第23話

 森を抜けた場所から街へ向かって数十分。

 特に問題が起こるわけでもなく、俺は街へ向かうことができていた。


「あの熊型モンスター以来何も出てこないな」


 意外とこの世界にはモンスターは少ないのか、それとも運良く出会っていないだけなのか。

 森の中でも、実際に見たモンスターはあの熊型モンスターだけだった。

 

 まあ、出会わないに越したことはないか。

 

 俺がそんなことを考えていると、遠くの草むらででキラリと光が反射するのが見えた。


「ん?今何か光ったような……」


 丁度北に向かう途中にある草むらなので、俺は何があるか見に行くことにした。


 草むらに近づくと、その物体が時折モゾモゾと動いたり、時には跳ねたりしているのが見えてきた。


「……スライム?」


 そう。遠くで太陽の光が反射して見えたのは透き通った体をしているモンスター、スライムだった。


 スライムは特に何かしているわけでもなく、俺が近づいても逃げようともしなかった。


「さすがファンタジー。スライムなんかもいるのか」


 見た目は攻撃性もなく、モゾモゾと動いている仕草も愛くるしいものだったが、先を急ぐ俺はスライムと戯れることを諦め街に向かうことにした。


「家にも愛犬ならぬ愛スライムなんていうのがいてもいいと思うんだけどな……。ペットとしてスライムを飼うことはできないのか?」


 まあ、モンスターだからそういうのは難しいかもな。


 帰りが遅くなるのも嫌だったので、俺は少し早足で街へと向かった。




 スライムを見つけてしばらく経つと、徐々に街と思われるものが見えてきた。


 街は壁のようなもので囲われているようで、遠くからでは街の様子は見ることができなかった。


 あの街はモンスターに襲われないように壁で囲われているのかもしれないな。

 モンスターがいつでも入り込める街になど住みたくもないし。


「そういえば俺一文なしだけど、街に入る時にお金取られないのか?」

 

 街に入る時に通行税なんかが取られる街だと一文なしの俺は入ることができない。


 街に近づくにつれて、入れなかったらどうしようと不安になってきたが、街の入り口には槍を持ち、金属でできた防具を見にまとった衛兵のような男性が一人立っているだけだった。彼は外国人のように彫りの深い顔をしていた。

 やはり、俺と同じような顔が多いのかもしれないな。


 色々不安な面もあったが、俺は衛兵に少し質問することにした。


「あの、お聞きしたいことがあるんですけど……」


「ん?ああ、もちろんいいが……随分変な格好をしているな?」


 衛兵は早速俺が着ているツナギを不思議に思ったのかそう尋ねてきた。


「えーとこれは……そう!民族衣装なんですよ。私は山奥で作物を育てている小さな集落からやってきまして……」


「なんだ、そういうことか。結構田舎からここの街にやってくる人も多いが、俺が見た中で一番特徴的な服だぞ?」


 ふう、なんとか誤魔化せたようだ。さすがにツナギのようなものはこの世界には無かったか。


「そうでしたか。ところで、今後この街に育てた作物を売りに来たいと考えているのですが、そういった場合どこに向かえばいいのでしょうか?」


「ああ、それなら商業ギルドに登録している商会が買い取ってくれるはずだ。ここだけの話だが……お前みたいなお上りさんをカモにして儲けようとするやつも多い。俺が勧めるのはアルベール商会だ。衛兵のアランに紹介されたと言えばそれなりに良くしてくれるはずさ」


 彼はアランと言う名前らしい。衛兵のアランさんは囁くように小さな声で俺にそう言ってきた。なるほど……たしかに何も知らない田舎からやってきたやつほど利用しやすいと考える商人も多いのかもな。


「色々教えていただきありがとうございます。まずはアルベール商会に向かうことにします」


「っておい、ちょっと待て。お前その手に持ってる斧、そのまま街を歩くわけにはいかないぞ?冒険者なんかは街の中で腰につけたりできるような装備があるんだが……とりあえず俺が預かっておいていいか?」


「あ、忘れていました。それならアランさんに預けていきますね」


 俺はアランさんに斧を預けることで、街に入ることができた。


 不安だった通行税のようなものもなく、何より言葉が通じたのが良かった。さすがに言葉が通じない異世界生活などハードすぎて生きていける自信がない。


「えーと、アルベール商会はどこなんだろう……」


 衛兵のアランさんが言っていたアルベール商会というのがどこにあるかわからなかった。

 もう一度アランさんに聞きに戻ってもいいのだが、何もかも聞くのも悪いと思ったので、俺は自分で商会の場所を探すことにした。


 しばらく真っ直ぐ進むと、噴水がある開けた広場に出た。

 そこに街の地図のようなものが貼ってある看板が設置してあるのが見えたので、俺はそれを見て商会を探すことにした。


「おお、字もすらすら読めるのか。カミラも色々気を遣ってくれたのかもな」


 看板の文字は見たこともない文字だったが、普通に理解することができた。


「えーと、アルベール商会は……あった。この広場の先にあるのか」


 地図によると、広場を越えた先に商業地区があるらしいので、そこに行けば辿り着くことができるだろう。


 俺はあまり見たことのない街の雰囲気を楽しみながら、アルベール商会に向かうことにした。

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