなのかもな。
俺は植木鉢と受け皿を高く買い取ってもらえたので、この町にある錬金素材を取り扱う店に向かうことにした。
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