第24話

 商業地区に着いた俺は、その活気に圧倒されていた。


「客引きの声がすごいな……今はみんな買い物に来る時間帯なのか?」


 商業地区の入り口ではかなりの数の露店が集まっており、街の住人と思われる主婦が溢れていて大変賑わっていた。


 俺が目指すアルベール商会はまだ先なので、人混みの中を掻き分けるようにして進むことになった。


 50メートルほど進むと、人混みも徐々に薄れていき、なんとか俺はアルベール商会へ向かうことができそうだった。


「いつもあんなに混んでいるのか……?毎日あんなに混んでいたら買い物する人も大変だろうな……」


 あの中に少し入っただけでも俺は人酔いしてしまいそうだった。この街の人は皆たくましいのかもしれない。


 しばらく進むと、大きな商会が立ち並ぶ地区に着いた。ここにアルベール商会があると地図で見たんだが……。


「あ、あったあった。結構大きな商会なのか?」


 少し先にアルベール商会と書かれた看板を掲げる大きな建物があった。

 近くの商会と思われる建物よりも一回り大きなその建物はかなり目立っていた。


「……こんな格好で入っても断られたりしないだろうな?」


 なんか、ここに来るのは場違いな気がしてきた。おそらくだが、貴族なんかが来るような高級な物を扱う地区なんじゃないか?


 俺はアルベール商会の建物の前で、入るかどうか少し悩んでいると、中から俺より少し背の低い、ふくよかな体型をした年上と思われる男性が声をかけてきた。


「あの……先程から当店の前で何をされてるのでしょうか……?」


 彼は、俺のことをかなり怪しんでいるような目で俺のことを見ていた。

 確かに俺の行動は客観的に見れば、商会の前でウロウロする変な服を着た男だ。それは怪しいと思われても仕方がないか。


「失礼しました。とても大きな商会でしたので少し入るのを躊躇していました……。衛兵のアランさんという方に、作物などの買取ならとこちらを紹介されまして」


「へえ、アランがそんなことを。私とアランは古い友人でして……ご紹介遅れました。私、アルベール商会の代表を務めております、マルク・アルベールと申します」


 なんと、俺に声をかけてきたのはアルベール商会の代表だという男だった。


 確かに、彼は言葉遣いにも品があり、一般的な店の店員とは一味違うオーラを感じた。


「私は……コーサクと申します。森の奥に家を構えて農業を営んでおります」


「そうなのですか。言葉遣いが丁寧なものですから、てっきり遠くからいらしたどこかの貴族の方かと思いましたよ」


 アルベールさんはそう言ってすこし苦笑いしていた。

 俺も言葉遣いに関してはある程度の知識しか持ち合わせていないが、この世界だと丁寧に話せる人は少ないのだろうか?


「今日は作物を持ってきていないのですが、近日中に収穫できそうな作物がありまして、そちらを買い取っていただけるか相談したかったんです」


「なるほど!もちろん構いませんよ。私の商会は主に食品とモンスターから採れる素材を扱っています。野菜や果物なんかはありったけ買い取らせていただきますよ」


 アルベールさんは俺の相談を二つ返事で了承してくれた。まだなんの作物かも言っていないのに、大丈夫なのだろうか?


「あの、ちなみに持ってこようと思っているのはポムテルとシュワンという作物なのですが、それでも大丈夫でしょうか?」

 

「ええ、どちらも買取させていただきます。特にポムテルは貯蔵性も良く、安価なことから庶民に大人気ですからね。あればあるだけ嬉しいですよ」


 ポムテルもシュワンも買い取ってもらえそうで一安心だ。

 魔法肥料を撒いた畝の作物だから、アルベールさんが知っているような物ではないかもしれないけど、品質が高い物になるはずだし気にしなくてもいいか。


「ちなみに、野菜や果物のような食品以外でも買い取れるようなものはあるんですか?」


「買い取らせていただくかは一度拝見しなければわかりませんが、珍しいものや高品質な物であれば間違いなく買い取りますよ?」


 なるほど。これはいいことを聞いてしまったかもしれない。


 俺はひとまずアルベールさんに別れを告げ、商会から少し離れた場所にある路地に入ることにした。


「よし、誰も見ていないな……」


 そうして俺は『資材ショップ』を発動し、誰かに見られないように急いである物を購入した。


 いつも通り空中に現れた木箱を、地面に落とさないように受け取った。

 今回購入したものは衝撃に弱いものなので、地面に落とすと割れてしまう可能性があった。


「おお、これは意外と品質がいいんじゃないか?」


 俺は購入した物を木箱から取り出してそう呟いた。


 俺が購入したのは、陶器製の真っ白な植木鉢とその受け皿だった。

 植木鉢は全体的に丸みを帯びており、受け皿は言われなければ普通に料理が盛り付けられそうなものだった。


 俺はこれをアルベールさんが買い取ってくれないだろうかと考えたのだ。


「こういうところは少しズルしたっていいよな」


 『資材ショップ』で購入したものを転売するくらいならバチは当たらないだろう。

 俺は一刻も早く一文なしから脱したかったのだ。


 俺は木箱に購入した物を入れて、再びアルベール商会へと向かうことにした。

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