第22話
「……めちゃめちゃ緊張するぞこれ。いつ襲われてもおかしくないだろ」
森の中を慎重に進む俺は、いつモンスターが現れるかわからず、かなりビクビクしながら歩いていた。
遠くの方からはギャアギャアと聞いたこともない鳴き声が聞こえてくる。
カミラは西に森を抜けろと言っていたが、それがどのくらいの距離なのかは言っていなかった。
すでに出発してから15分は経ったんじゃないだろうか。正確な時間はわからないが、すぐに森を抜けられると思っていたので、歩いてる時間がかなり長く感じていた。
「まだ森を抜けられないのか……。早くしないとモンスターの餌になってしまうぞ……」
そんなことを呟きながら歩いていると、すぐ近くでガサガサという草木が揺れるような音が聞こえた。
すぐさま俺は近くにあった低木の近くへしゃがみ込むように隠れることにした。
そのまま隠れていると、クシャリと落ち葉を踏みつけるような音がだんだんこちらに近づいてくる。
……もしかしてここがバレているのか?
とくに食べ物なんかも持ってきていないし、特別匂いのするものなんて……あ。
俺はそこで臭いのする原因にようやく気がついた。
この世界に来て、俺は風呂に入っていなかったのだ。
『資材ショップ』のポイントが増えてからは雑巾で体を拭くことはできたが、服は着替えることはできていない。
毎日農作業した汗が染み込んだ服なんて、食品以上に居場所を知らせてしまうわけだ。
「……冗談じゃねえよ!」
俺はそう言って全力で西に向かって走り出した。
近づいていたのは、全身赤い毛を纏った熊のような見た目のモンスターで、走り出した俺をみるなり追いかけてきた。
なんで最初に出会うモンスターが熊なんだよ!しかも3メートルくらいあるじゃねえかよ!
ここで俺の楽しい農業生活は終わってしまうのか……。そう考えながらも走る足を止めなかった俺だったが、いつまでたっても熊型モンスターに攻撃されることはなく、俺は少し振り返った。
「……あれ?あいつ遅くね?」
最初はそこそこ近かったモンスターとの距離も、いつの間にか30メートルほどの距離が空いていた。
時々振り返りながら走っても余裕があるくらいには、モンスターは俺に追いつくことはなかった。
「ステータスが上がると、モンスターから逃げられるほど足が速くなるものなのか?」
しかし、俺のステータスが上がったとはいえ、確か素早さの数値は20くらいだったはずだ。
元々が10ポイントだったから、ステータスも2倍になったのだろうか?
「まあ、モンスターから逃げられるほどのステータスになったのは良かったな。とりあえずはあの熊から逃げないと」
再び振り返ると、すでに俺を追うのを諦めたのか、熊型モンスターは走るのをやめて歩いていたが油断はできない。
俺はとりあえず森を抜けるまでその足を止めることなく走り続けた。
◇
走り続けて間も無く、俺は森を抜けることができた。
森を抜けると、そこには開けた草原が広がっていた。
「ふう……ようやく森を抜けられたな……。ここから北に向かうってことは、あっちだな」
俺は早速北へ向かおうとした。その時、あることに気がついた。
「あ、森から出てきた場所がわからないと、帰る時に困るよな……」
このまま街に向かったとしても、帰る時にどこから森に入ればいいのかわからなければ俺は家に辿り着く自信はなかった。
俺は『資材ショップ』で目印になりそうなものを購入することにした。
「あ、これ最高じゃん」
俺は300ポイントを支払ってある資材を購入した。
目の前に長方形の木箱が現れ、そこから俺は購入したものを取り出した。
「支柱セット〜」
まるでどこかの猫型ロボットが物を取り出すときのように、俺は木箱からコブルコなどの栽培に使う支柱を取り出した。
誰かがこれを持っていかない限りは目印になるだろうと思い購入したのだ。
俺はその場で簡易的に支柱を組み立てた。
そして、もう一つ購入するべきものがあることを思い出した。
俺が購入したのは農作業の時に着る作業着、いわゆるツナギと呼ばれるものだった。
さすがに街に入る時に臭い服を着たままというわけにはいかないと思ったのだ。
俺はその場で着替えることにして、今まで着ていた服は支柱に吊るしていくことにした。
こうして、様々な準備を終えた俺はようやく街へ向けて歩き出すのだった。
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